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発電だけじゃない、木質バイオマスの利用

遠野市で地域活性化の実証
発電だけじゃない、木質バイオマスの利用

工場の残材

 富士通総研(東京都港区、本庄滋明社長、03・5401・8391)は岩手県遠野市に協力し、木質バイオマスエネルギーをテコとした地域活性化の実証事業を始める。木質バイオマスというと発電を思い浮かべるが、同市では熱利用する。地域に豊富な森林資源をボイラの燃料にして地元で使い、地域の製材業を活性化するモデルづくりを目指す。(松木喬)

 遠野市は岩手県の内陸部と沿岸地域の中間に位置し、総面積の80%を森林が占める。実証事業は林野庁の「木質バイオマスエネルギーを活用したモデル地域づくり推進事業」の補助金を活用して進める。
 ボイラは市内の入浴施設「水光園」と木工団地に導入する。水光園はボイラを湯沸かしや暖房に活用。団地では入居する製材工場がボイラ1台を共同運用し、仕入れた木材の乾燥に使う。水光園では7―8月ごろ、団地では2016年春にそれぞれボイラが稼働する予定だ。

 ボイラの燃料は製材工場で発生する残材。いまでも工場で燃料に使う場合があるが、有償で処分してもらっている残材も多い。再生可能エネルギーによる電力の固定価格買い取り制度は木質バイオマス発電の燃料によって買い取り価格が違う。山から切りだした未利用材がもっとも高く、残材は低く設定されているため発電への利用も進みにくい。

 ボイラの燃料にすれば製材工場は残材処理の問題から解放され、経営的メリットが生まれる。ボイラを使う側も燃料費を節約できる。富士通総研の試算によると残材の燃料価格は重油や灯油の半分に収まる。ゼロかマイナスの価値だった残材に石油代替燃料としての価値が生まれる。事業では森林で発生した林地残材をチップにして運ぶコンテナも導入し、ボイラの燃料を増やす計画だ。林地残材の活用は森林整備を促すので、林業の活性化も期待できる。

 森林資源を最適利用するサプライチェーン構築が実証事業の目的の一つだ。木工団地の製材工場は他の地域から木材を仕入れていた。今回の事業をきかっけに遠野産の木材を地元の製材工場で加工する。しかもボイラ燃料の支払先は地元になるので木質バイオマスの地産地消化によって地域でお金が循環する仕組みが整う。
 ボイラの導入に投資はかかるが、燃料費が半減される効果で早期の投資回収を見込む。水光園では補助金を含めて5―6年での投資回収を目指す。「しばらくは補助金を活用するが、徐々に補助金がなくても事業が回るモデルを目標にしたい」(富士通総研)。

 固定価格買い取り制度が始まり、木質バイオマス発電所が各地に建設されている。林業の活性化に貢献しているが、売電収入が頼りなので買い取り価格に事業が左右されやすい。買い取り期間が終わった後の事業継続も課題だ。石油燃料よりも残材燃料が安い限り、木質バイオマスの熱利用は持続可能な事業となりそうだ。
(2015年04月09日 建設・エネルギー・生活2)
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
記事には書き込めませんでしたが、ドイツなど欧州がモデルの試みです。エアコンや石油ストーブで暖房をし、ガスでお湯を沸かす日本と違い、ドイツでは暖房も給湯もボイラーです。木質バイオマスを燃料としたボイラーも多く、燃料供給や灰の処理を自動化したボイラーもあるそうです。遠野ではオーストリア製ボイラーを導入して木質バイオマスを石油代替燃料として使う予定です。日本の森林蓄積量はドイツの倍以上と言われています。森林資源をもっと有効活用するために海外がお手本になりそうです。

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