「ドリームキャストの在庫恐怖」が原点 「#メガドライブミニ」のプロモ戦略
19日発売、収録ゲームを生放送で小出しに発表
**21年ぶりの“セガ”ハード復活
セガゲームス(東京都品川区、松原健二社長COO〈最高執行責任者〉、03・5736・7111)は19日、ソフトウエア内蔵型ゲーム機「メガドライブミニ」を発売する。1988年に発売されたゲームハード「メガドライブ」を、デザインそのままに小型化した製品で、往年の名作ゲーム42本を収録。1998年に発売されたドリームキャスト以来、21年ぶり“セガ”ハード復活となる。(取材・鳥羽田継之)
メガドライブは、セガゲームスの前身であるセガ・エンタープライゼスが88年に発売した、同社5番目のゲーム機。家庭用ゲーム機として、他社に先駆けて16ビットのCPU(中央演算処理装置)を搭載。「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」などの名作を生み出し、特に北米で人気を得たが、国内では圧倒的な強さを誇った任天堂「スーパーファミコン」に及ばなかった。「メガドライバー」と呼ばれた熱狂的ファンがいることで知られる。数は決して多くないが。
CD―ROM対応の「メガCD」、32ビット級ゲームができる「スーパー32X」など個性的な周辺機器が多いのも特徴だ。スーパー32X、メガドライブ、メガCDを接続した姿は俗に「メガドラタワー」と呼ばれ、メガドライバーの憧れだった。
今回発売するメガドライブミニは、メガドライブの外観デザインをそのままに縮小。ソフトカセットを差し入れるスロット部分が開閉し、音量変更スイッチもスライドする。ただ、ソフトは内蔵されているのでそもそもスロットは必要なく、音量変更スイッチも飾り。動かしても音量は変わらない。
収録ソフトは「ソニック・ザ・ヘッジホッグ2」「ファンタシースター~千年紀の終わりに~」など、今でもシリーズが続くセガの名作のほか、プレミアソフトとなっていた「バンパイアキラー」、名作シューティングゲーム「ガンスターヒーローズ」など42本だ。
過去にヒットしたゲームを内蔵したゲーム機は、任天堂やソニー・インタラクティブエンタテインメントも発売しているが、セガがユニークなのは全42本の収録ソフトを動画の生放送で小出しに発表したことだ。発売日の発表から実際の発売まで、定期的に話題を提供することで潜在購入者の関心を集め続けた。
第1回の発表はセガ自身のソフトが多くファンの驚きは少なかったが、2回目以降は「当時の会社がなくなっている」「原作付きである」など一般的に再収録が難しいとされるソフトが発表されたこともあり、ネットで大きな話題に。通販サイトでは、生放送のたびに予約可能数が払底した。特に4回目の発表では、当時アーケードで人気を博しながら諸般の事情でメガドライブへの移植がかなわなかった(しかもライバル機に移植された)「テトリス」と完全新規移植のシューティングゲーム「ダライアス」を発表。さらに往時のメガドラタワーが再現できる「メガドラタワーミニ」を発表した。メガドラタワーミニはゲームに全く影響しないただの飾りだが、オールドファンの興奮は頂点に達した。
メガドライブミニのようなゲーム機は、基本的に当時のファン向け製品であり、欲しい人はすぐに買ってしまう。息長く売れ続けるのは難しく、発売後の初動が肝心だ。ソフトの定期発表でオールドファンの心をくすぐる手法は、予約数の増加、初動の盛り上げに役だったと言えるのではないだろうか。
思えば、セガ最後のハードであるドリームキャストは、発売前に大型プロモーションを行ったものの、グラフィックチップの開発遅れが原因で品不足を起こしてしまった。発売直後の年末商戦という絶好の販売タイミングを逃し、やっとハードの供給体制が整ったときには市場の関心は薄れていた。在庫を解消するために逆ザヤ覚悟の値下げを行ったが、ライバルであるソニーの「プレイステーション2」には勝てず、最終的にセガのハード事業撤退を招いた。
「ドリームキャストの在庫が残る恐怖は今でもハッキリと覚えている」とセガゲームス・プロモーション統括部部長(eスポーツ推進室長)の宮崎浩幸氏は語る。メガドラミニの予約数・生産数は非公表だが、事前プロモーションにおける丁寧かつ周到なアピールを見るにつけ、DCのように大量在庫を生み出すことはなさそうだ。21年ぶりの新ハードは、21年前の教訓をしっかりと生かした。
―メガドライブミニは動画で収録ソフトを発表し話題を呼びました。どこから着想を得ましたか。
