猛暑到来!「働く人」を暑さから守る技術やサービス続々
長引く梅雨がこれから全国的に明け、夏が到来する。夏場は屋内外で熱中症などにならないように体調管理に気をつけなければならない。そこで注目されるのが、IoT(モノのインターネット)技術やスマートフォン、ウエアラブル機器などを活用して体調管理につながる情報を見える化するサービスだ。体調管理で問題なのは個人の主観のみに頼って対策を講じてしまうことだ。気温や湿度といった環境情報や生体情報を基に客観的に判断することが重要になる。
日本の夏は高温多湿で、気温が35度Cを超える猛暑日も年々増えつつある。企業は特に現場で働く作業員の健康状態をしっかりと把握する必要があり、熱によるストレスを測定するなど作業員の安全を守るサービスの利用が進みそうだ。
KDDIは製造現場や建築現場で作業員の労働災害を抑制するサービスを手がける。作業員が身に付けた腕時計型のウエラブル端末などにより、温湿度といった周囲の環境や作業員の脈拍を測定する。
それらの情報を組み合わせて個人ごとの「熱ストレスレベル」を推定し、4段階で評価。危険と判断された場合は現場責任者や作業者本人のスマートフォンなどに自動通知し、注意を促す仕組みだ。万が一労働災害が発生した場合も、早期発見につなげて被害を最小限に抑えられる。ウエアラブル端末の価格は1台月6000円で、別途初期費用が必要となる。
戸田建設と村田製作所はIoTとセンサー技術を活用した「作業者安全モニタリングシステム」を共同開発した。ヘルメットのセンサーデバイスにより、建設作業者の生体情報や作業環境を即時に監視できる。
ヘルメットのセンサーデバイスは内バンドに装着する生体情報測定部、後部に装着する環境情報測定部で構成。これらが脈拍や活動量、周辺の温・湿度を測定し、「熱ストレス」と呼ぶ独自パラメーターで健康状態を判断する。
計測したデータをクラウド上で解析し、作業者の生体情報に変化があれば、警報情報を事務所のパソコンや現場監督のスマホに配信、適切に健康管理を行える。
戸田建設は10階建て建設現場で実証実験し、スムーズな稼働を確認。その後、作業者が200人規模の建設現場に適用している。
シミックホールディングス(HD)と東北大学は、IoT技術を活用し耳たぶの温度を遠隔監視することで、熱中症の予防につなげる機器の共同研究を始めた。機器は夏場の屋外作業など熱中症の危険が高い環境で使用を見込む。機器を使えば作業者の「暑熱ストレス」を可視化し監視することが可能で、管理者などはストレスの度合いが高い作業者に早期に休憩を促すことができるという。
機器は耳たぶの表面温度を計測することで、暑熱ストレスと高い相関性のある脳の温度を遠隔で把握する。今の熱中症対策では個人ごとの注意喚起は難しい。機器を活用すれば個人に最適なタイミングで休憩を取らせることなどが可能で、効果が期待できそうだ。両者は今夏にも試作機を使った実証実験を実施し、2020年夏頃の実用化を目指す。
TDKは16年に東芝から買収したリストバンド型活動量計「シルミー」シリーズを、医療・介護現場をはじめ、生産・物流現場でも活用できるよう提供している。
同活動量計は加速度センサー、脈拍センサー、紫外線センサー、温度センサーを内蔵。リストバンド装着者の脈拍、皮膚温度、活動量、紫外線照射などを測定し、クラウドに自動転送するため、装着者がスマホを操作する必要がない。
同活動量計を使えば複数の作業者の生体情報や位置情報を同時に測定して可視化することが可能。作業効率の向上や働き方改革に活用できるほか、管理者による作業者の熱中症や疲労などのモニタリングにも使える。
18年11月から販売を開始している最新型のシルミーW22は、ベルト部分やセンシング部分の形状変更と脈拍センサーの改良により、さらに精度の高い脈拍を測定できるようにした。
