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プロスポーツチームと新興企業、本当に「幸福な関係」は可能?
今度はメルカリも、問われる事業化への本気度
メルカリは30日、プロサッカーリーグ(Jリーグ)のクラブチーム「鹿島アントラーズ」の経営に参画すると発表した。メルカリは日本製鉄などが保有する鹿島アントラーズ・エフ・シー(茨城県鹿嶋市)の発行済み株式の61・6%を取得する。取得日は8月末を予定し、買収総額は約16億円。メルカリは2017年から企業スポンサーとして鹿島アントラーズを支援。今後観客の拡大などに取り組む。
メルカリは今後、鹿島アントラーズの選手にフリーマーケットアプリケーション「メルカリ」に商品を出品してもらうことなどを想定。フリマアプリでユーザー数が少ない40代以降の男性にメルカリを利用してもらう契機とする。
IT企業のプロスポーツ経営への参入が相次ぐ。サイバーエージェントはJ2のFC町田ゼルビアの経営権を取得したほか、ミクシィもJ1のFC東京に出資している。
鹿島アントラーズは新日本製鉄(現日本製鉄)と合併する前の住友金属工業(同)で活動していたサッカー同好会が母体。新日鉄と住金の合併で12年に発足した新日鉄住金が今年4月に「日本製鉄」へ改称し、社名から「住金」の文字が消えたのに続くアントラーズの経営権譲渡に対し、旧住金関係者の間で反発が強まる可能性がある。
プロスポーツチームがベンチャー企業と協業し、新しい事業を立ち上げようとする動きが広がり始めた。プロ野球の横浜DeNAベイスターズやサッカーJリーグの清水エスパルスがベンチャー企業との協業を目指す「アクセラレータープログラム」に挑戦している。ベンチャーの新しいアイデアや技術と、チームが持つ顧客データやスタジアム空間といった資源を掛け合わせてファンを増やしたり、ファンとの接点を強化したりするビジネスを構築する。自社の資源を活用し、事業の幅を広げて収益源を多様化することで、チームの強化費などを拡大する好循環を狙う。
政府は2025年にスポーツ産業を12年比2.7倍の15兆円市場に拡大する目標を掲げる。スポーツチームとベンチャー企業の協業はその実現に向けた一翼を担う期待がある。一方、スポーツチーム運営企業の多くは、新しい事業の立ち上げに関わる人材や体制が不十分という現状があり、協業に向けた課題になっている。
11月上旬、横浜市中区の飲食店でキャッシュレス決済の実証が行われた。利用者はスマートフォンで支払う金額を設定し、店員がその画面に電子スタンプを押すと決済が完了する。実証は横浜市民ら約40人が体験し、参加者からは「スタンプを押す仕組みは面白くて印象に残る」といった声が上がった。
この実証は横浜DeNAベイスターズ(横浜市中区)が検討を進める「電子地域通貨構想」の一環だ。電子ギフトサービスを手がけるベンチャーのギフティ(東京都品川区)と協業し、5月に着手した。本拠地の横浜スタジアムやその周辺の飲食店などで利用できる電子通貨を発行し、購買データなどを蓄積・活用して飲食店などに観戦客を送客する体制を目指す。観戦客の利便性や地域の回遊性を高めることで消費を促し、地域の活性化やチームの収益拡大につなげる。
ベイスターズは17年12月にアクセラレータープログラム「BAYSTARS Sports Accelerator」を立ち上げた。新たなスポーツ産業を生み出して横浜の街を活性化する「横浜スポーツタウン構想(※)」を掲げており、それを推進するためだ。ベイスターズ事業本部経営・IT戦略部の林裕幸部長は「スポーツ産業を生み出すには新しい事業アイデアを持つ多くのベンチャー企業に対し、我々が(スタジアム空間などの)アセットを提供できることを知ってもらい、協業を実現する仕組みが必要と考えた」と説明する。
