ジャパンディスプレイは本当にシャープの液晶事業が必要なのか
新工場が来年夏に稼働。生産能力や需給はどうなる?
シャープの液晶事業の売却先候補として浮上しているジャパンディスプレイ(JDI)。JDIは来年夏にスマートフォン用の高精細液晶パネルの大型工場が稼働する。果たして生産面からシャープの液晶事業が必要なのか。液晶工場の建設計画を発表した今年3月に日刊工業新聞の記事から考えてみたい。
ジャパンディスプレイの新工場建設は、中小型液晶パネル業界の勢力図に影響を及ぼす可能性を秘める。米アップルとの取引拡大を図るJDIが頭一つ抜け出す半面、シャープは苦境に立たされるケースが増えると予想される。シャープを軸に業界再編がくすぶり始めた。
JDIの新工場の生産能力は稼働当初は月2万5000枚だが、同7万5000枚まで増やせる余力がある。さらに将来は同10万枚を視野に入れている。
現在、中小型液晶市場のトップ3はJDIと韓国LGディスプレイがほぼ拮抗(きっこう)し、少し下がってシャープが3位。JDIが新工場を建設し、想定通りの受注をアップルから得られれば、JDIのシェアは飛躍的に高まる。
一方、アップルに対するシャープの存在感は相対的に薄くなる。シャープが下位サプライヤーの地位に落ちれば、「生産調整弁として利用されるケースが増える可能性がある」(ディスプレイサーチの早瀬宏シニアディレクター上席アナリスト)。
そうなれば中小型液晶事業の変動性は今まで以上に高まり、シャープの経営再建の足枷(あしかせ)になる。シャープの苦境を見越してか、水面下では合従連衡を探る動きが活発化し始めた。
液晶メーカーのイノラックスを傘下に持つ台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業グループは、シャープとの関係強化に意欲をみせる。新工場建設でJDIとアップルが交渉している最中にも、「シャープと組んで技術力を補うシナリオを携え、郭台銘(テリーゴー)董事長がアップル本社に乗り込み、横やりを入れた」(業界関係者)との証言もある。
また産業革新機構幹部が「シャープとは継続的に話している」と明かすように、JDIとシャープを統合させ“日の丸液晶”を完成させようという動きもくすぶり始めている。
●野村証券アナリスト・岡崎優氏「競争激化がリスク要因」
JDIはもともと生産能力が不足してきており、その解消に向けた順当な投資だと受け止めている。公表されている「従来比20%強の月産2万5000枚」という生産能力では、業界への影響は軽微と見られる。ただ、その生産能力が当初の1・5倍、2倍になるとすれば、競合メーカーを巻き込み業界に影響が出てくる可能性はある。
JDIの経営陣は従来「需要を見ながら検討するが、財務体質のリスクとなる投資はしない」という方針を貫いている。今回の投資でもそのスタンスは確認でき、市場にもポジティブな印象を与えるのではないか。一方で業界全体では、需給バランスが不安定な状況が続いている。中国や台湾の主要メーカーを含めた競争激化が、潜在的なリスク要因になりうるだろう。(談)
●ディスプレイサーチシニアディレクター上席アナリスト・早瀬宏氏「中国との取引拡大を」
JDIの新工場建設は、同社がアップルのファーストサプライヤーになることを意味しており、基本的にはポジティブだ。一方、生産規模が大きくなると、受注変動の幅も大きくなる。アップルの穴が空いた時に、どう稼働率を維持するかがカギになる。
中国スマホメーカーとの取引拡大が必要。差別化できる高機能パネルの受注を増やすことが理想だが、安い汎用品をつくらざるを得ない状況にもなるだろう。地道なコスト削減も求められる。シャープは亀山第1工場(三重県亀山市)の能力増強が難しく、アップルとの取引量は現状維持が精いっぱいだろう。経営再建のため中小型液晶事業のJDIとの統合論を耳にするが、海外の規制当局の認可が下りない可能性が高く現実的でないとみる。(談)
●モルガン・スタンレーMUFG証券アナリスト・小野雅弘氏「合従連衡起きる可能性」
JDIは米アップルから相当数の受注量を獲得したとみられる。供給先の確保は業績変動を抑制することにつながり、15年度は売上高が7726億円、営業利益率は5・8%と推定。当面、安定成長が期待できる。ただ、アップルの資金提供や専用工場ではないといった好条件でも、設備の所有者はあくまでJDI。16年に発売する新モデルの販売台数が当初想定より下回れば減損処理が発生するリスクはある。
中国スマホ向けパネルの価格下落を受け、アップルも値下げを要求する可能性があり、対応力が問われる。競争環境はJDIが韓国LGディスプレイやシャープと比べシェアで上回る構図が続く。シャープは投資余力が限定的ということもあり、業界で合従連衡が起きる可能性がある。(談)
※アナリストの予測は今年3月時点のものです。
鴻海のテリー・ゴー会長はアップルに乗り込み新工場に横やり!?
