城南信金が仕掛けた「金融発の地方創生事業」が成長を続ける理由
「よい仕事おこし」プロジェクトが成長中
城南信用金庫(東京都品川区)が取り組む、全国の信用金庫の連携による地方創生事業「よい仕事おこし」プロジェクトがさらに成長している。中小企業同士をインターネット上で引き合わせる「よい仕事おこしネットワーク」は開始から約2カ月ながら続々と企業マッチングを創出。10月に開くイベント「よい仕事おこしフェア」も過去最大規模となる予定だ。金融発の地方創生事業の成功例として、行政からも熱視線が注がれている。(文=南東京支局長・鳥羽田継之)
8月15日、城南信金本店で、城南信金が事務局を務める「よい仕事おこしフェア実行委員会」と静岡県東京事務所は、地域活性化と産業振興を目指し覚書を締結した。
静岡県東京事務所の滝浪勇所長は「地銀はどのくらいか分からないが、信金のネットワークはとにかくすごい。よい仕事おこしに加わり静岡県を盛り上げていきたい」と狙いを説明した。城南信金の川本恭治理事長は「静岡県は東京から近く、観光名所や優秀なモノづくり企業が多い。東京の企業の連携先としては最適」と喜びを語った。今後は、静岡県の名産品の販売で協力するほか、共同での新商品開発も行う予定だ。
静岡県東京事務所だけでなく、同プロジェクトは地方自治体との連携を相次ぎ進めている。地方自治体が「よい仕事おこし」に興味を持つ理由が、城南信金が運営するインターネットでの企業マッチング「よい仕事おこしネットワーク」だ。8月2日には山口県宇部市、同下関市と包括連携協定を結んだ。
同ネットワークは、企業や自治体が、自身のプロフィルとともに「売りたい製品」「連携・提携したいテーマ」を登録。信金や企業の参加費は無料だが、各信金には専属コーディネーターを置くことを求めている。コーディネーターがマメに情報をチェックすることで、連携機会を漏らさない仕組みだ。「ネット上のマッチングだけでなく、コーディネーターを挟むことで信金らしいアナログで暖かい手触りを残したかった」と同金庫地域発展支援部の平山彰紀部長は語る。
専用ホームページを設け、ネットワークが本格稼働したのは6月20日。そこから2カ月足らずの8月6日時点で、登録企業数2711社、登録案件数397件となった。企業マッチング数は57件。世田谷区の燃料屋に和歌山県の名産品である備長炭を届け、都内でプリン屋と養鶏場を結びつけたりと、地域の内外を結びつけるマッチングを次々創出している。川本理事長は「年内に登録企業数2万件を目指したい」と意気込んでいる。
「よい仕事おこし」プロジェクトの始まりである地方創生イベント「よい仕事おこしフェア」。8回目となる今回は229の信金が協賛し、過去最高の来場者を見込む。同フェアは全国の信金の取引先や城南信金の取引先を集めた展示商談会。イベントの運営費は城南信金が負担し、出展者・来場者ともに無料だ。タレントのステージイベントや地方の名産品販売も行っているため、企業関係者でなくふらっと訪れた一般来場者でも楽しめるイベントとなっている。2018年は吉野正芳復興相(当時)や小池百合子東京都知事が参加。19年も引き続き小池知事が参加するほか、多数の識者やタレントの参加が予定されているという。
「よい仕事おこし」プロジェクトの中でユニークなのが、オリジナル日本酒「絆舞(きずなまい)」を作る取り組みだ。全国の信金を通じて集めた47都道府県のお米をブレンドし、福島県の曙酒造(会津坂下町)で醸造。イベントなどで販売し、売上金の一部を災害復興の寄付に充てている。安倍晋三首相も、6月に都内で開かれた全国信用金庫大会のあいさつで「素晴らしい事業であり、地方の可能性を再確認した」と称賛した。
19年は日本酒だけでなく、熊本でオリジナルの焼酎も醸造。さらに酒類の製造過程で発生する酒かすを使ったスイーツの作製にも取り組み、全国で中小企業の絆を醸している。
「よい仕事おこし」プロジェクトは、短期的な収益拡大を狙う事業ではない。地域経済の活性化を実現することで、取引先の長期的な事業成長に役立てるのが狙いだ。営利優先ではない信用金庫という業態ゆえに実現できたプロジェクトと言える。地域・取引先・自社のプラスになる“三方よし”の取り組みとして、今後もさらなる注目が集まりそうだ。
―よい仕事おこしネットワークが、地方自治体との連携を加速しています。
「地方の首長と話をすると、ネットワークに大きな期待を寄せて頂いているとを感じる。地方は人口減少が進み経済の衰退も著しい。どこも企業の支援を行いたいと考えているが、自治体だけでできることには限りがある。ぜひネットワークに加わって協力してほしい。今後は福島県飯館村や奈良県橿原市と連携し、東京23区でも連携先を増やす予定だ。自治体以外では、神奈川大学など大学との連携交渉を進めている」
―地方創生イベント「よい仕事おこしフェア」が8回目を迎えます。
「12年に震災復興のため始めたイベントだが、7年たった今では地方の活性化を目指すイベントとなった。回数を重ねるごとに規模を拡大しており、昨年は小池百合子東京都知事に初めてご来場頂いた。今回も著名人が多数参加する予定であり、社会的認知が高まってきたと感じる」
―プロジェクトの次の展望は。
