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「燃料電池電車」実用化へ、課題は何だ?

鉄道総研とJR東が2つのアプローチ
「燃料電池電車」実用化へ、課題は何だ?

鉄道総研の所内試験線で走行を始めた新たな燃料電池ハイブリッド電車試験車

 鉄道総合技術研究所(鉄道総研)は新しい燃料電池ハイブリッド試験電車を完成し、所内で走行試験に着手した。燃料電池電車はJR東日本と鉄道総研が06年にそれぞれ走行試験を実施。技術開発で世界をリードしていたが、営業運転は欧州に先を越された。JR東は2024年度の実用化を目指して、21年度に新たな試験車を完成させる計画だ。JRグループで開発を進める二つの燃料電池電車の違いや実用化への課題について探った。

 燃料電池電車は非電化区間で従来のディーゼル車両を置き換え環境負荷の低減を狙いとする。同じ狙いである蓄電池駆動の電車は国内でも、すでに営業を始めているが、航続距離の短さが欠点。燃料電池とハイブリッドにして、これを補う。

 総研の舘山勝研究開発推進部長は燃料電池電車について「法規制の問題はあるが、実用段階にある」と話す。基礎技術は確立したものの、電池コストや水素供給インフラ、高圧水素規制などが壁となって歩みが進まなかった。JR東が営業運転を実現するには技術開発に加えて、これら課題への対応が必要だ。

 JR東、総研とも新たな試験車の燃料電池には、18年にドイツで運行を始めた仏アルストム製燃料電池電車と同じく、カナダ・ハイドロジェニックス(オンタリオ州)の固体高分子型燃料電池(PEFC)を採用する。

 JR東と総研の試験車はともに2両編成。しかし、燃料電池の出力や水素タンクの搭載位置、スペックに大きな違いがある。JR東は出力180キロワットの燃料電池を2基採用し、燃料電池車(FCV)と同じ70メガパスカル(メガは100万)のタンクを屋根上に搭載した。総研は同90キロワット2基を採用し、従来同等の35メガパスカルタンクを床下に積む。

 ここに両者のコンセプトの違いが明確に表れている。JR東の試験車は架線から給電する機能を持たず、加減速時には燃料電池の出力を、必要な電力量に追従して制御する。郊外路線の架線レス化、地上設備の軽減によるメンテナンス省力化を視野に入れているためで、燃料電池は大きなものが必要となる。

 一方、総研の試験車は架線給電にも対応。燃料電池は電池の充電率(SOC)に合わせて一定の出力で運転、蓄電するシリーズ(直列)ハイブリッドだ。試験車に乗車すると、加速時の感覚は営業中の蓄電池車そのものだった。総研は、あらゆる鉄道に幅広く採用される可能性のある技術「未来の電車の一つの形」(古川敦総務部長)としてシステムの低コスト化、小型化を追求していく方針だ。

 基礎技術は確立済みとはいえ、実用化には蓄電池の充放電制御、車両に搭載した燃料電池の耐久性や信頼性の確認なども不可欠。総研の試験車による研究はJR東と共有し、営業運転を目指す開発にも役立てられる。カーボンフリー水素の調達など水素社会の実現には、FCVの技術を持つトヨタ自動車や水素供給事業者ら異業種との連携や、安全を担保するために行政当局との協業も欠かせない。

JR東はメンテナンス省力化を視野に入れる(イメージ)
日刊工業新聞2019年10月30日

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