※横浜スポーツタウン構想:横浜DeNAベイスターズが17年1月に掲げた街づくり構想。本拠地の横浜スタジアムを起点にスポーツを通じた地域活性化を目指す。同3月にはこの構想を基に横浜市などと包括連携協定を締結した。また、横浜市中区の旧関東財務局横浜財務事務所を活用し、構想の実現に向けた中核施設「THE BAYS(ザ・ベイス)」を開設した。岡村信悟社長は「横浜をスポーツのシリコンバレーにしたい」と意気込んでおり、アクセラレータープログラムの発足はこの呼び水にする狙いもある。>
ギフティはプログラムの第1期として応募があった52件から採択された。「スポーツタウン構想の実現に向けてキャッシュレス決済は必然性が高いテーマ。その中でギフティの提案は店舗側の決済インフラが電子スタンプだけでよい強みがあるため、加盟店を広げやすいと考えて採択した」(林部長)。今後は電子地域通貨を使うメリットや決済手数料のあり方、チャージ手段などを論点に事業化を検討する。
プロスポーツチームが「アクセラレータープログラム」を立ち上げ、新たな事業の構築を目指す動きは海外が先行する。15年に始めた米メジャーリーグのロサンゼルス・ドジャースは草分け的な存在として知られ、英サッカープレミアリーグのアーセナルなども取り組む。国内ではベイスターズが先鞭をつけ、それに続いたチームが清水エスパルスだ。日本IBMの協力を受け、ことし4月に「SHIMIZU S‐PULSE INNOVATIN Lab.」を立ち上げた。
Jリーグはファンの平均年齢が上昇傾向にあり、若年層のファン獲得は急務。エスパルスもそこに危機感を持っていた。また、エスパルスの売上高は長年30億―40億円程度で推移しており、恒常的に40億円超の売り上げを実現することで、チームの強化費などを増やしたい思いがあった。そこで、ファン層の拡大などに向けて外部との協業が必要と判断した。
清水エスパルスを運営するエスパルス(静岡市清水区)経営戦略室の森谷理広報部長は「ベンチャーの知見や技術を取り込むことで(我々が気づいていないビジネスにおける)『清水エスパルス』のポテンシャルを発見できるのではないか」と期待する。また、協力する日本IBMの岡田明シニアマネージングコンサルタントは「静岡にはサッカーの文化が根付いている。その熱量をオープンイノベーションに生かすことで(新たなビジネスが生まれれば)、地域経済の活性化にもつながる」と力を込める。
スタジアムでの新しい観戦体験やファン層拡大などをテーマに募集し、7月に5件を採択。それから10月までワークショップを5回開き、提案の事業性や実現性を検証してきた。そうした提案の中で、エスパルスは、観戦客がゴールを決める選手などを予想してポイントを投じ、正解して一定のポイントが溜まった場合には特別なイベントなどに招待する「スタジアム・ベッティング」や「キャッシュレスサービス」に可能性を感じており、これらについて事業化の検討を続ける。
プロスポーツチームのアクセラレータープログラムはチーム側が新しい発想を得られる一方、ベンチャー企業にとってもメリットが大きい。ベンチャー企業からは「スタジアムという実証環境が与えられる点は魅力」といった声が上がる。ただ、両者の協業は決して簡単ではない。
特に国内のプロスポーツチーム運営企業は、事業の立ち上げに関わる人材や体制が十分ではないという課題を抱える。Jリーグと経営戦略などに関するアライアンス契約を結ぶデロイト トーマツファイナンシャルアドバイザリー(デロイト トーマツFA、東京都千代田区)の里﨑慎シニアヴァイスプレジデントは「日本ではこれまで『スポーツは“体育という教育”』として捉えられていたからか、スポーツというコンテンツを(試合興行以外の)ビジネスに活用することがタブー視されてきた。そのためスポーツチームにはビジネス感覚を持つ人材を一定期間コミットする環境ができていない」と指摘する。
実際にプロスポーツチームのアクセラレータープログラムに参加したあるベンチャーは「チーム側の事業化に対する本気度が正直不透明だった。事業化の可能性があいまいなプログラムに何ヶ月もかけて参加するのはつらい」と漏らす。