「実はこれ(メガドライブミニ)たいしたものじゃないんですよ。ハイエンドなテクノロジーは何ひとつ使われてないし、外側のデザインはすでにある物を縮小しただけ。ウリは『メガドライブ』が約30年ぶりに出るという事実と、『それに何が収録されるだろう』という勝手な期待感しかない。今年の3月に発売日を9月と発表しましたが、発売までの6ヶ月をどうするか考えた時に、『メガドライブの時代』というコンセプトを作り、ソフトを小出しにすることで期待感を煽ろうと思いました。少しずつ伝えることで『あのソフトが収録されるのか』という驚きを与えつつ『あと残り10本しかないけれど俺の好きなあのソフトは入るのか』というドキドキ感も味わってもらえるかなと。いっぺんに出さず、分割して発表したことで30年分の思い出をじっくりかみしめてもらえたかと思います」
―生放送という手段を選んだのは。
「『メガドライブの時代』というコンセプトからも、我々はぶっ壊れるような、破綻するような、危険な匂いのするようなことをやりたいと思い、生放送に至りました。1回の生放送ですべての収録ソフトを発表すると5時間くらいかかってしまうので、それも複数回に分けた理由です」
―3月に開かれたイベント「セガフェス2019」が1回目の発表でした。お客さんが目の前にいましたが、反応はいかがでしたか。
「ソフトというより本体への反応が大きかったですね。もともとのメガドライブって大きいんですよ。それが小さくなることにまず注目が集まった。さらに音量が変わらないけれどボリュームコントロールが動くと発表すると、会場から『うおー』と歓声が。いや『うおー』じゃないでしょと(笑)」
―音量が変わらないのにスイッチが動くなんて「うおー」としか言いようがないです。
「1回目の発表タイトルは厳選したわけではなく、その時点で契約ができている会社のソフトを優先しました。そのためセガの定番ソフトが多くなっています。ただ普通に『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』を入れるだけでは面白くないので、ソニックの1と2、どちらを収録するかをファン投票で決める『国民投票』という仕組みも取り入れました」
―ファンの反応は。
「ボロクソに言われました。『何で1も2も両方入れないんだ』と。それは想定の範囲でしたが……そこは耐える期間でした。ちなみにすべて移植作を作った上での選挙です。選にもれたタイトルは海外版に収録しています」
―その後も2回目から4回目まで定期的にソフトの発表をしていきました。予約への影響は。
「放送のたびにネット通販の予約ボタンが消えました(笑)。予約可能枠を少しずつネットに流したので、転売の価格を抑えることができ、結果、転売屋対策にもなりました」
―ちなみに初回販売台数は。
「言っちゃいけないんですって。ただ国別でいうと米国が圧倒的に多いです」
―最後となる第4回目の配信では「テトリス」と「ダライアス」の新規移植を発表しました。テトリスは、当時セガがアーケード版を発売しながら、家庭用機に移植できなかった過去があります。
「テトリスについては、現在のセガが『ぷよぷよテトリス』などを販売しているので想像したファンも多かったのでは。移植にあたっては当時のメガドライバーが期待した『テトリス』を再現すること心がけました。決して面白くないテトリスにはしない。30年前はファンも苦しい思いをしたが、それはセガ社員も一緒。メガドライブミニという『if』の世界でも、苦しい思いをしなくてもいいんじゃないか」
―セガにとって21年ぶりのハードです。
「セガはドリームキャストをもってハード事業から撤退したので、ハードを担当する部署がありません。メガドライブミニを作るにあたり部署を作ればいいかなと思いましたが作ってくれなかったので、かつてハードに携わった、現在は異なる仕事をしている人たちに声をかけました。かつてメガドライブを機構設計をした人が監修をし、かつて製造工場に行って部材調達をした人が今回も製造工場行ってミクロン単位の監修を行っています。ただこれだけの投資をした製品に責任部署はないまま。ついに走りきってしまった(笑)」
―最後に次回作について教えてください。収録ソフトを変えたメガドライブミニ第2弾を作るのか、セガサターンミニやドリームキャストミニといったアイデアも当然あると思いますが。
「まだメガドライブミニも発売してないのでなんとも……。何も決まっていないし、今のところ計画もありません。ただメガドライブミニの売れ行きは重要だと思います」
