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中国ロボコン、技術解説に特に力を入れるワケ

【連載】中国ロボコンの巨大エコシステム #3
 中国DJIが主催するロボットコンテスト「ロボマスター」では試合の合間に技術解説の中継が差し込まれる。機体の重心設計や画像処理などの細かな技術を直前の試合と結びつけて図解する。(取材・小寺貴之)

 通常のロボコンでは機体のデザインに着目されがちだ。ハードとソフト両方の技術解説を挟むことで、中高生にロボットを構成する技術の幅広さや奥深さを刷り込んでいる。

 「機体を回転させる被弾回避技術は多くのチームが採用し定番になった」とDJIの包玉奇ロボマスター技術責任者は振り返る。ロボマスターでは被弾判定を自動化して公平性を担保するためにDJIが被弾判定プレートを提供している。

 ロボットは高速で移動するが、操縦者は車載カメラの映像しか見えない。人の手で照準を定めて狙い撃つのは至難の業だ。そのため各チームは自動照準技術を開発した。

 DJIが支給する被弾判定プレートには2本の発光ダイオード(LED)ラインが組み込まれている。画像認識で2本のラインを識別し、砲身を自動追従させる。画像処理ではカメラ映像を白と黒に2値化し、ラインを検出してプレート中央の座標を求める。

 この一連のプロセスや処理速度、照度変化への対応力が数分にまとめられ、試合の合間に解説される。試合を決めた技術として紹介されるため子どもが興味を抱くきっかけになる。

 自動照準は処理が軽いパターン認識が主流だ。日本から参加したフクオカニワカチームの花守拓樹リーダーは「機械学習は処理が重く、採用したチームは少ない」とみる。試合中の車載カメラの映像を録画しておけば、その映像を画像処理系に流して方法ごとに識別精度を検証できる。大会序盤にデータを集めてホテルで検証し、シンプルな認識系を選んだチームが多かった。

 自動照準技術が浸透すると、次は被弾回避技術が重要になる。常に判定プレートを動かし、相手に照準を絞らせない。機体を静止させる際は車体を回転させ、砲塔やカメラは逆回転させて静止させた。機体の重心を車体中心に設計し、4輪にかかる重量を均等にすることが大切だ。

 重量配分が崩れると、4輪と地面との抵抗力がずれて渦を描くように機体が揺れてしまう。こうした課題を解消し、回転回避は皆が使う定番になった。

 また射撃ユニットの設計も重要になる。ロボマスターでは弾速が制限されているため、回転ホイール式の射出機構が採用されている。このホイールの配置が射撃性能を決めた。例えば左右にホイールを配置すると弾は左右にバラつく。

 機体を回転させながら避ける敵機を撃つ歩兵ロボは左右配置、長距離の精密射撃が求められる英雄ロボや飛行ロボット(ドローン)には上下配置が採用された。

 他にも急ブレーキ時の振動抑制やドローンの砲身ジンバル機構、制御チップの設計思想などの技術が紹介される。観客席には技術解説にうなずく大人や設計ミスを嘆く大学生と、それを見つめる子どもたちが同居する。試合を楽しみながら、技術の大切さを刷り込む機会になっている。(全6回)
日刊工業新聞2019年9月11日(ロボット)
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
 科学や技術は学校で学んでいる間はどう役に立つのか実感がありません。ですが競技参加者が勝つために何をしているのか、と紹介されると意味が変わってきます。小さい頃は、なんとなくすごいことなのかなという受け止めでいいと思います。隣で大学生や大人が真剣に議論したり、一喜一憂している姿を見せる程度で十分かもしれません。大きくなって、自分は何を学びたいか自分で選ぶ際に、原体験として思い出されれば大成功です。テクノロジーやエンジニアのブランドを向上させるためにも必要なアプローチだと思います。

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