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人事制度の改革に乗り遅れるな!“企業劣化”を防ぐあの手この手

人事制度の改革に乗り遅れるな!“企業劣化”を防ぐあの手この手

写真はイメージ

 

先端領域で競う情報通信技術(ICT)業界で、世界で戦えるスキルや知識を備えたトップ人材の獲得合戦が激化している。いまや人工知能(AI)人材の年俸は数千万円とも言われ、終身雇用がベースの既存の給与体系では立ちゆかず、報酬を含め人事制度を刷新する動きが相次ぐ。もちろん、報酬だけで人材をつなぎ留められるわけではない。各業界でも従業員の多様なニーズに対応し、事業環境や時代の変化に合わせて制度を変える企業が増えている。

ICT業界、市場価値で報酬設定

 

ICT業界はもはやハード製品ではもうからず、ソフトやサービス事業への転換を図っている。知財やビジネスモデルを生み出す人材投資が重要で、人事制度を含めて従業員のモチベーションをいかに高めるかが焦点となっている。特にデジタル変革(DX)が加速する昨今は新しいビジネスの創造が最大の課題。卓越した専門性を有する人材を確保し、事業拡大につなげる必要もある。

 

富士通は年齢に関係なく、職務と役割に伴う市場価値で報酬を設定する「ジョブ型人事制度」と、デジタルスキルを中心とする専門性を評価する「高度人材処遇制度」の新設を決めた。ジョブ型は本部長級以上を対象に2019年度中に導入し、20年度以降、順次拡大する。社外からの人材登用も図る計画。年俸3000万―4000万円程度のプレーヤーも国内外で誕生する見込みだ。富士通は20年1月にコンサルティングに特化したDXの新会社を設立する。新人事制度で抜てきしたトップ人材の活躍の場としても注目される。

 

NECもトップ人材の獲得に向けて人事評価制度を刷新するとともに、社内の人材マッチングで新施策に乗り出している。トップ人材獲得は報酬に上限を設けず、博士号などを持つ若手研究者を中心に20人程度を想定。金額は明言していないが、年俸1000万円以上となりそうだ。人材マッチングでは公募や本人の希望で他部門への異動を支援する「社内フリーエージェント(FA)制度」を7月に拡張。社員個人の職務履歴書と、組織が募集する職務記述書を常時公開し、話がまとまれば常時移籍できるようにした。

NTTグループ、世界基準「年俸3000万円超」

 

IoT(モノのインターネット)時代の到来で、ビッグデータ(大量データ)をAIで分析し未来予測や商品開発につなげる新事業の拡大が見込める。ただAI技術者やデータ分析官が少なく、人材の奪い合いになっている。そこでNTTグループ各社は、米IT大手の待遇面に対抗できる年俸3000万円超を可能とする人事制度を導入している。NTTデータは「アドバンスド・プロフェッショナル(ADP)制度」を18年12月に開始。同制度の適用者には市場価値に応じた報酬を年俸で支給する。キャリア採用の規模拡大だけではなく、既存従業員の育成も目的。現状4人が利用する。

 

NTTドコモも新たな成長領域に定めたAI・ビッグデータに特化した技術者として高い専門性を発揮する研究開発分野の3職種向けの人事制度を19年4月に開始。NTTコミュニケーションズは、ビッグデータのマネジメントやクラウドに精通するエンジニアを中心とした中途採用者向けの人事制度を7月に導入した。

保守的な業界も転換

 

ICT業界に限らず、人手不足への対応や働き方改革の推進に向け、企業の人事制度はいま大きな転換点を迎えている。

 

三菱地所は20年1月から従業員の副業を認める。キャリア選択の幅を広げ、スキルアップにつながる挑戦を後押しする。副業を通じて得た知見や人脈は本業に生かしてもらい、新たなアイデアが生まれる環境を育む。19年10月には退職した人を“古巣”に迎える再雇用制度も充実した。配偶者の転勤などに限定していた従来の再雇用制度を見直し、育児や介護、転職や起業などの理由で退職した人にも門戸を開いた。

 

配偶者の転勤に伴う制度も始動した。海外研修や留学といった短期間の転勤に帯同する場合に、退職ではなく休職という選択肢を用意することで働き続けたい希望に対応。転勤がない職種の従業員の配偶者が国内で転勤した場合にも、可能であればグループ内で転居先エリアに異動できる制度を設けた。

 

大日本印刷は雇用や処遇、働き方に関する人事制度を4月に改定。副業・兼業の一部を容認したほか、若手の賞与や賃金水準の向上に加え、同社もプロジェクトマネージャーに手当を支給するICT人材向けの新制度で待遇を強化した。次の成長の柱を築くには、新たな視点や柔軟な発想を持つ人材が存分に活躍できる環境が欠かせない。現在も人事制度の見直しを進めており、シニア世代の処遇、退職給付や定年に関わる制度、同一労働同一賃金への対応を検討の対象に挙げている。

 

積水ハウスは11月から異性婚の配偶者と同様に社内規則や福利制度を適用する「異性事実婚・同性パートナー人事登録制度」を始めた。大手住宅メーカーでは初めてという。従業員が互いの個性や違いを認め、能力を最大限に発揮できる組織を目指す。対象は結婚や忌引などの各休暇、家族などの手当て、慶弔見舞金などの福利厚生関連で適用する。

 

保守的な印象が強い金融業界にも新たな働き方の潮流が押し寄せる。AIG損害保険は4月に会社都合の転居を伴う転勤を廃止した。介護の問題やプライベートの充実など従業員が一番能力を発揮できる環境作りを考え導入した。損保各社も従業員や学生のニーズに対応した採用コースを相次ぎ設置している。それが全国を複数ブロックに分け、その範囲内で転勤する「ワイド型」などと呼ばれるコースだ。全国転勤がないことで学生の不安を軽減でき、幅広い部門を経験することでスキルアップにもつながる。各社の取り組みは優秀な人材を呼び込み、モチベーションを向上させる上でも有効だ。

日刊工業新聞2019年12月4日

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