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ゲリラ豪雨、洪水に耐える「耐水害住宅」まもなく商用化

ゲリラ豪雨、洪水に耐える「耐水害住宅」まもなく商用化

防災科研と一条工務店は大雨降雨実験施設を用いた耐水害住宅実大実験を実施。水害を想定し水流も作り出した

台風や豪雨などの災害が大型化し被害が拡大する中、一条工務店はゲリラ豪雨や洪水などの水害に耐えることのできる「耐水害住宅」を開発し、年内の商品化を予定している。10月には防災科学技術研究所との官民共同プロジェクトとして実大規模の実証実験を公開した。一生に何度くるか分からない災害対策となるため費用対効果を考慮。耐水害機能は標準仕様で数十万円レベルを想定し、コストを抑えた低予算で普及を図る。

【3つのポイント】

耐水害住宅は浸水、逆流、水没防止の三つをポイントに開発した。浸水対策箇所は、基礎換気口や壁面、窓、玄関ドアだ。床下に空気を通す基礎換気口には、浮力式の弁を設置して浸水した際に水の流入を止める。壁面は防水シートや防水塗料で止水し、気密性を確保する。玄関扉は、水の浸入口となる鍵穴を通常よりも高い位置に設置した。

逆流対策には配水管に、自動で弁が閉じることによって逆流を防ぐ独自開発の逆流防止弁を取り付けた。豪雨で下水が逆流するとキッチンや洗面所、トイレなどの配水管から汚水が噴き出す危険があるためだ。水没防止としては、ヒートポンプ給湯器や室外機、外部コンセント、蓄電池などの電気設備を高い位置に設置する。

床上浸水を防ぐことで避難所から普通の生活に戻れることを重視した。一条工務店の岩田直樹社長は「普及しやすい安価な技術で、超防災住宅として災害後の生活の質を高いレベルで守りたい」と強調する。災害対策の意識向上にもつなげたい考えだ。

公開実験では、防災科学技術研究所(防災科研)の大型降雨実験施設において大型水槽内に実大サイズの木造2階建て一般住宅と耐水害住宅を用意。水槽への注水や、1時間当たり最大300ミリメートルの降雨強度での散水によって、ゲリラ豪雨による洪水状態を再現した。約1時間かけて実験し、各種計測器や67台の水中・防水カメラを設置して、リアルタイムに両建物の状況を記録した。

【高まる性能】

内部への浸水状況を比較した結果、耐水害住宅は床上浸水はなく実現可能な技術だと証明した。一方、一般住宅はリビングの床上浸水や風呂の浴槽からの逆流などが発生した。一方で、一般住宅では浸水によって外側と内側から押される力が同等になることで、建物にかかる負荷が優しくなることも判明した。

防災科研では、取得した膨大なデータを解析し、建築・保険業界と連携してゲリラ豪雨対策につなげる。防災科研の林春男理事長は「極端気象になって被害が拡大している。官民一体で水害被害を軽減したい」とする。昨今天候が変わり、短時間で豪雨が降るようになった。防災科研の酒井直樹大型降雨実験施設戦略室長は「耐震対策は進んできたが、雨は始まったばかりだ。浸水による浮力のかかるタイミングや耐震の基礎工事対策などを両立していきたい」と展望を話す。

台風やゲリラ豪雨など自然災害が大型化する中で、住宅設備や機能に求められる性能も高まっている。(取材・高島里沙)

日刊工業新聞2019年12月23日

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