METI
鍛冶が源流の鉄工所、防爆試験機で航空機産業で欠かせない存在に
自ら市場を創出する攻めの姿勢
圧力容器製造の羽生田鉄工所。鍛冶を源流とし135年にわたる、ものづくりの歴史を持つ同社がいま、周辺技術を含めたエンジニアリング、さらには航空機・宇宙産業といった先端技術分野で新たな地平を切り拓こうとしている。
同社の創業は1884年。鉄の加工を通じて培ってきた技術をボイラー製造や生産設備向け圧力容器へと時代のニーズに合わせて多様化し、キノコ栽培用滅菌釜は主力商品のひとつである。近年は炭素繊維強化プラスチック(CFRP)など複合材の成形機器であるオートクレーブを事業の柱のひとつと位置づけており、産学連携を通じた次世代技術開発にも力を注ぐ。
とりわけ複合材は従来の金属素材に比べ、自動車や航空機、産業用ロボットなどの軽量化につながることから世界的に需要が拡大。同社は、CFRP成形用のオートクレーブを2005年に製品化し、研究機関などに納入実績がある。
成形サイクルを大幅に短縮した「ハイサイクル・オートクレーブ」は、経済産業省の戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン)に採択され、産学連携で開発を進めてきた。専用ヒーターで対象物だけを直接、加熱する手法を採用することで、複雑形状で高温が必要な対象物の加熱が可能となり、高効率で迅速な処理が求められるCFRPの成形や樹脂の配合、積層の条件出しといった工程での需要を見込んでいる。
圧力容器の応用技術として、製品化したのは、航空機装備品の開発に欠かせない防爆試験機。コックピットのデジタルメーターや燃料タンク周りの電装品などが発熱したり、周囲の可燃性ガスに触れても、爆発を引き起こさないことを証明する装置で、民間航空機用の装備品の防爆試験規格をはじめ国際規格に準拠した装置としては日本初。
航空機特有の気圧変化を再現しながら、充満させるガス量を設定するといったプログラミング設計を駆使して、世界で初めて全工程を自動化。装置に加え、関連技術としてソフトウエアを含めたエンジニアリングを提供できる技術力が成果につながった。
CFRP成形用のオートクレーブを主力の一つとする同社だが、課題はCFRPをはじめとした複合材を活用したものづくりの普及拡大だ。「付加価値が高いことは認識されつつも、多くの企業にとって未経験であるがゆえに『敷居』が高いと捉えられがち」(羽生田大陸取締役)だからだ。
そこで、CFRPの可能性をより多くの企業に体感してもらうことを狙いに、2018年に設立した組織が「コンポジットセンター」。この4月には本社にラボを設置し、ハイサイクルオートクレーブなどで培ってきた成形・設計ノウハウを活用し試作機会などを提供。量産化のカギとなるサプライチェーンの構築まで後押しする取り組みだ。装置を開発し、受注を待つという受け身の姿勢ではなく、複合材を使ったものづくりの提案により、自ら市場を創出する攻めの姿勢がうかがえる。
地元・信州大学が開発した人工衛星「ぎんれい」に構体用のパネルを提供したことをきっかけに、宇宙産業への参入にも挑む。
2019年4月、羽生田豪太社長が部会長を務める長野商工会議所工業部会を事務局として「長野宇宙利用産業研究会」が発足した。
地域における宇宙利用産業創出を旗印に掲げ、宇宙システム開発利用推進機構(JSS)やリモート・センシング技術センター(RESTEC)など関連団体と衛星データ利用に関する技術的な課題解決で連携を進めている。衛星データ・リモートセンシングの活用、高精度測位の活用などについて情報を共有し、今後、さまざまな実証事業に取り組む計画だ。
人類初の月面着陸から半世紀あまり。いま、世界的に宇宙産業は大きな転換点を迎えている。宇宙からもたらされるデータという「新たな資源」が産業に及ぼすインパクトは大きく、日本でも、衛星画像を通じて農作物の生育状況や土壌の肥沃度を分析することで生産効率化につなげる取り組みが全国的に広がっている。
「長野宇宙利用産業研究会」でも、先進的な取り組みを進める地域との連携を図ると同時に、県別出荷額で全国トップのワイン用ブドウの栽培に衛星データを活用する方策を探るプロジェクトが近く始動する。