今年の梅雨明けは平年に比べ遅く、東北や関東、東海地域などでは低温や日照不足が続く。ただ、熱中症になりやすい時期がずれ込んでいるだけで油断は禁物だ。
熱中症は高温多湿な環境下で体内の水分や塩分のバランスが崩れたり、調整機能がうまく働かなくなることで発症する。発症しやすい時期としては猛暑が続く8月はもちろん、まだ暑さに適応できていないのに高温多湿となる梅雨明け時が要注意だ。
厚生労働省がまとめた職場における熱中症による死傷災害の発生状況によると、14―18年の5年間で約9割が7、8月に集中している。業種別では建設業や製造業が多く、両業種で約4割を占める。
熱中症の発症の全体では割合としては高齢者が半数近くを占め、発症した場所は住居が多い。不特定多数の人が集まる施設なども対策が必要で、この分野でもさまざまなサービスが生まれている。
ミサワホームはIoTを活用し、住まいの情報家電や電子機器をネットワークにつないで利便性を向上する「リンクゲイツ」を手がける。スマホで外出先から家の様子を確認したり、各種機器を遠隔操作して心地よい環境をつくったり、“近未来”の暮らしができるのが人気だ。
本格的な夏の到来を前に、熱中症対策として注目されるのが「熱中症アラート」だ。部屋ごとにセンサーを設置し、室内の温度と湿度を管理。熱中症にかかる危険が高くなると、スマホに警戒情報を送る。気付きにくい熱中症のリスクをいち早く知らせ、早期に適切な対応を促す仕組みだ。
例えば共働きで子ども一人が長い時間を家で過ごしている家族、ペットがいる家族、遠くに住む高齢の両親が心配だといった家族の悩みを解消できるという。
NTT西日本は、IoTセンサーを活用した熱中症対策を施設向けに提案している。施設内に設置した複数のセンサーで暑さ指数を計測し、LTE通信やWi―Fi(ワイファイ)通信によってデータを集約、分析する仕組み。18年夏に福岡市内の保育園で実証実験を実施した。現在、幼稚園や小学校など子どもが集まる施設向けを中心にして、20年度中の本格導入に向けて提案中だ。
フジクラがIoTセンサーを開発し、NTT西グループのNTTフィールドテクノ(大阪市都島区)が設置などを進める。今後は通信方式として、LPWA(省電力広域の無線通信)の一つLoRaWAN(ローラワン)の採用も検討する。ローラワンについては、NTT西は福岡市と連携して大規模な実証実験を続けており、多くのノウハウを蓄積している。熱中症対策のサービスとしても、より低コストで使いやすい仕組みとなることが期待される。
日本の夏は高温多湿で、気温が35度Cを超える猛暑日も年々増えつつある。企業は特に現場で働く作業員の健康状態をしっかりと把握する必要があり、熱によるストレスを測定するなど作業員の安全を守るサービスの利用が進みそうだ。
KDDI、スマホに危険通知
KDDIは製造現場や建築現場で作業員の労働災害を抑制するサービスを手がける。作業員が身に付けた腕時計型のウエラブル端末などにより、温湿度といった周囲の環境や作業員の脈拍を測定する。
それらの情報を組み合わせて個人ごとの「熱ストレスレベル」を推定し、4段階で評価。危険と判断された場合は現場責任者や作業者本人のスマートフォンなどに自動通知し、注意を促す仕組みだ。万が一労働災害が発生した場合も、早期発見につなげて被害を最小限に抑えられる。ウエアラブル端末の価格は1台月6000円で、別途初期費用が必要となる。
戸田建設と村田製作所、ヘルメットにセンサー
戸田建設と村田製作所はIoTとセンサー技術を活用した「作業者安全モニタリングシステム」を共同開発した。ヘルメットのセンサーデバイスにより、建設作業者の生体情報や作業環境を即時に監視できる。
ヘルメットのセンサーデバイスは内バンドに装着する生体情報測定部、後部に装着する環境情報測定部で構成。これらが脈拍や活動量、周辺の温・湿度を測定し、「熱ストレス」と呼ぶ独自パラメーターで健康状態を判断する。
