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東京~大阪間が4時間半も短縮!帰省を支える長距離列車の進化

おすすめ本の本文抜粋「今日からモノ知りシリーズ トコトンやさしい電車の本」
東京~大阪間が4時間半も短縮!帰省を支える長距離列車の進化

日本初の電車特急「こだま」(川崎重工業兵庫工場提供)

 東京~大阪間をいかに早く結ぶか。東海道本線の全通以降、国鉄にとっては最大の課題のひとつでした。1930(昭和5)年には特急「燕」が運行を開始し、8時間30分で結んだのを皮切りに、戦後の全線電化を受け、7時間30分まで短縮されました。しかし駅間が長く直線距離が多いヨーロッパならともかく、当時の日本では電気機関車が客車を牽引する方式では、これが限界でした。
 ここに風穴を開けたのが、SE車の世界新記録でした。国鉄はSE車の高速試験のデータを基に、「軽量車両を使うことで従来の機関車牽引では実現困難だった高速サービスが可能になる」と検討結果をまとめ、同試験からわずか2カ月後の11月に東海道本線に電車特急の新設を決定します。この中で所用時間は6時間30分とすると決められました。
 なぜ6時間30分なのか。それは1編成の電車が1日1往復できるからです。それまでの「つばめ」は1日走るのは片道だけで、列車は2編成必要です。1往復できれば、電車への投資は一気に半減します。さらに乗客からみれば、日帰りが可能になり、利便性が飛躍的に向上します。
 1958(昭和33)年11月、日本初の電車特急「こだま」が登場。当初こそ6時間50分かかりましたが、2年後には6時間30分に短縮されます。この時使われた車両は先頭の運転台が高い「ボンネット形」と呼ばれる斬新なデザインで、その後は国鉄の昼間特急の基本的な形式となります。ちなみに「こだま」は、行って帰ることから、山の木霊(こだま)に由来しています。
 颯爽と登場した「こだま」も短命に終ります。6年後には同区間を4時間で結ぶ新幹線が開通し、「こだま」もお役後免となります。しかし、電車でも長距離・高速運転が可能だということを証明したからこそ、新幹線にも電車が採用されたわけで、その意味で大きな役割を果たしたといえます。

東京~大阪間の所要時間の変遷(イラスト:榊原唯幸)


書籍紹介
今日からモノ知りシリーズ トコトンやさしい電車の本
青田 孝 著、A5判、160ページ、税込み1,620円

電車の動く仕組みや止める技術、車両の安全性など、難しいと思われがちな技術を分かりやすく紹介しています。専門知識のない 方でも読んでいただける、電車の技術を理解する入門書です。

著者紹介
<略歴>
1947 年生まれ。日本大学生産工学部機械工学科で鉄道車両工学を学び、卒業研究として 1年間、国鉄鉄道技術研究所に通う。 1970 年毎日新聞社入社。成田支局で航空機関連を取材。以後、メディア関連を担当する編集委員などを歴任し、 2003 年退社。フリーランスとして執筆活動を続けている。

<著書>
『 鉄道を支える匠の技 訪ね歩いた、ものづくりの現場 』 19 年 6 月 14 日発売予定) 『 蒸気機関車の動態保存 地方私鉄の救世主になりうるか 』『 箱根の山に挑んだ鉄路 「天下の険」を越えた技 』(いずれも交通新聞社新書)など

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目次 抜粋(全66項目)
第1章 電車の歴史
電車による営業運転、世界初はベルリン「普及の要は、狭い国土や急勾配」
日本最初の営業運転は古都 ・京都「琵琶湖疏水の水力発電を活用」
イギリス・マン島に現存する126歳の電車「世界唯一の『フェル式』鉄道も健在」

第2章 どうやって動くの?
求めるのは、より高いエネルギー効率
「蒸気、ガソリン、そしてディーゼル」
動力は「分散」か「集中」か
「軟弱な路盤が生んだ『電車王国』」
送電は「架線」か「第三軌条」か「架線が主流も、トンネル径の縮小などで第三軌条を活用」

第3章 どうやって止めるの?
この先の鉄路の安全を示す鉄道信号「2本のレールを使った『軌道回路』がシステムの基本」
信号見逃しはATS装置が守る
「必要な情報を無線で送るATS-Pの開発でより安全に」
在来線の速度を規制する600m規定「このルール適用で、最高速度は時速130kmに」

第4章 線路は続くよ
後生に禍根を残した、1067mmの狭軌「新幹線と在来線の軌間が異なるのは日本だけ」
線路を形成する3つの異なる方式「支える方法はバラスト、スラブにラダー軌道」
分岐器が決める列車の進路「線路上の弱点を補う精密機械」

第5章 乗り心地
高速での曲線通過に振子式車両
「古くからの『自然式』と、JR発足後の『制御付』」
車両冷房に、「 集中式」と「分散式 」「設置場所は屋根上が主流も、新幹線は重心の関係で床下に」
トイレ、処理技術の進歩で快適空間に
「垂れ流しから、今は『真空』と『清水空圧』が並立」

第6章 乗ったり、降りたり
線路に接する形で分かれるホーム「日本少数派でも欧州に多い頭端式」
乗車券、縦横の大きさは世界共通「19世紀にイギリスの駅長が考案」
券売機、時代とともに多能式から多言語へ
「模索する、外国からの観光客も使える機械」

第7章 電車のあれこれ
世界に先駆け、鉄道にもハイブリッド「機構の複雑さと蓄電池の重さが普及の妨げに」
架線もパンタもいりません、蓄電池電車「関東は烏山線、九州は筑豊本線で日本初の実用化」
「鉄輪式」と「浮上式」に分かれる リニア「磁石のS極とS極の反発、S極とN極の吸引が原理」

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