MRJが受け継ぐ"零戦"の精神
開発者が語る「日の丸ジェット」の実力は?
三菱重工業子会社の三菱航空機(愛知県豊山町)が2008年から開発する国産初の小型ジェット旅客機「MRJ」(三菱リージョナルジェット)。その初飛行がいよいよ来月に迫ってきた。同社は10月後半をめどに愛知県営名古屋空港(同)を拠点に飛行試験を始めると発表。インターネットで生中継も検討している。
三菱重工業といえば、戦前にはあの「零戦」(零式艦上戦闘機)を開発したことで有名だ。零戦の主任設計者は映画「風立ちぬ」のモデルにもなった堀越二郎氏だが、実は現代の三菱航空機にも、「MRJの堀越二郎」と社内で言われる技術者がいる。岸信夫副社長(56)、その人である。
岸氏は1982年(昭和57)に三菱重工業に入社後、日米共同開発の支援戦闘機「F2」など、防衛省向けの戦闘機設計に長く携わってきた。05年からは「先進技術実証機」のプロジェクトマネージャーも務めている。10年、三菱航空機に転じ、MRJの開発を主導してきた。
久方ぶりの国産旅客機の登場に内外の期待が高まる中、岸氏のこれまでの発言をもとにその「実力」を探る。
MRJは、国産旅客機としては1962年に初飛行したターボプロップ機「YS―11」以来、ほぼ半世紀ぶりの機体となる。YS―11の技術者は既に引退し、国内に旅客機の開発ノウハウはほぼ残っていない。このため、MRJではコストベースで部品の約7割に海外製のものを使うことにした。
「我々は経験が少ない。一方でパートナー(部品メーカー)はボーイングやエアバスなどにも納入実績があり、安全証明を取得するノウハウも確立されたものがある。我々は、MRJとして、日本としてどういった安全証明をするか、最初からひとつひとつ詰める必要があった。正直、かなり手こずった」
旅客機は高度に安全性の求められる製品で、納入前には国家当局(MRJの場合は国土交通省航空局)から型式証明を取らなくてはいけない。三菱重工業は戦闘機などのほか、ビジネスジェットやヘリコプターなどの開発経験もある。
しかし旅客機に限っては、MRJで初めて型式証明を取得することになる。経験豊富な海外企業との交渉力の欠如に加え、安全性をどう証明するかという決断にも時間がかかり、納入の計画はこれまで3回、累計3年半も遅れている。
しかし、こと三菱の社内で完結する「機体設計」については、数々の航空機を世に送り出してきた三菱重工業の強みを存分に生かしている。MRJは当初、最新鋭の米社製エンジンと高い空力設計の二つにより、同型機市場を席巻するブラジル・エンブラエルの機体よりも「燃費が約2割優れている」と説明してきた。
ただ、エンブラエルも「E2」と呼ぶ新型機の開発を発表しMRJに対抗。E2はエンジンにMRJと同型のシリーズを採用し、エンジンだけでみれば、MRJの優位性はなくなってしまった。それでも岸氏は、「まだ数%燃費が優れている」と断言する。9月2日の記者会見では、技術者らしく具体的な設計に踏み込んで、MRJの優位性を語った。
「MRJの燃費の良さの半分はエンジン、残りの半分は機体の形状によってもたらされている。エンブラエルとの明らかな違いは、我々は『スリムな胴体』であること。この関係で空気抵抗が小さい。抵抗が小さいということはエンジンの推力も小さめでよいから、燃費は良くなる」
(注:MRJは客室下部の貨物室を機体後部に集約しており、その分、前部胴体がスリムにできている)
「それから、(MRJが採用する)エンジンは、ファンの直径が大きいので、そのまま主翼の下に吊そうとすると、地上の物を擦ってしまう可能性がある。このため、できるだけエンジンを主翼の前方に配置することで、主翼とエンジン、ナセル(エンジンカバー)の最適な位置を探った。従って、私としては、今でも空気力学的に数%は(燃費)性能が優れていると考えている」