18日20時からの『メガドライブミニ』おまけ話
セガゲームス(東京都品川区、松原健二社長COO〈最高執行責任者〉、03・5736・7111)は19日、ソフトウエア内蔵型ゲーム機「メガドライブミニ」を発売する。1988年に発売されたゲームハード「メガドライブ」を、デザインそのままに小型化した製品で、往年の名作ゲーム42本を収録。1998年に発売されたドリームキャスト以来、21年ぶり“セガ”ハード復活となる。(取材・鳥羽田継之)
メガドライブは、セガゲームスの前身であるセガ・エンタープライゼスが88年に発売した、同社5番目のゲーム機。家庭用ゲーム機として、他社に先駆けて16ビットのCPU(中央演算処理装置)を搭載。「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」などの名作を生み出し、特に北米で人気を得たが、国内では圧倒的な強さを誇った任天堂「スーパーファミコン」に及ばなかった。「メガドライバー」と呼ばれた熱狂的ファンがいることで知られる。数は決して多くないが。
憧れの「メガドラタワー」
CD―ROM対応の「メガCD」、32ビット級ゲームができる「スーパー32X」など個性的な周辺機器が多いのも特徴だ。スーパー32X、メガドライブ、メガCDを接続した姿は俗に「メガドラタワー」と呼ばれ、メガドライバーの憧れだった。
今回発売するメガドライブミニは、メガドライブの外観デザインをそのままに縮小。ソフトカセットを差し入れるスロット部分が開閉し、音量変更スイッチもスライドする。ただ、ソフトは内蔵されているのでそもそもスロットは必要なく、音量変更スイッチも飾り。動かしても音量は変わらない。
収録ソフトは「ソニック・ザ・ヘッジホッグ2」「ファンタシースター~千年紀の終わりに~」など、今でもシリーズが続くセガの名作のほか、プレミアソフトとなっていた「バンパイアキラー」、名作シューティングゲーム「ガンスターヒーローズ」など42本だ。
生放送で小出しに発表
過去にヒットしたゲームを内蔵したゲーム機は、任天堂やソニー・インタラクティブエンタテインメントも発売しているが、セガがユニークなのは全42本の収録ソフトを動画の生放送で小出しに発表したことだ。発売日の発表から実際の発売まで、定期的に話題を提供することで潜在購入者の関心を集め続けた。
第1回の発表はセガ自身のソフトが多くファンの驚きは少なかったが、2回目以降は「当時の会社がなくなっている」「原作付きである」など一般的に再収録が難しいとされるソフトが発表されたこともあり、ネットで大きな話題に。通販サイトでは、生放送のたびに予約可能数が払底した。特に4回目の発表では、当時アーケードで人気を博しながら諸般の事情でメガドライブへの移植がかなわなかった(しかもライバル機に移植された)「テトリス」と完全新規移植のシューティングゲーム「ダライアス」を発表。さらに往時のメガドラタワーが再現できる「メガドラタワーミニ」を発表した。メガドラタワーミニはゲームに全く影響しないただの飾りだが、オールドファンの興奮は頂点に達した。
発売後の初動が肝心
メガドライブミニのようなゲーム機は、基本的に当時のファン向け製品であり、欲しい人はすぐに買ってしまう。息長く売れ続けるのは難しく、発売後の初動が肝心だ。ソフトの定期発表でオールドファンの心をくすぐる手法は、予約数の増加、初動の盛り上げに役だったと言えるのではないだろうか。
思えば、セガ最後のハードであるドリームキャストは、発売前に大型プロモーションを行ったものの、グラフィックチップの開発遅れが原因で品不足を起こしてしまった。発売直後の年末商戦という絶好の販売タイミングを逃し、やっとハードの供給体制が整ったときには市場の関心は薄れていた。在庫を解消するために逆ザヤ覚悟の値下げを行ったが、ライバルであるソニーの「プレイステーション2」には勝てず、最終的にセガのハード事業撤退を招いた。
21年前の教訓生かす
「ドリームキャストの在庫が残る恐怖は今でもハッキリと覚えている」とセガゲームス・プロモーション統括部部長(eスポーツ推進室長)の宮崎浩幸氏は語る。メガドラミニの予約数・生産数は非公表だが、事前プロモーションにおける丁寧かつ周到なアピールを見るにつけ、DCのように大量在庫を生み出すことはなさそうだ。21年ぶりの新ハードは、21年前の教訓をしっかりと生かした。
インタビュー/セガゲームス・宮崎浩幸氏/メガドライブミニ2はある?
