ドローンの発着台まで!「軽トラ」はどこまで進化する?
ダイハツ工業は8日、農業用飛行ロボット(ドローン)の発着台を搭載した軽トラック(写真)を9日に公開すると発表した。9日から幕張メッセ(千葉市美浜区)で開かれる展示会「国際次世代農業EXPO」で参考出品の形で展示する。ドローン製造のナイルワークス(東京都渋谷区)と共同開発した。
ドローンを軽トラックで農地に運び、荷台から降ろすことなくドローンを発着できる。ドローンを使った農薬散布や農作物の生育診断といった作業を1人で行えるように、作業負担を減らす。
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私たちが当たり前に使う日用品が、いつのまにか使いやすく進化を遂げているのに驚くことがある。
たとえば歯磨き粉のチューブ。昔のそれを覚えているだろうか。フタは小さく、開けるのに少し力が必要だった。閉めるときも、しっかりギュッとひねらないと閉まらず、中身が少し漏れたりもする。残りが少なくなると絞り出すのに苦労する。おまけに、置いた時に安定しないので、決まった位置になかったり......
それが今はどうだろう。現在市販されているほとんどの歯磨き粉チューブは、たいてい上記の欠点をすべてクリアしている。フタが大きくなり、少しひねっただけでパカっと開く。ひねらずに親指で持ち上げるタイプもある。閉めるときも簡単にカチッと閉まる。中身が残り少なくなっても、チューブ本体を軽く押すだけですぐ出てくる。そして、フタを下に立てて置くことができ、安定する。
こうしたチューブの進化を、メーカーは声高に宣伝していないようだ。歯が白くなる、虫歯や歯槽膿漏が防げるなどといった中身の機能についてはCMなどで盛んにアピールされているにも関わらず。チューブは無口だが着実に消費者のニーズに応えてきたのだ。
クルマの世界で歯磨き粉のような日用品にあたるのは「軽トラック(軽トラ)」だろう。『軽トラの本』(三栄書房)では、日常的すぎるがゆえにメディアなどで取り上げられることの少ない軽トラに、人気の自動車評論家がスポットを当てている。シェア上位の人気車種や生産中止になった幻の車種などを取り上げ、開発秘話を織り交ぜながらその魅力、存在意義に迫る。
著者の沢村慎太朗さんは1990年代から編集プロダクションで自動車雑誌の編集に携わった後に独立、フリーの自動車評論家として各種メディアで活躍中だ。他の著書に『スーパーカー誕生』(文春文庫)などがある。
沢村さんいわく、軽トラは自動車の本来あるべき姿を体現している。今の新型車の多くは無駄に多機能で「浅薄な自己主張をするだけ」、軽トラに乗ると「自動車とはこういうものでいいのだ」と実感するのだという。
軽トラは、とにかく実用の一点張りだ。乗り心地など、ほとんど考慮されていない。そもそも長距離を走ることは少なく、頻繁に乗り降りするものだから、それで構わないのだ。
軽トラの真骨頂は、荷物をたんまり載せた時の運転性能だ。へたることなく、スイスイ走る。350キログラムという法規制上の積載重量制限はあるのだが、業務では800キログラムくらい平気で載せる。それでいて、近所の買い物など日常的なアシにも使われ、空荷で走ることも多い。つまり、ゼロから800キログラムのレンジに対応できる柔軟な性能が要求されるのである。
軽トラ界には「二大巨頭」がいる。スズキのキャリィとダイハツのハイゼットだ。両者でシェアのほとんどを占める。本書ではそれぞれの開発担当者に話を聞いている。なお、両車種とも2013年から14年にかけてモデルチェンジを図ったばかりだ(耐久性のある軽トラはモデルチェンジの間隔が比較的長い)。
キャリィの開発担当者によれば、軽トラは、短所と引き換えに長所を飛躍的に伸ばすような「冒険」はできないのだという。業務上支障がでる欠点が少しでもあると、それだけでそっぽを向かれてしまうからだ。おまけに、JAなどで横のつながりが強いため、悪い評価は一気に広まる。
今回のキャリィのモデルチェンジでは、乗降性にこだわったそうだ。長靴を履いて乗る人が多いので、それだけ足入れ性を確保するようにした。
一方、ハイゼットは居住性を高めた。キャビンを広くしたのだ。なぜなら、主なユーザーである農林水産業従事者には世代交代が訪れており、若い世代は確実に体格が大きくなっているからだ。さらに、農業や工事現場などでは外国人の就労者も増えている。
ただしその一方で、ユーザーにはお婆ちゃんもいるし、女性も多くなっている。下限はそのままに、上限を広げる工夫が必要だった。
2013年に原書が刊行された『インサイドボックス 究極の創造的思考法』(文藝春秋)では、制約がある中で創造的なアイデアを生み出す「インサイドボックス思考法」が紹介されている。
何も制約のない自由な条件(アウトサイドボックス)では、却って考えがまとまりづらい。ジョンソン&ジョンソンでイノベーションを指導してきた著者は、制約、すなわち枠があるからこそ、思考を集中させることができると説く。
軽トラも、実用性という固い枠が存在する。その中で着実にニーズに応えたイノベーションを繰り返してきた。おそらくそうして培われたイノベーション力は、他の車種にも応用できるのではないだろうか。たとえば、居住性が要求されない、貨物専用の自動運転車はどうだろう。
ますます多様化が進む時代、軽トラの骨太な実力を応用しない手はないのかもしれない。常に実用性の高い水準が求められる軽トラは、強力なイノベーションのポテンシャルを秘めている。
(文=情報工場「SERENDIP」編集部)
『軽トラの本』
沢村 慎太朗 著
三栄書房
175p 1,500円(税別)>
ドローンを軽トラックで農地に運び、荷台から降ろすことなくドローンを発着できる。ドローンを使った農薬散布や農作物の生育診断といった作業を1人で行えるように、作業負担を減らす。
日刊工業新聞2019年10月9日
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私たちが当たり前に使う日用品が、いつのまにか使いやすく進化を遂げているのに驚くことがある。
たとえば歯磨き粉のチューブ。昔のそれを覚えているだろうか。フタは小さく、開けるのに少し力が必要だった。閉めるときも、しっかりギュッとひねらないと閉まらず、中身が少し漏れたりもする。残りが少なくなると絞り出すのに苦労する。おまけに、置いた時に安定しないので、決まった位置になかったり......
