ニュースイッチ

電子部品各社は広大な「CASE」領域で何を狙うのか

優先順位はどこ?
電子部品各社は広大な「CASE」領域で何を狙うのか

アルプスアルパインは生体情報などの高感度なモニタリング環境を提案する

 CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)と呼ばれる自動車産業の新風を背に受けて事業拡大を目指す電子部品業界。特に先進運転支援システム(ADAS)を含む自動運転領域での製品開発に優先的に取り組む企業が多い。ADASや自動運転システムを搭載した車は今後、世界的に増えることが予想される。自動車の周辺環境や運転者の生体情報の把握に役立つセンサーなど、センシング技術開発でも自動車産業の発展に貢献する。(文=山谷逸平)

自動運転 センシング技術活用


 電子部品各社は広大なCASEの領域で何を狙うのか。自動運転領域ではセンシング技術を活用した製品開発が活発だ。京セラはカメラモジュール開発に力を注ぐ。自動車1台当たりの搭載数は従来1個だったが、自動車の電装化で複数個搭載されるためだ。ADAS向けに人工知能(AI)を搭載したカメラモジュールを2021年度までに製品化するほか、早ければ25年にも距離計測センサーのLiDAR(ライダー)と画像センサーを一体化したモジュールを自動運転向けに供給する予定だ。

京セラのライダーセンサーモジュールのサンプル

 日本電産は子会社の日本電産エレシス(川崎市幸区)で次世代アンテナを活用した単眼カメラとレーダー一体型の世界最小のADASセンサーを開発しており、採用に向けて市場を開拓中だ。日本電産は4月にオムロンの車載電装品事業を約1000億円で買収すると発表。自動運転領域で日本電産エレシスとの技術の掛け合わせや補完を期待する。

 ほかにも日本航空電子工業がカメラ向け高速伝送用コネクターを製品化し市場を開拓中。日本ケミコンはドライブレコーダー向けのカメラモジュールが好調など、カメラ関連が活況を呈している。

 矢野経済研究所(東京都中野区)が5月に公表したADAS/自動運転システムの世界市場規模予測によれば、30年には18年比約3・5倍の約8390万台に達する見通しだ。20年以降に最も成長するのが自動運転の「レベル2」(ステアリング操作と加減速を支援)としており、ADAS搭載車がこれをけん引するとみている。

自動車の高度化に向け各社とも得意分野で切り込む(トラックの隊列走行実験)

 村田製作所とアルプスアルパインは、運転者の生体情報の把握に挑む。村田製作所は圧電セラミックス箔(はく)をセンサーに応用し、人の筋肉振動を検知可能な車載向け「たわみセンサー」を開発中だ。アルプスアルパインは高感度なモニタリング環境を提案するため、「さらなるセンサーフュージョン(融合)が必要」(笹尾泰夫取締役)とし、ソフトウエアに強いグループ企業のアルパインとの連携を強化する。

 位置や傾き情報の検知では、TDKは微小電気機械システム(MEMS)の6軸モーションセンサーを製品化しており、市場開拓を進める。同センサーと全地球測位システム(GPS)を使うと、トンネルの中でも正確な位置が測定可能だ。村田製作所も開発したMEMSの3軸傾斜センサーの採用を期待する。同センサーは自動車の傾きを検知して傾斜に合わせたヘッドライト照射やカーブで傾きを検知してアクセルやブレーキのレベルを変えることが可能だ。

電動化 コンデンサー高性能化


 電動化も電子部品各社が重視する領域だ。中でも市場から期待されているのが積層セラミックコンデンサー(MLCC)だ。電気を蓄えたり、電流を整えたりする電子部品で、現在ほぼ全ての電子回路に搭載されている。電装化の進展により、自動車1台当たりに搭載されるMLCCの数は3000―8000個とされ、搭載数は今後さらに増える見通しだ。

 MLCCで世界シェアトップの村田製作所は耐温度性、耐電圧などの高信頼性を必要とするパワートレーン系向けで製品開発の照準を合わせる。太陽誘電も高寿命・高耐熱・高耐振が求められる市場を開拓していく。

 TDKは「当社が得意とするのはハードスペック」(永田充常務執行役員)として、今後も高温・高電圧への要求に応える製品を開発していくほか、高容量・大電流などのニーズが高いADAS向けにも製品ラインアップを拡充する。

 MLCC以外では、日本ケミコンが「48ボルトのマイルドハイブリッド用で今までにない引き合いがある」(上山典男社長)とし、ハイブリッドコンデンサーが好調。電気二重層キャパシター(EDLC)については今後、電気自動車(EV)向けにも提案していく。

角度や回転スピードを精度良く測定するTDKのTMRセンサー

 日本電産は成長の柱とする車載用モーターなどの生産能力の引き上げを図る。特に将来の受注に備え、EV駆動用のトラクションモーターの生産体制の整備を急いでいる。4月に中国の浙江省で年産60万台の生産能力を持つ工場を稼働した。今後も新工場の立ち上げを予定する。

 ロームは炭化ケイ素(SiC)パワーデバイスや絶縁ゲートドライバーを中心としたパワーソリューションを提供している。既に急速充電システム関係でSiCが採用されており、今後はメインインバーターでの採用に向けて市場開拓する。

 TDKは角度や回転スピードを精度良く測るのに有効なトンネル磁気抵抗素子(TMR)センサーに力を入れる。永田常務執行役員は「顧客からの期待が非常に高く、相当数プロジェクトが積み上がっている」という。

コネクテッド・シェアリング 安全なハードウエア支援


 コネクテッド領域は、「自動運転と並行して進む」(永田TDK常務執行役員)と、自動運転領域との対で捉える声が多い。アルプスアルパインは複数の通信データを集中制御するテレマティクス制御ユニット(TCU)を開発中だ。

                 

 シェアリング領域を優先する企業は現在は特段見当たらない。ただ、完成車メーカーなどがMaaS(乗り物のサービス化)をキーワードにモビリティサービスカンパニーへ移行し始める中、アルプスアルパインの笹尾取締役は「安全なハードウエア作りは絶対になくならない」とし、永田TDK常務執行役員も「電子部品のコンテンツは増える。特に品質は重要でチャンスとも言える」とする。優先順位は各社にあっても、CASE全領域が電子部品業界の追い風となることは間違いなさそうだ。
日刊工業新聞2019年9月6日

編集部のおすすめ