ジャパンディスプレイの新工場建設は、中小型液晶パネル業界の勢力図に影響を及ぼす可能性を秘める。米アップルとの取引拡大を図るJDIが頭一つ抜け出す半面、シャープは苦境に立たされるケースが増えると予想される。シャープを軸に業界再編がくすぶり始めた。
JDIの新工場の生産能力は稼働当初は月2万5000枚だが、同7万5000枚まで増やせる余力がある。さらに将来は同10万枚を視野に入れている。
現在、中小型液晶市場のトップ3はJDIと韓国LGディスプレイがほぼ拮抗(きっこう)し、少し下がってシャープが3位。JDIが新工場を建設し、想定通りの受注をアップルから得られれば、JDIのシェアは飛躍的に高まる。
一方、アップルに対するシャープの存在感は相対的に薄くなる。シャープが下位サプライヤーの地位に落ちれば、「生産調整弁として利用されるケースが増える可能性がある」(ディスプレイサーチの早瀬宏シニアディレクター上席アナリスト)。
そうなれば中小型液晶事業の変動性は今まで以上に高まり、シャープの経営再建の足枷(あしかせ)になる。シャープの苦境を見越してか、水面下では合従連衡を探る動きが活発化し始めた。
液晶メーカーのイノラックスを傘下に持つ台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業グループは、シャープとの関係強化に意欲をみせる。新工場建設でJDIとアップルが交渉している最中にも、「シャープと組んで技術力を補うシナリオを携え、郭台銘(テリーゴー)董事長がアップル本社に乗り込み、横やりを入れた」(業界関係者)との証言もある。
また産業革新機構幹部が「シャープとは継続的に話している」と明かすように、JDIとシャープを統合させ“日の丸液晶”を完成させようという動きもくすぶり始めている。
《アナリストはこう見る》
●野村証券アナリスト・岡崎優氏「競争激化がリスク要因」
JDIはもともと生産能力が不足してきており、その解消に向けた順当な投資だと受け止めている。公表されている「従来比20%強の月産2万5000枚」という生産能力では、業界への影響は軽微と見られる。ただ、その生産能力が当初の1・5倍、2倍になるとすれば、競合メーカーを巻き込み業界に影響が出てくる可能性はある。
JDIの経営陣は従来「需要を見ながら検討するが、財務体質のリスクとなる投資はしない」という方針を貫いている。今回の投資でもそのスタンスは確認でき、市場にもポジティブな印象を与えるのではないか。一方で業界全体では、需給バランスが不安定な状況が続いている。中国や台湾の主要メーカーを含めた競争激化が、潜在的なリスク要因になりうるだろう。(談)
●ディスプレイサーチシニアディレクター上席アナリスト・早瀬宏氏「中国との取引拡大を」
JDIの新工場建設は、同社がアップルのファーストサプライヤーになることを意味しており、基本的にはポジティブだ。一方、生産規模が大きくなると、受注変動の幅も大きくなる。アップルの穴が空いた時に、どう稼働率を維持するかがカギになる。
中国スマホメーカーとの取引拡大が必要。差別化できる高機能パネルの受注を増やすことが理想だが、安い汎用品をつくらざるを得ない状況にもなるだろう。地道なコスト削減も求められる。シャープは亀山第1工場(三重県亀山市)の能力増強が難しく、アップルとの取引量は現状維持が精いっぱいだろう。経営再建のため中小型液晶事業のJDIとの統合論を耳にするが、海外の規制当局の認可が下りない可能性が高く現実的でないとみる。(談)
●モルガン・スタンレーMUFG証券アナリスト・小野雅弘氏「合従連衡起きる可能性」
JDIは米アップルから相当数の受注量を獲得したとみられる。供給先の確保は業績変動を抑制することにつながり、15年度は売上高が7726億円、営業利益率は5・8%と推定。当面、安定成長が期待できる。ただ、アップルの資金提供や専用工場ではないといった好条件でも、設備の所有者はあくまでJDI。16年に発売する新モデルの販売台数が当初想定より下回れば減損処理が発生するリスクはある。
中国スマホ向けパネルの価格下落を受け、アップルも値下げを要求する可能性があり、対応力が問われる。競争環境はJDIが韓国LGディスプレイやシャープと比べシェアで上回る構図が続く。シャープは投資余力が限定的ということもあり、業界で合従連衡が起きる可能性がある。(談)
※アナリストの予測は今年3月時点のものです。
日刊工業新聞2015年03月10日 電機・電子部品・情報・通信面の記事に加筆