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自治体向けの災害対策システムで標準装備を狙う日本IBMの戦略

盛岡市発-国交省経由-全国へ。電子地図で新情報重ねる
自治体向けの災害対策システムで標準装備を狙う日本IBMの戦略

電子地図上で、すべての情報を一元管理できる

 日本IBMは東日本大震災の直後に「サハナ」と呼ぶオープンソース(無償公開)の救援情報共有システム(英語版)をいち早く日本語化し、被災した岩手県の避難所での支援活動に貢献した。これを契機に官公庁向けソリューションとして、災害対策に向き合ってきた。2013年には災害時、住民に迅速な意思伝達ができる「災害情報連携システム」を盛岡市向けに構築、翌14年には国土交通省から「電子防災情報システム」の開発を受注し、15年4月に稼働させるなど着実に実績を積み上げている。

 当時、避難所への支援では紙(書面)での情報伝達を電子化することに力を注いだ。自衛隊が避難所を巡回して、書面でやりとりしていた情報共有の仕組みをシステム化し、避難所から直接、タブレット端末(携帯型情報端末)で要望を伝えたり、必要な情報を入手したりできるようにした。

 その後も日本IBMは複数の自治体と意見交換しながら、災害対策の情報連携のあり方を検討。開発や営業を一手に担ってきた大橋将之日本IBM官公庁事業部第二ソリューション推進部課長は「事業者側の思い込みだけで作ったシステムは使い物にならない。有事の時は対策本部に防災担当が来るとは限らず、限られた職員数でも使いこなせる仕組みが必要だ」と指摘する。

 通常、自治体では災害が発生すると、大きな紙の地図を広げて、被災状況などをサインペンで書き込んだり、ポストイットを貼り付けたりして、全体を俯瞰(ふかん)する。対策本部に資料を提供する際は、時間帯を区切って最新情報としてまとめ上げるが、被害の規模が大きいと、情報が交錯し手間がかかる。

 盛岡市向けに構築した災害情報連携システムは各自治体の防災業務の手順を踏まえ、”電子化した地図“を起点に刻々と変化する情報を重ね合わせていく仕組みとした。

 13年4月に稼働し、9月に避難訓練を計画していたところ、訓練前に盛岡市をゲリラ豪雨が襲い、約3000人に避難勧告を発令する事態となった。だが、全職員が自らのタブレット端末やスマートフォンを使って、被害状況や避難所の情報、安否情報などを発信・収集して、災害対策本部での支援活動に役立てた。期せずして「訓練しなくても使えることが分かり、使い勝手のよさを実証できた」(大橋氏)。

 国交省向けの電子防災情報システムは盛岡市に納めた災害情報連携システムを土台に、国土地理院と共同開発したもの。最先端の地図の技術を入れこんだのがミソで、「電子地図による情報共有に加え、防災ヘリコプターで撮影した上空からの画像を電子地図にリアルタイムで重ね合わせることも可能。

 被害の状況が一目で分かるため、救援隊の派遣などの計画策定が早期化できる」(同)。このシステムは防災センターや地方整備局なども利用できる。大橋氏は「全国の自治体で標準装備できるようにしたい」と今後を展望する。
(文=斎藤実)
日刊工業新聞2015年09月07日 モノづくり面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
防災の地域拠点化を担っていきそうなコンビニ。その中でも防災に最も力を入れているセブン・イレブンのシステムなどと連携できれば、もっと利便性があがりデファクトに近くなる。公共と民間の情報がどこまで共有できるかだが。

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