―メガドライブミニは動画で収録ソフトを発表し話題を呼びました。どこから着想を得ましたか。
「実はこれ(メガドライブミニ)たいしたものじゃないんですよ。ハイエンドなテクノロジーは何ひとつ使われてないし、外側のデザインはすでにある物を縮小しただけ。ウリは『メガドライブ』が約30年ぶりに出るという事実と、『それに何が収録されるだろう』という勝手な期待感しかない。今年の3月に発売日を9月と発表しましたが、発売までの6ヶ月をどうするか考えた時に、『メガドライブの時代』というコンセプトを作り、ソフトを小出しにすることで期待感を煽ろうと思いました。少しずつ伝えることで『あのソフトが収録されるのか』という驚きを与えつつ『あと残り10本しかないけれど俺の好きなあのソフトは入るのか』というドキドキ感も味わってもらえるかなと。いっぺんに出さず、分割して発表したことで30年分の思い出をじっくりかみしめてもらえたかと思います」
―生放送という手段を選んだのは。
「『メガドライブの時代』というコンセプトからも、我々はぶっ壊れるような、破綻するような、危険な匂いのするようなことをやりたいと思い、生放送に至りました。1回の生放送ですべての収録ソフトを発表すると5時間くらいかかってしまうので、それも複数回に分けた理由です」
―3月に開かれたイベント「セガフェス2019」が1回目の発表でした。お客さんが目の前にいましたが、反応はいかがでしたか。
「ソフトというより本体への反応が大きかったですね。もともとのメガドライブって大きいんですよ。それが小さくなることにまず注目が集まった。さらに音量が変わらないけれどボリュームコントロールが動くと発表すると、会場から『うおー』と歓声が。いや『うおー』じゃないでしょと(笑)」
―音量が変わらないのにスイッチが動くなんて「うおー」としか言いようがないです。
「1回目の発表タイトルは厳選したわけではなく、その時点で契約ができている会社のソフトを優先しました。そのためセガの定番ソフトが多くなっています。ただ普通に『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』を入れるだけでは面白くないので、ソニックの1と2、どちらを収録するかをファン投票で決める『国民投票』という仕組みも取り入れました」
―ファンの反応は。
「ボロクソに言われました。『何で1も2も両方入れないんだ』と。それは想定の範囲でしたが……そこは耐える期間でした。ちなみにすべて移植作を作った上での選挙です。選にもれたタイトルは海外版に収録しています」
―その後も2回目から4回目まで定期的にソフトの発表をしていきました。予約への影響は。
「放送のたびにネット通販の予約ボタンが消えました(笑)。予約可能枠を少しずつネットに流したので、転売の価格を抑えることができ、結果、転売屋対策にもなりました」
―ちなみに初回販売台数は。
「言っちゃいけないんですって。ただ国別でいうと米国が圧倒的に多いです」
―最後となる第4回目の配信では「テトリス」と「ダライアス」の新規移植を発表しました。テトリスは、当時セガがアーケード版を発売しながら、家庭用機に移植できなかった過去があります。
「テトリスについては、現在のセガが『ぷよぷよテトリス』などを販売しているので想像したファンも多かったのでは。移植にあたっては当時のメガドライバーが期待した『テトリス』を再現すること心がけました。決して面白くないテトリスにはしない。30年前はファンも苦しい思いをしたが、それはセガ社員も一緒。メガドライブミニという『if』の世界でも、苦しい思いをしなくてもいいんじゃないか」
―セガにとって21年ぶりのハードです。
「セガはドリームキャストをもってハード事業から撤退したので、ハードを担当する部署がありません。メガドライブミニを作るにあたり部署を作ればいいかなと思いましたが作ってくれなかったので、かつてハードに携わった、現在は異なる仕事をしている人たちに声をかけました。かつてメガドライブを機構設計をした人が監修をし、かつて製造工場に行って部材調達をした人が今回も製造工場行ってミクロン単位の監修を行っています。ただこれだけの投資をした製品に責任部署はないまま。ついに走りきってしまった(笑)」
―最後に次回作について教えてください。収録ソフトを変えたメガドライブミニ第2弾を作るのか、セガサターンミニやドリームキャストミニといったアイデアも当然あると思いますが。
「まだメガドライブミニも発売してないのでなんとも……。何も決まっていないし、今のところ計画もありません。ただメガドライブミニの売れ行きは重要だと思います」
18日20時からの『メガドライブミニ』おまけ話
日刊工業新聞2019年9月18日に大幅加筆