一方、スポーツチームの関係者からは「ベンチャー企業の提案は試合映像の権利の問題など(我々の業界に関わる多様な)ルールを理解しておらず、実現可能性に乏しい提案があった」という声も聞かれた。一部のプログラムではプロスポーツチームとベンチャーの間には少なからず壁があるのが現状のようだ。
政府が掲げるスポーツ産業の拡大において、スポーツチームとベンチャーの協業による新産業の創出は重要な要素だ。先陣を切ったプロスポーツチームが具体的な事業化にこぎつけられるか、今後のスポーツ産業の活性化に向けた試金石になりそうだ。
※内容・肩書きは当時のもの
メルカリは今後、鹿島アントラーズの選手にフリーマーケットアプリケーション「メルカリ」に商品を出品してもらうことなどを想定。フリマアプリでユーザー数が少ない40代以降の男性にメルカリを利用してもらう契機とする。
IT企業のプロスポーツ経営への参入が相次ぐ。サイバーエージェントはJ2のFC町田ゼルビアの経営権を取得したほか、ミクシィもJ1のFC東京に出資している。
鹿島アントラーズは新日本製鉄(現日本製鉄)と合併する前の住友金属工業(同)で活動していたサッカー同好会が母体。新日鉄と住金の合併で12年に発足した新日鉄住金が今年4月に「日本製鉄」へ改称し、社名から「住金」の文字が消えたのに続くアントラーズの経営権譲渡に対し、旧住金関係者の間で反発が強まる可能性がある。
日刊工業新聞2019年7月31日
突破せよ、スポーツ×ベンチャー
プロスポーツチームがベンチャー企業と協業し、新しい事業を立ち上げようとする動きが広がり始めた。プロ野球の横浜DeNAベイスターズやサッカーJリーグの清水エスパルスがベンチャー企業との協業を目指す「アクセラレータープログラム」に挑戦している。ベンチャーの新しいアイデアや技術と、チームが持つ顧客データやスタジアム空間といった資源を掛け合わせてファンを増やしたり、ファンとの接点を強化したりするビジネスを構築する。自社の資源を活用し、事業の幅を広げて収益源を多様化することで、チームの強化費などを拡大する好循環を狙う。
政府は2025年にスポーツ産業を12年比2.7倍の15兆円市場に拡大する目標を掲げる。スポーツチームとベンチャー企業の協業はその実現に向けた一翼を担う期待がある。一方、スポーツチーム運営企業の多くは、新しい事業の立ち上げに関わる人材や体制が不十分という現状があり、協業に向けた課題になっている。
ベイスターズ、街ごと電子通貨構想
11月上旬、横浜市中区の飲食店でキャッシュレス決済の実証が行われた。利用者はスマートフォンで支払う金額を設定し、店員がその画面に電子スタンプを押すと決済が完了する。実証は横浜市民ら約40人が体験し、参加者からは「スタンプを押す仕組みは面白くて印象に残る」といった声が上がった。
この実証は横浜DeNAベイスターズ(横浜市中区)が検討を進める「電子地域通貨構想」の一環だ。電子ギフトサービスを手がけるベンチャーのギフティ(東京都品川区)と協業し、5月に着手した。本拠地の横浜スタジアムやその周辺の飲食店などで利用できる電子通貨を発行し、購買データなどを蓄積・活用して飲食店などに観戦客を送客する体制を目指す。観戦客の利便性や地域の回遊性を高めることで消費を促し、地域の活性化やチームの収益拡大につなげる。
ベイスターズは17年12月にアクセラレータープログラム「BAYSTARS Sports Accelerator」を立ち上げた。新たなスポーツ産業を生み出して横浜の街を活性化する「横浜スポーツタウン構想(※)」を掲げており、それを推進するためだ。ベイスターズ事業本部経営・IT戦略部の林裕幸部長は「スポーツ産業を生み出すには新しい事業アイデアを持つ多くのベンチャー企業に対し、我々が(スタジアム空間などの)アセットを提供できることを知ってもらい、協業を実現する仕組みが必要と考えた」と説明する。
ギフティはプログラムの第1期として応募があった52件から採択された。「スポーツタウン構想の実現に向けてキャッシュレス決済は必然性が高いテーマ。その中でギフティの提案は店舗側の決済インフラが電子スタンプだけでよい強みがあるため、加盟店を広げやすいと考えて採択した」(林部長)。今後は電子地域通貨を使うメリットや決済手数料のあり方、チャージ手段などを論点に事業化を検討する。
