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それぞれの夢を後押ししする京都伝統工芸大、次世代の育み方

それぞれの夢を後押ししする京都伝統工芸大、次世代の育み方

竹工芸の実習に取り組む田中南帆さん

 世相を一文字で表す「今年の漢字」。清水寺の森清範貫主が巨大和紙に特大の筆で揮毫(きごう)する年末の恒例行事。今年は地元・京都伝統工芸大学校(京都府園部町)の学生が制作した手すき和紙が用いられる。

 大粒の汗を流しながら作業にいそしむのは、和紙工芸専攻の3年生、足立桜さん(21)。「自分たちの携わった作品が多くの人の目に触れると思うとわくわくします」。傍らで指導する茂庭弓子先生はカリキュラムの特徴について、「京都に伝わる黒谷和紙の技法を基本としながらも、卒業生がさまざまな産地で活躍できるよう指導しています」と語る。

 ライフスタイルや産業構造の変化、職人の高齢化など、産地を取り巻く環境は厳しい状況にある。一方で、伝統工芸に興味を持つ若い世代は少なくない。彼ら・彼女らの可能性を引き出し、活躍の場をいかに広げるかは伝統工芸の世界のみならず、地域経済の活性化においても大きな課題である。

 伝統工芸は、厳しい徒弟制度や世襲によって伝えられきた面が色濃く、産地によっては門外不出とされてきた歴史もある。時代の変化を見据え、「伝統工芸の後継者を育て産学官が一体となって新たな潮流を生み出す」ことを狙いに1995年に開校したのが京都伝統工芸大学校である。

 今年25周年を迎えた同校では現在、約380人が学んでいる。その特徴は、体系的なカリキュラムや実践的な演習内容にある。漆工芸や蒔絵(まきえ)、竹工芸、石彫刻など、ここでしか学べない11の専攻を設けており、それぞれに、その技を極めるプロとしての道、あるいはその技を生かすクリエーターを目指すのかを選択できる。授業のおよそ8割が伝統工芸士や名工から学ぶことができる実習や演習で構成されており、技術や感性だけでなく、ものづくりの神髄に触れることができる。

 京手描き友禅専攻の2年生、伊藤隆弘さん(20)は、志望動機をこう語る。「実家は宇治で抹茶づくりしていることもあり、お茶や着物が身近にある環境で育ちました。染色は他の学校でも学ぶ機会はありますが、工芸士の先生から直接学びたいと思いました」。将来は友禅を職にしたいと考えている。

京手描き友禅を学ぶ伊藤さん

 木彫刻専攻3年生の望月つかささん(21)は、高校3年生までは医療分野への進学を考えていたが、「木地に色を施す彩色の存在を知り『これだ』とひらめきました」。

 卒業制作へ向け、黙々と手先を動かすのは仏像彫刻専攻の4年生、飯村友紀さん(21)。東京出身で、仏像とは縁もゆかりもない生活を送っていたが、偶然、町で見かけた仏像の制作風景に衝撃を受け、この道を志したという。

立体物に興味があったと語る仏像彫刻専攻4年生の飯村さん

 金属工芸専攻3年生、須藤智恵さん(20)は美大の付属高校で金属工芸に出会い、「美術的なオブジェよりも、日常遣いできる工芸品に魅力を感じ、この世界にのめり込みました」と語る。伝統とコンテンポラリーな要素を融合した作品づくりを目指している。

「本当にやりたかったこと」探して


 社会人を経験しながらも、「本当にやりたかったこと」を追求する人もいる。蒔絵専攻の4年生、太田知良さん(44)は、20年あまりデザイン関係の仕事に携わっていたが、華やかでありながらも華美でない繊細な蒔絵の技法に魅せられ、この道を志している。9月中旬にフランス留学から帰国したばかりの新村真規人さん(35)も社会人経験者。塾講師などを経て、陶芸家の道を志す。

 そんな新村さんが指導を仰ぐ工藤良健教授はこう語る。「陶芸の技術は形を作るろくろ成形と、これを加飾する絵付けの技術に分かれますが、分業化されているのが一般的でした。しかし、これからの時代、一人ですべてできる方が可能性は広がります」。実際、教室では、一人一台の電動ろくろや絵付け台、さらには計6基の電気窯が装備され、総合的な陶芸の技を習得することができる。

 学生の多くは、言うまでもなく、「幼い頃からものづくりが好き」と自認する。前出の新村さんとともにフランス留学していた竹工芸専攻2年生の田中南帆さん(20)は、往復の飛行機内でも竹を編み続けていたと言うほど、「繊細な作業を根詰めるのが好き」。

左から須藤智恵さん、望月つかささん、新村真規人さん、田中南帆さん

 そんな学生が、それぞれの分野の基礎から応用まで体系的に学び、社会に踏み出す第一歩は、全国の産地の工房や窯元、あるいは企業への就職が中心。その後、スキルを磨いて独立し作家やアーティスト、デザイナーとして活躍するケースもある。一方で学生たちが、危惧するのは「産地での就職先が少なくなっている」実情だ。安価な海外生産品の流入や、原材料の調達が困難になるなど構造的な問題が背景にある。

 次代を担う人材が、これまでの枠にとらわれない多様な活躍スタイルを示すことが、伝統工芸産業の活性化につながり、ひいてはこの世界を目指す人材がさらに増える好循環をもたらすだろう。


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経済産業省では11月を「伝統的工芸品月間」と定め、伝統的工芸品の魅力を発信するためのイベントを実施しています!
 ■ 11/3~5 伝統的工芸品全国大会(岩手大会)
 伝統的工芸品月間のメインイベント!岩手県にて全国の伝統的工芸品を一堂に会した展示・販売・製作実演等を行います。

 ■ 10/18~10/31 JAPAN TRADITIONAL CRAFTS WEEK
 都内のライフスタイルショップ32店舗で、全国各地の伝統的工芸品のPRやオリジナル商品を展示販売します。スタンプラリーやインスタグラムを使ったフォトコンテストなどもありますので、ぜひ店舗をめぐってみてください!

 ■ 10/21~11/8 経産省本館1階での伝統的工芸品展示
 経産省本館1階ロビーにて、全国各地の伝統的工芸品や全国大会の概要等を展示します。お近くにお越しの際にはぜひご覧ください!
神崎明子
神崎明子 Kanzaki Akiko 東京支社 編集委員
METIジャーナル次回の政策特集は「広がる標準化」です。ご期待下さい。

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