ニュースイッチ

石炭発電をバイオマスに転換する興味深い理由

中部電力と三菱商事パワー(東京都千代田区)、日本製紙の共同出資会社である鈴川エネルギーセンター(静岡県富士市)は、発電事業を石炭発電からバイオマス発電に転換する。木質ペレットと重油を燃料とする発電出力8万5400キロワットのバイオマス発電所を2022年4月に稼働する予定。環境負荷低減につなげる。

バイオマス発電での年間発電量は一般家庭約19万2000世帯分に相当する約6億キロワット時を想定している。燃料貯蔵設備は新設し、ボイラーやタービン発電機などは既存設備を活用する。プロジェクトファイナンスを組成する。

現在の石炭発電設備は16年の稼働で、定格出力は11万2000キロワット。バイオマス発電への転換で年間約67万トンの二酸化炭素排出量削減を見込む。

日刊工業新聞2019年12月17日
江原央樹
江原央樹 Ehara Hiroki 日本能率協会コンサルティング
本記事の取り組みは以下の点で興味深い。  1.火力発電の燃料を燃焼により化石燃料の中でも多くの二酸化炭素を排出する石炭から、より排出の少ない重油と成長過程で二酸化炭素を吸収する木質チップに変更している点  2.ボイラーやタービン発電設備は既存設備を活かし導入コストを抑えている点  国内の石炭火力発電所の設備容量は現在、4,627万kWであり、仮に本取組と同じ条件の設備更新が行われるとすると二酸化炭素の排出量は年間3.87憶トン削減することが可能となる。これは、2013年時点の日本全体の排出量12.4億トンの約3割であり、2050年時点の年間排出量目標2.4億トン実現に向けて重要な施策となりうる。なお、バイオマス発電については、発電事業のライフサイクル全体における排出量を考える必要がある。「バイオマス白書2019 ウェブサイト版」(© NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク)によると、バイオマス燃料の栽培や運送時に二酸化炭素を多く排出する傾向にあり、農業残渣・もみ殻・林地残材等の地域のバイオマスをその地域で燃料として利用することでライフサイクル全体の排出量を抑えられる可能性があることがわかる。近年気候変動の影響が大型台風や大雨などにより現実のものとなった日本においても、脱炭素化に向けて地域ごとに既存設備も視野に入れた具体的な対策を検討する時が来ている。

編集部のおすすめ