(注:エンブラエルのE2は従来の機体に最新鋭エンジンを置き換えたものであり、最適な設計がなされていない可能性がある)
三菱重工業といえば、戦前にはあの「零戦」(零式艦上戦闘機)を開発したことで有名だ。零戦の主任設計者は映画「風立ちぬ」のモデルにもなった堀越二郎氏だが、実は現代の三菱航空機にも、「MRJの堀越二郎」と社内で言われる技術者がいる。岸信夫副社長(56)、その人である。
岸氏は1982年(昭和57)に三菱重工業に入社後、日米共同開発の支援戦闘機「F2」など、防衛省向けの戦闘機設計に長く携わってきた。05年からは「先進技術実証機」のプロジェクトマネージャーも務めている。10年、三菱航空機に転じ、MRJの開発を主導してきた。
久方ぶりの国産旅客機の登場に内外の期待が高まる中、岸氏のこれまでの発言をもとにその「実力」を探る。
50年ぶり
MRJは、国産旅客機としては1962年に初飛行したターボプロップ機「YS―11」以来、ほぼ半世紀ぶりの機体となる。YS―11の技術者は既に引退し、国内に旅客機の開発ノウハウはほぼ残っていない。このため、MRJではコストベースで部品の約7割に海外製のものを使うことにした。
「我々は経験が少ない。一方でパートナー(部品メーカー)はボーイングやエアバスなどにも納入実績があり、安全証明を取得するノウハウも確立されたものがある。我々は、MRJとして、日本としてどういった安全証明をするか、最初からひとつひとつ詰める必要があった。正直、かなり手こずった」
旅客機は高度に安全性の求められる製品で、納入前には国家当局(MRJの場合は国土交通省航空局)から型式証明を取らなくてはいけない。三菱重工業は戦闘機などのほか、ビジネスジェットやヘリコプターなどの開発経験もある。
しかし旅客機に限っては、MRJで初めて型式証明を取得することになる。経験豊富な海外企業との交渉力の欠如に加え、安全性をどう証明するかという決断にも時間がかかり、納入の計画はこれまで3回、累計3年半も遅れている。
ライバルの新型機より「数%燃費が良い」
しかし、こと三菱の社内で完結する「機体設計」については、数々の航空機を世に送り出してきた三菱重工業の強みを存分に生かしている。MRJは当初、最新鋭の米社製エンジンと高い空力設計の二つにより、同型機市場を席巻するブラジル・エンブラエルの機体よりも「燃費が約2割優れている」と説明してきた。
ただ、エンブラエルも「E2」と呼ぶ新型機の開発を発表しMRJに対抗。E2はエンジンにMRJと同型のシリーズを採用し、エンジンだけでみれば、MRJの優位性はなくなってしまった。それでも岸氏は、「まだ数%燃費が優れている」と断言する。9月2日の記者会見では、技術者らしく具体的な設計に踏み込んで、MRJの優位性を語った。
「MRJの燃費の良さの半分はエンジン、残りの半分は機体の形状によってもたらされている。エンブラエルとの明らかな違いは、我々は『スリムな胴体』であること。この関係で空気抵抗が小さい。抵抗が小さいということはエンジンの推力も小さめでよいから、燃費は良くなる」
(注:MRJは客室下部の貨物室を機体後部に集約しており、その分、前部胴体がスリムにできている)
「それから、(MRJが採用する)エンジンは、ファンの直径が大きいので、そのまま主翼の下に吊そうとすると、地上の物を擦ってしまう可能性がある。このため、できるだけエンジンを主翼の前方に配置することで、主翼とエンジン、ナセル(エンジンカバー)の最適な位置を探った。従って、私としては、今でも空気力学的に数%は(燃費)性能が優れていると考えている」
(注:エンブラエルのE2は従来の機体に最新鋭エンジンを置き換えたものであり、最適な設計がなされていない可能性がある)
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