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<社説この一選!8月編>技能五輪ブラジル大会-4連覇韓国と日本の沽券

メディアも、仕事の楽しさややりがいを広く若者に発信すべき
<社説この一選!8月編>技能五輪ブラジル大会-4連覇韓国と日本の沽券

「移動式ロボット」は日本と韓国が金メダルを分け合った

 ニュースイッチが独断で選ぶ8月の社説この一選は、ブラジルで開かれた技能五輪国際大会について。日刊工業新聞は毎回、技能五輪の世界大会に記者を派遣し、国内のどこのメディアよりも詳細な報道をその意義を伝えている。今回も開幕前に社説で、若者に「仕事の喜び」を伝えていく重要性を指摘し、閉会後も連載を通じ課題などを検証した。

 現地取材した記者によると、気がかりに感じたのは日本におけるこの大会の認知度の低さだという。所属企業や国を背負い、技能世界一を目指して競い合う日本代表選手の多くは、競技を志したきっかけに「あこがれ」を挙げる。モノづくり立国を掲げる日本だけに、関係者の盛り上がりにとどまらない対外的なアピールをもっとできないものか。検証編では、韓国などと比較した国家戦略の必要性を指摘している。

 <社説=8月11日付>
 技能五輪国際大会がブラジル・サンパウロで11日(日本時間12日)に開幕する。次代を担う世界の若者が50職種の競技で火花を散らす。日本からは女性8人を含む45人が参加する。選手の健闘を祈る。同時に技能五輪を選ばれた一部の技能者だけではなく、若者の仕事へのモチベーションを高める機会としても活用したい。

 国際大会は今回で第43回。日本は1962年に初参加した。今大会は過去最高の1150人超が出場する。日本人選手は前回とほぼ同数だが、日本企業に属する選手はここ数年増えてきた。デンソーは過去最高の16人の選手を今大会に送り込む。これまでの日本、タイ、インドネシアに加え、新たにベトナムの現地法人から「CNCフライス盤」と「工場電気設備」職種に参戦する。

 同社はじめ多くの企業は、技能五輪を通じて生産現場や開発部門のリーダーとなる人材を育成している。技能五輪への挑戦は、地道な訓練と心身の鍛錬を通じて、また大舞台でのプレッシャーに打ち勝つ精神力をはぐぐむ。高いスキルを持つ選手は生産や開発における実務能力も優れているという。多くの選手OBは後輩選手の指導にあたるため、指導者としての経験も積める。

 デンソーでは技能五輪を通じた人材育成を海外でも展開している。すでに何回も世界大会に選手を送り出しているタイ現地法人では、技能五輪経験者が若手の中核的な人材になってきたという。

 日本で若者がモノづくりに触れる機会は減っている。製造業を身近に感じる学生がどれだけいるだろうか。そんな中、技能五輪は若者の目を引く取り組みの一つではある。しかし一方で選手が”特別な人“ととらえられている懸念はないだろうか。

 我々メディアも「技のすばらしさ」や「鍛錬の厳しさ」ばかりを伝えがちだ。本来は、選手らの取り組みを通じて、仕事の楽しさややりがいを広く若者に発信すべきだろう。モノを作る喜びや仕事に打ち込む楽しみは、技能五輪のようなトップレベルの人だけのものではない。

「検証」必要な国家戦略−国際大会の“技能伝承”を


日刊工業新聞2015年08月27日付


 ブラジル・サンパウロで8月16日(日本時間17日)に実施された「第43回技能五輪国際大会」の閉会式。各職種の銅メダル以上の選手は国・地域名をアナウンスされ、順番にステージに上がった。この時点でメダルは確定。銅メダルから発表されていくと、メダリストとなった選手や会場の選手団は歓声を上げて大いに盛り上がった。

 日本は6連覇した「情報ネットワーク施工」や3連覇の「自動車板金」「製造チームチャレンジ」「電子機器組立て」「移動式ロボット」の5職種で金メダルを獲得した。

 金メダル獲得数で4連覇した韓国は5大会連続で2ケタの金メダルと圧巻。開催国のブラジルも前回13年のドイツ・ライプチヒ大会の4個から11個にジャンプアップ。中国は参入3大会目にして早くも初の金メダルを今大会で4個も手にした。

 これらの国・地域と日本との違いは、国際大会に取り組む体制だ。韓国やブラジルは国家戦略で大会に臨む。国内大会は国際大会の内容に準拠し、国内大会を学生が争う韓国では、優勝者らは大企業への就職が決まり、所属先企業や公団で強化訓練を受ける。さらに国際大会で結果を出せば兵役免除や賞金などが与えられる。

 一方、日本では技能に対して意識の高い大企業を中心に選手を育成している。いわば企業任せの体制。今大会でもトヨタ自動車とデンソーの選手がそれぞれ金メダル2個を獲得するなど、底力をみせつけた。

 ただ、企業が技能五輪に参加するのは、若手技能者を育てて技能伝承を円滑に進める目的も大きい。日本での国内大会が、国際大会の内容と違っているのは、技能習得を優先したい企業からの要望も根強いためだ。現状を考えると、基本技能の習得と国際大会の好成績を両立する術を探らねばならない。

 また企業主導に頼りすぎると、国際大会の対策や情報が断絶する懸念もある。2年に1度の国際大会は、各職種で代表1人(1チーム)のみ。大会ごとに選手を送り出す企業も変わってくる。ルール改正などが頻繁にあるため、競技情報の把握は勝敗にも影響する。日本代表は現場レベルで情報共有を進めるとはいえ、限界がある。

 3連覇を狙った「ITネットワークシステム管理」で敢闘賞(8位)だった伊藤直輝選手(トヨタ)は「くやしい。(次回17年の)アブダビ大会で後輩に金メダルを取らせたい」と、指導員として気持ちを新たにする。国際大会への出場は一生に1度の決まり。メダルを獲得した選手と同様に、手の届かなかった選手の経験も貴重な財産だ。

 国際大会で強豪国に対抗するためには、チーム・ニッポンとして国際大会の“技能伝承”も求められる。
(文=今村博之)
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
今年の米DARPAロボティクスチャレンジでも韓国チームが優勝した。最近、韓国は決められたルールに照準を合わせコンペテションを勝ち抜くことを得意としている。以前は日本がそのようなことを得意としていたと思うが、社会環境(経済、教育、労働など)が変化してきたのだろう。それは若い人たちにとって悪いことばかりではない。メダル数が、そのまま製造業の競争力に直結するわけでもない。技能五輪の一方で、自由な発想でモノづくりに取り組むハードウエアベンチャーや起業家も確実に増えてきている。

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