専門家から「正気の沙汰ではない」と怒られた収穫ロボサービスの勝算
inaho(神奈川県鎌倉市)は農業向けに収穫ロボットを開発する。特徴はRaaS(サービスとしてのロボット)として提供することで機体の製造コストを抑える点だ。機体の売り切りでは7年程度の耐久性が求められるが、RaaSモデルでは機体を自社で直しながら使う。収穫重量に応じた従量課金方式をとり、農家の導入リスクも抑える。2022年に1万5000台を稼働させる。(取材・小寺貴之)
「ロボットの専門家からRaaSを『正気の沙汰ではない』と怒られた」―。大山宗哉最高執行責任者(COO)は苦笑いする。17年に菱木豊最高経営責任者(CEO)と2人でinahoを創業した。農作業では収穫作業の自動化が遅れている。根菜や稲、麦のように機械で一度に収穫する作物と違い、トマトやイチゴ、アスパラなどは色や長さを一品一品見定めて収穫する必要があった。
アスパラロボ
見定める目と、周りを傷つけずに一品だけ採る作業の機械化が難しく、いまも手作業に頼っている。こうした選択収穫野菜は鮮度が重視され付加価値は高いが、農家の高齢化や人手不足で収穫人員の確保が難しい。
見方を変えると収穫を自動化できれば作付面積を拡大できる。そこでinahoはアスパラの収穫代行を始めた。クローラーロボが畝の間を走り、アスパラの長さを測って一本一本収穫する。アスパラの認識に距離カメラを採用。収穫には先端にカッターのついたアームを伸ばし、茎を摘まんで切る。畝の両側からアームを伸ばせる畑なら80%を収穫できる。
耐久性対コスト
問題はコストだ。収穫ロボにはパート3人分の働きを担わせる。パート1人60万円として、収穫ロボの利用料が150万円になれば導入が進む。ただ工場や倉庫で使われる搬送ロボはその数倍の価格で売られている。
そこでRaaSモデルを考案した。大山COOは「耐久性を求めなければ安価な部品を使える。センサーなどは年々進化し安くなる。その時々の最も良い部品に交換する」と説明する。センサーやCPUなど、半導体製造プロセスで作られる製品は値段が下がる速度が速い。対して産業用モーターの値下がりは遅い。修理頻度が増えるとフィールドエンジニアを多く抱える必要がある。これが正気を問われた由縁だ。
勝算はある。ロボは交換前提で設計した。9月に佐賀で有償サービスを始めたところ「想定以上に壊れなかった」(大山COO)。ロボが収穫しやすい植え付け配置など、農家側の改善策も見えてきた。
RaaSが成立すると耐久性対コストの壁にぶつかっていたロボットたちの採算がとれるようになる。幅広い波及効果が期待される。