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日産の新体制が始動、3社連合“立て直し”は同床異夢!?

「形式だけ整えた共同事業を進めるケースが出てきていた」
日産の新体制が始動、3社連合“立て直し”は同床異夢!?

内田新社長

 

日産自動車、仏ルノー、三菱自動車の3社連合トップに君臨したカルロス・ゴーン被告が退場してから1年がたち、連合は転機を迎えた。資本関係という枠組み論にも増して、共同事業の行方が焦点だ。「シナジー」というかけ声ばかりが先行し非効率が目立つようになった反省に立ち、各事業に関し実利を得られるかどうかを見極める動きが出てきた。共同事業の健全化は、1日に発足した新経営体制の最重要課題の一つになる。

<成熟する“連合”>

 

日産の「ナバラ」、三菱自動車の「トライトン」。両社を代表するピックアップトラックをめぐる共同事業ではギリギリの調整が続いている。プラットフォーム(車台)を共同開発し、2020年代前半に投入する次期モデルから一本化する計画を進めてきた。

 

日産にとってナバラは世界戦略車である一方、三菱自のトライトンは東南アジアが中心。日産幹部は「両社にとって利点がある」と強調するが、三菱自幹部は「例えば日産は寒冷地での販売も考えて仕様を決める。それにトライトンを合わせるとオーバースペックになる」と難点を指摘する。

 

開発負担軽減や部品共通化による調達コスト削減につながるプラットフォーム共通化は、自動車メーカーの勝利の方程式。3社連合の共同事業でも“一丁目一番地”であるこのプロジェクトが難航するのは大問題に違いない。

 

しかし「ゴーン体制下では口を挟むことさえできなかった。是々非々で判断できるようになったのは、むしろ健全化の方向だ」と三菱自幹部は語る。ほかにも研究・開発領域の機能統合では、三菱自の参加が停滞する。共同事業の見直しの動きは連合全体に広がる。

 

日産とルノーは99年に資本提携して以来、共同事業を進めてきた。共同購買会社「RNPO」を設立したのは01年、共通プラットフォーム(B)を採用した初のモデルとして日産が「マーチ」を日本で発売したのは02年。歴史は長く、共同開発の対象はプラットフォームだけではなく、エンジンやトランスミッションまで広がる。

 

三菱自は16年10月に連合入りし、すぐさま部品の共同購買事業に着手した。日産とはそれ以前から軽自動車開発で協業しており、今年3月には2代目となる共同開発モデル「eK」(日産名デイズ)を発売。日産とルノーの関係に比べ歴史は浅いが、三菱自も急ピッチで幅広い領域で共同事業を推進した。

 

3社連合の共同事業は領域によっては成熟化しており、日産幹部は「やり過ぎると各社の車の個性がなくなる。限界はある」と話し、三菱自幹部は「残るのは(協業が難しい)“岩盤”だけだ」と打ち明ける。

<シナジー名ばかり、ゴーン時代の歪み解消なるか>

 

ここ数年のゴーン体制下では、実利は二の次でシナジーを求めるあしき習慣できていた。3社連合は毎年、年間シナジーを公表するのが慣例だった。ゴーン被告はこの数値を重視しており、15年度は43億ユーロ(約5183億円)、16年度は50億ユーロ、17年度は57億ユーロと伸びた。

 

ただシナジーの構成要素には、共同事業により回避できたコストといった仮定条件に基づく項目もあるなど「えんぴつをなめて数値をつくれる側面がある」(3社連合関係者)。「ゴーン氏に評価されたい一部幹部が、形式だけ整えた共同事業を進めるケースが出てきていた」(同)という。

 

共同事業は成熟化してきたのが実態なのに、それを無視して強引にシナジーを求めれば、歪みが出るのは当然の帰結。4月、日産の臨時株主総会で西川広人社長兼最高経営責任者(CEO、当時)は「双方が合意できないのであれば、やらないということが一つの手」と指摘し、3社連合の機能統合についても「統合ありきで非常に非効率なことが現場で起きている」と危機感を示した。

 

ナバラとトライトンをめぐる共同事業で健全な議論が起きてきたように、ゴーン被告というくびきが外れ、共同事業を刷新する体制は整った。では、具体的にどう舵を取るべきか。一つの選択肢として挙げられるのは、先端領域に比重を大きくシフトする方向だ。

<CASE対応カギ>

 

自動車産業は「CASE(コネクテッド・自動運転・シェアリング・電動化)」と呼ぶ技術の新潮流が巻き起こす大変革期にある。研究開発費負担は膨大で1社単独で立ち向かうのは難しい。すでに日産・ルノー・三菱自の3社連合は対応を進めており、車載情報機器の基本ソフト(OS)に米グーグルの「アンドロイド」を採用することなどを決めた。

 

今後もCASE分野では車載電池、センサーなどの機器類、自動運転に関するプログラムなどハードとソフトの両面で新規開発案件がめじろ押しで、3社が“ゼロ”から協力できるケースは多い。日産幹部は「将来、連合内で(車載電池などの)種類が増えすぎる結果になりかねない。新分野で協業を深めるのがベストだ」と話す。

 

提携戦略を活用し、CASE時代で生き残りを図るのは、他の自動車メーカーも同じ。トヨタ自動車はマツダ、デンソーなどと電気自動車(EV)の基盤技術開発会社「EV C・A・スピリット」を設立した。またMaaS(乗り物のサービス化)分野ではソフトバンクと設立したモネ・テクノロジーズ(東京都港区)が主軸で、ホンダなども参画する。

 

かつてルノー・日産の専売特許のように使われた「アライアンス(企業連合)」のフレーズは、自動車業界で一般化した。企業連合の競争力は以前にも増して、メンバー企業が連合を活用し、いかに迅速に自社の競争力向上に結びつけられるかという実利によって計られるようになった。

 

日産、ルノーとの間には資本関係の見直しという火種がくすぶる。今は小康状態にあるが、一度は日産に経営統合を求めたルノーのジャンドミニク・スナール会長が蒸し返せば、日産のエンジニアは間違いなく白ける。そうなれば共同事業の健全化の動きがしぼみかねない。日産は1日付で専務執行役員だった内田誠氏が社長兼CEOに就く新経営体制をスタートした。“果実”を得られるよう共同事業の方向性を示し、それに沿う形でルノーとの資本関係を見直していく―。このような理想型を描けるか、手腕が問われる。

(取材・後藤信之)

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