「20年7月に開業する羽田空港跡地の再開発敷地内に、よい仕事おこしネットワークの情報発信拠点を整備する。地方から東京へ商談に来る際の拠点となる同地域にベースをもうけることで、全国をつなぎ、日本を元気にしていきたい」
地域の内外マッチング、アナログで暖かく
8月15日、城南信金本店で、城南信金が事務局を務める「よい仕事おこしフェア実行委員会」と静岡県東京事務所は、地域活性化と産業振興を目指し覚書を締結した。
静岡県東京事務所の滝浪勇所長は「地銀はどのくらいか分からないが、信金のネットワークはとにかくすごい。よい仕事おこしに加わり静岡県を盛り上げていきたい」と狙いを説明した。城南信金の川本恭治理事長は「静岡県は東京から近く、観光名所や優秀なモノづくり企業が多い。東京の企業の連携先としては最適」と喜びを語った。今後は、静岡県の名産品の販売で協力するほか、共同での新商品開発も行う予定だ。
静岡県東京事務所だけでなく、同プロジェクトは地方自治体との連携を相次ぎ進めている。地方自治体が「よい仕事おこし」に興味を持つ理由が、城南信金が運営するインターネットでの企業マッチング「よい仕事おこしネットワーク」だ。8月2日には山口県宇部市、同下関市と包括連携協定を結んだ。
同ネットワークは、企業や自治体が、自身のプロフィルとともに「売りたい製品」「連携・提携したいテーマ」を登録。信金や企業の参加費は無料だが、各信金には専属コーディネーターを置くことを求めている。コーディネーターがマメに情報をチェックすることで、連携機会を漏らさない仕組みだ。「ネット上のマッチングだけでなく、コーディネーターを挟むことで信金らしいアナログで暖かい手触りを残したかった」と同金庫地域発展支援部の平山彰紀部長は語る。
専用ホームページを設け、ネットワークが本格稼働したのは6月20日。そこから2カ月足らずの8月6日時点で、登録企業数2711社、登録案件数397件となった。企業マッチング数は57件。世田谷区の燃料屋に和歌山県の名産品である備長炭を届け、都内でプリン屋と養鶏場を結びつけたりと、地域の内外を結びつけるマッチングを次々創出している。川本理事長は「年内に登録企業数2万件を目指したい」と意気込んでいる。
取引先集め展示商談会、出展者・来場者とも無料
「よい仕事おこし」プロジェクトの始まりである地方創生イベント「よい仕事おこしフェア」。8回目となる今回は229の信金が協賛し、過去最高の来場者を見込む。同フェアは全国の信金の取引先や城南信金の取引先を集めた展示商談会。イベントの運営費は城南信金が負担し、出展者・来場者ともに無料だ。タレントのステージイベントや地方の名産品販売も行っているため、企業関係者でなくふらっと訪れた一般来場者でも楽しめるイベントとなっている。2018年は吉野正芳復興相(当時)や小池百合子東京都知事が参加。19年も引き続き小池知事が参加するほか、多数の識者やタレントの参加が予定されているという。
「よい仕事おこし」プロジェクトの中でユニークなのが、オリジナル日本酒「絆舞(きずなまい)」を作る取り組みだ。全国の信金を通じて集めた47都道府県のお米をブレンドし、福島県の曙酒造(会津坂下町)で醸造。イベントなどで販売し、売上金の一部を災害復興の寄付に充てている。安倍晋三首相も、6月に都内で開かれた全国信用金庫大会のあいさつで「素晴らしい事業であり、地方の可能性を再確認した」と称賛した。
19年は日本酒だけでなく、熊本でオリジナルの焼酎も醸造。さらに酒類の製造過程で発生する酒かすを使ったスイーツの作製にも取り組み、全国で中小企業の絆を醸している。
「よい仕事おこし」プロジェクトは、短期的な収益拡大を狙う事業ではない。地域経済の活性化を実現することで、取引先の長期的な事業成長に役立てるのが狙いだ。営利優先ではない信用金庫という業態ゆえに実現できたプロジェクトと言える。地域・取引先・自社のプラスになる“三方よし”の取り組みとして、今後もさらなる注目が集まりそうだ。
インタビュー/理事長・川本恭治氏 日本“つなぎ”元気に
―よい仕事おこしネットワークが、地方自治体との連携を加速しています。
「地方の首長と話をすると、ネットワークに大きな期待を寄せて頂いているとを感じる。地方は人口減少が進み経済の衰退も著しい。どこも企業の支援を行いたいと考えているが、自治体だけでできることには限りがある。ぜひネットワークに加わって協力してほしい。今後は福島県飯館村や奈良県橿原市と連携し、東京23区でも連携先を増やす予定だ。自治体以外では、神奈川大学など大学との連携交渉を進めている」
―地方創生イベント「よい仕事おこしフェア」が8回目を迎えます。
「12年に震災復興のため始めたイベントだが、7年たった今では地方の活性化を目指すイベントとなった。回数を重ねるごとに規模を拡大しており、昨年は小池百合子東京都知事に初めてご来場頂いた。今回も著名人が多数参加する予定であり、社会的認知が高まってきたと感じる」
―プロジェクトの次の展望は。
「20年7月に開業する羽田空港跡地の再開発敷地内に、よい仕事おこしネットワークの情報発信拠点を整備する。地方から東京へ商談に来る際の拠点となる同地域にベースをもうけることで、全国をつなぎ、日本を元気にしていきたい」
日刊工業新聞2019年8月19日