エスパルス、ベッティングに可能性
プロスポーツチームが「アクセラレータープログラム」を立ち上げ、新たな事業の構築を目指す動きは海外が先行する。15年に始めた米メジャーリーグのロサンゼルス・ドジャースは草分け的な存在として知られ、英サッカープレミアリーグのアーセナルなども取り組む。国内ではベイスターズが先鞭をつけ、それに続いたチームが清水エスパルスだ。日本IBMの協力を受け、ことし4月に「SHIMIZU S‐PULSE INNOVATIN Lab.」を立ち上げた。
Jリーグはファンの平均年齢が上昇傾向にあり、若年層のファン獲得は急務。エスパルスもそこに危機感を持っていた。また、エスパルスの売上高は長年30億―40億円程度で推移しており、恒常的に40億円超の売り上げを実現することで、チームの強化費などを増やしたい思いがあった。そこで、ファン層の拡大などに向けて外部との協業が必要と判断した。
清水エスパルスを運営するエスパルス(静岡市清水区)経営戦略室の森谷理広報部長は「ベンチャーの知見や技術を取り込むことで(我々が気づいていないビジネスにおける)『清水エスパルス』のポテンシャルを発見できるのではないか」と期待する。また、協力する日本IBMの岡田明シニアマネージングコンサルタントは「静岡にはサッカーの文化が根付いている。その熱量をオープンイノベーションに生かすことで(新たなビジネスが生まれれば)、地域経済の活性化にもつながる」と力を込める。
スタジアムでの新しい観戦体験やファン層拡大などをテーマに募集し、7月に5件を採択。それから10月までワークショップを5回開き、提案の事業性や実現性を検証してきた。そうした提案の中で、エスパルスは、観戦客がゴールを決める選手などを予想してポイントを投じ、正解して一定のポイントが溜まった場合には特別なイベントなどに招待する「スタジアム・ベッティング」や「キャッシュレスサービス」に可能性を感じており、これらについて事業化の検討を続ける。
事業化への本気度が不透明
プロスポーツチームのアクセラレータープログラムはチーム側が新しい発想を得られる一方、ベンチャー企業にとってもメリットが大きい。ベンチャー企業からは「スタジアムという実証環境が与えられる点は魅力」といった声が上がる。ただ、両者の協業は決して簡単ではない。
特に国内のプロスポーツチーム運営企業は、事業の立ち上げに関わる人材や体制が十分ではないという課題を抱える。Jリーグと経営戦略などに関するアライアンス契約を結ぶデロイト トーマツファイナンシャルアドバイザリー(デロイト トーマツFA、東京都千代田区)の里﨑慎シニアヴァイスプレジデントは「日本ではこれまで『スポーツは“体育という教育”』として捉えられていたからか、スポーツというコンテンツを(試合興行以外の)ビジネスに活用することがタブー視されてきた。そのためスポーツチームにはビジネス感覚を持つ人材を一定期間コミットする環境ができていない」と指摘する。
実際にプロスポーツチームのアクセラレータープログラムに参加したあるベンチャーは「チーム側の事業化に対する本気度が正直不透明だった。事業化の可能性があいまいなプログラムに何ヶ月もかけて参加するのはつらい」と漏らす。
一方、スポーツチームの関係者からは「ベンチャー企業の提案は試合映像の権利の問題など(我々の業界に関わる多様な)ルールを理解しておらず、実現可能性に乏しい提案があった」という声も聞かれた。一部のプログラムではプロスポーツチームとベンチャーの間には少なからず壁があるのが現状のようだ。
政府が掲げるスポーツ産業の拡大において、スポーツチームとベンチャーの協業による新産業の創出は重要な要素だ。先陣を切ったプロスポーツチームが具体的な事業化にこぎつけられるか、今後のスポーツ産業の活性化に向けた試金石になりそうだ。
ニュースイッチ2018年11月27日
※内容・肩書きは当時のもの