それが今はどうだろう。現在市販されているほとんどの歯磨き粉チューブは、たいてい上記の欠点をすべてクリアしている。フタが大きくなり、少しひねっただけでパカっと開く。ひねらずに親指で持ち上げるタイプもある。閉めるときも簡単にカチッと閉まる。中身が残り少なくなっても、チューブ本体を軽く押すだけですぐ出てくる。そして、フタを下に立てて置くことができ、安定する。
こうしたチューブの進化を、メーカーは声高に宣伝していないようだ。歯が白くなる、虫歯や歯槽膿漏が防げるなどといった中身の機能についてはCMなどで盛んにアピールされているにも関わらず。チューブは無口だが着実に消費者のニーズに応えてきたのだ。
クルマの世界で歯磨き粉のような日用品にあたるのは「軽トラック(軽トラ)」だろう。『軽トラの本』(三栄書房)では、日常的すぎるがゆえにメディアなどで取り上げられることの少ない軽トラに、人気の自動車評論家がスポットを当てている。シェア上位の人気車種や生産中止になった幻の車種などを取り上げ、開発秘話を織り交ぜながらその魅力、存在意義に迫る。
著者の沢村慎太朗さんは1990年代から編集プロダクションで自動車雑誌の編集に携わった後に独立、フリーの自動車評論家として各種メディアで活躍中だ。他の著書に『スーパーカー誕生』(文春文庫)などがある。
沢村さんいわく、軽トラは自動車の本来あるべき姿を体現している。今の新型車の多くは無駄に多機能で「浅薄な自己主張をするだけ」、軽トラに乗ると「自動車とはこういうものでいいのだ」と実感するのだという。
軽トラは、とにかく実用の一点張りだ。乗り心地など、ほとんど考慮されていない。そもそも長距離を走ることは少なく、頻繁に乗り降りするものだから、それで構わないのだ。
軽トラの真骨頂は、荷物をたんまり載せた時の運転性能だ。へたることなく、スイスイ走る。350キログラムという法規制上の積載重量制限はあるのだが、業務では800キログラムくらい平気で載せる。それでいて、近所の買い物など日常的なアシにも使われ、空荷で走ることも多い。つまり、ゼロから800キログラムのレンジに対応できる柔軟な性能が要求されるのである。
実用性という厳しい制約の中で進化
軽トラ界には「二大巨頭」がいる。スズキのキャリィとダイハツのハイゼットだ。両者でシェアのほとんどを占める。本書ではそれぞれの開発担当者に話を聞いている。なお、両車種とも2013年から14年にかけてモデルチェンジを図ったばかりだ(耐久性のある軽トラはモデルチェンジの間隔が比較的長い)。
キャリィの開発担当者によれば、軽トラは、短所と引き換えに長所を飛躍的に伸ばすような「冒険」はできないのだという。業務上支障がでる欠点が少しでもあると、それだけでそっぽを向かれてしまうからだ。おまけに、JAなどで横のつながりが強いため、悪い評価は一気に広まる。
今回のキャリィのモデルチェンジでは、乗降性にこだわったそうだ。長靴を履いて乗る人が多いので、それだけ足入れ性を確保するようにした。
一方、ハイゼットは居住性を高めた。キャビンを広くしたのだ。なぜなら、主なユーザーである農林水産業従事者には世代交代が訪れており、若い世代は確実に体格が大きくなっているからだ。さらに、農業や工事現場などでは外国人の就労者も増えている。
ただしその一方で、ユーザーにはお婆ちゃんもいるし、女性も多くなっている。下限はそのままに、上限を広げる工夫が必要だった。
2013年に原書が刊行された『インサイドボックス 究極の創造的思考法』(文藝春秋)では、制約がある中で創造的なアイデアを生み出す「インサイドボックス思考法」が紹介されている。
何も制約のない自由な条件(アウトサイドボックス)では、却って考えがまとまりづらい。ジョンソン&ジョンソンでイノベーションを指導してきた著者は、制約、すなわち枠があるからこそ、思考を集中させることができると説く。
軽トラも、実用性という固い枠が存在する。その中で着実にニーズに応えたイノベーションを繰り返してきた。おそらくそうして培われたイノベーション力は、他の車種にも応用できるのではないだろうか。たとえば、居住性が要求されない、貨物専用の自動運転車はどうだろう。
ますます多様化が進む時代、軽トラの骨太な実力を応用しない手はないのかもしれない。常に実用性の高い水準が求められる軽トラは、強力なイノベーションのポテンシャルを秘めている。
(文=情報工場「SERENDIP」編集部)
ニュースイッチ2017年08月27日
沢村 慎太朗 著
三栄書房
175p 1,500円(税別)>