4代目社長である羽生田豪太氏は、OEM(相手先ブランド生産)にとどまらず「自社の裁量、技術力で成長の糧を見いださなければならない」と語る。現状に甘んじない危機感こそ、各社が参入を夢見る先端分野で存在感を発揮する原動力である。
CFRPの可能性
同社の創業は1884年。鉄の加工を通じて培ってきた技術をボイラー製造や生産設備向け圧力容器へと時代のニーズに合わせて多様化し、キノコ栽培用滅菌釜は主力商品のひとつである。近年は炭素繊維強化プラスチック(CFRP)など複合材の成形機器であるオートクレーブを事業の柱のひとつと位置づけており、産学連携を通じた次世代技術開発にも力を注ぐ。
とりわけ複合材は従来の金属素材に比べ、自動車や航空機、産業用ロボットなどの軽量化につながることから世界的に需要が拡大。同社は、CFRP成形用のオートクレーブを2005年に製品化し、研究機関などに納入実績がある。
成形サイクルを大幅に短縮した「ハイサイクル・オートクレーブ」は、経済産業省の戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン)に採択され、産学連携で開発を進めてきた。専用ヒーターで対象物だけを直接、加熱する手法を採用することで、複雑形状で高温が必要な対象物の加熱が可能となり、高効率で迅速な処理が求められるCFRPの成形や樹脂の配合、積層の条件出しといった工程での需要を見込んでいる。
国際規格準拠の防爆試験機
圧力容器の応用技術として、製品化したのは、航空機装備品の開発に欠かせない防爆試験機。コックピットのデジタルメーターや燃料タンク周りの電装品などが発熱したり、周囲の可燃性ガスに触れても、爆発を引き起こさないことを証明する装置で、民間航空機用の装備品の防爆試験規格をはじめ国際規格に準拠した装置としては日本初。
航空機特有の気圧変化を再現しながら、充満させるガス量を設定するといったプログラミング設計を駆使して、世界で初めて全工程を自動化。装置に加え、関連技術としてソフトウエアを含めたエンジニアリングを提供できる技術力が成果につながった。
市場創出へ新たなものづくり提案
CFRP成形用のオートクレーブを主力の一つとする同社だが、課題はCFRPをはじめとした複合材を活用したものづくりの普及拡大だ。「付加価値が高いことは認識されつつも、多くの企業にとって未経験であるがゆえに『敷居』が高いと捉えられがち」(羽生田大陸取締役)だからだ。
そこで、CFRPの可能性をより多くの企業に体感してもらうことを狙いに、2018年に設立した組織が「コンポジットセンター」。この4月には本社にラボを設置し、ハイサイクルオートクレーブなどで培ってきた成形・設計ノウハウを活用し試作機会などを提供。量産化のカギとなるサプライチェーンの構築まで後押しする取り組みだ。装置を開発し、受注を待つという受け身の姿勢ではなく、複合材を使ったものづくりの提案により、自ら市場を創出する攻めの姿勢がうかがえる。
地元・信州大学が開発した人工衛星「ぎんれい」に構体用のパネルを提供したことをきっかけに、宇宙産業への参入にも挑む。
2019年4月、羽生田豪太社長が部会長を務める長野商工会議所工業部会を事務局として「長野宇宙利用産業研究会」が発足した。
地域における宇宙利用産業創出を旗印に掲げ、宇宙システム開発利用推進機構(JSS)やリモート・センシング技術センター(RESTEC)など関連団体と衛星データ利用に関する技術的な課題解決で連携を進めている。衛星データ・リモートセンシングの活用、高精度測位の活用などについて情報を共有し、今後、さまざまな実証事業に取り組む計画だ。
人類初の月面着陸から半世紀あまり。いま、世界的に宇宙産業は大きな転換点を迎えている。宇宙からもたらされるデータという「新たな資源」が産業に及ぼすインパクトは大きく、日本でも、衛星画像を通じて農作物の生育状況や土壌の肥沃度を分析することで生産効率化につなげる取り組みが全国的に広がっている。
「長野宇宙利用産業研究会」でも、先進的な取り組みを進める地域との連携を図ると同時に、県別出荷額で全国トップのワイン用ブドウの栽培に衛星データを活用する方策を探るプロジェクトが近く始動する。
4代目社長である羽生田豪太氏は、OEM(相手先ブランド生産)にとどまらず「自社の裁量、技術力で成長の糧を見いださなければならない」と語る。現状に甘んじない危機感こそ、各社が参入を夢見る先端分野で存在感を発揮する原動力である。