計測したデータをクラウド上で解析し、作業者の生体情報に変化があれば、警報情報を事務所のパソコンや現場監督のスマホに配信、適切に健康管理を行える。
戸田建設は10階建て建設現場で実証実験し、スムーズな稼働を確認。その後、作業者が200人規模の建設現場に適用している。
シミックHDなど、耳たぶ温度を遠隔監視
シミックホールディングス(HD)と東北大学は、IoT技術を活用し耳たぶの温度を遠隔監視することで、熱中症の予防につなげる機器の共同研究を始めた。機器は夏場の屋外作業など熱中症の危険が高い環境で使用を見込む。機器を使えば作業者の「暑熱ストレス」を可視化し監視することが可能で、管理者などはストレスの度合いが高い作業者に早期に休憩を促すことができるという。
機器は耳たぶの表面温度を計測することで、暑熱ストレスと高い相関性のある脳の温度を遠隔で把握する。今の熱中症対策では個人ごとの注意喚起は難しい。機器を活用すれば個人に最適なタイミングで休憩を取らせることなどが可能で、効果が期待できそうだ。両者は今夏にも試作機を使った実証実験を実施し、2020年夏頃の実用化を目指す。
TDK、リストバンド型で可視化
TDKは16年に東芝から買収したリストバンド型活動量計「シルミー」シリーズを、医療・介護現場をはじめ、生産・物流現場でも活用できるよう提供している。
同活動量計は加速度センサー、脈拍センサー、紫外線センサー、温度センサーを内蔵。リストバンド装着者の脈拍、皮膚温度、活動量、紫外線照射などを測定し、クラウドに自動転送するため、装着者がスマホを操作する必要がない。
同活動量計を使えば複数の作業者の生体情報や位置情報を同時に測定して可視化することが可能。作業効率の向上や働き方改革に活用できるほか、管理者による作業者の熱中症や疲労などのモニタリングにも使える。
18年11月から販売を開始している最新型のシルミーW22は、ベルト部分やセンシング部分の形状変更と脈拍センサーの改良により、さらに精度の高い脈拍を測定できるようにした。
夏の暑さ警戒
今年の梅雨明けは平年に比べ遅く、東北や関東、東海地域などでは低温や日照不足が続く。ただ、熱中症になりやすい時期がずれ込んでいるだけで油断は禁物だ。
熱中症は高温多湿な環境下で体内の水分や塩分のバランスが崩れたり、調整機能がうまく働かなくなることで発症する。発症しやすい時期としては猛暑が続く8月はもちろん、まだ暑さに適応できていないのに高温多湿となる梅雨明け時が要注意だ。
厚生労働省がまとめた職場における熱中症による死傷災害の発生状況によると、14―18年の5年間で約9割が7、8月に集中している。業種別では建設業や製造業が多く、両業種で約4割を占める。
熱中症の発症の全体では割合としては高齢者が半数近くを占め、発症した場所は住居が多い。不特定多数の人が集まる施設なども対策が必要で、この分野でもさまざまなサービスが生まれている。
心地良い“近未来”の暮らし
ミサワホームはIoTを活用し、住まいの情報家電や電子機器をネットワークにつないで利便性を向上する「リンクゲイツ」を手がける。スマホで外出先から家の様子を確認したり、各種機器を遠隔操作して心地よい環境をつくったり、“近未来”の暮らしができるのが人気だ。
本格的な夏の到来を前に、熱中症対策として注目されるのが「熱中症アラート」だ。部屋ごとにセンサーを設置し、室内の温度と湿度を管理。熱中症にかかる危険が高くなると、スマホに警戒情報を送る。気付きにくい熱中症のリスクをいち早く知らせ、早期に適切な対応を促す仕組みだ。
例えば共働きで子ども一人が長い時間を家で過ごしている家族、ペットがいる家族、遠くに住む高齢の両親が心配だといった家族の悩みを解消できるという。
保育園・学校施設見守る
NTT西日本は、IoTセンサーを活用した熱中症対策を施設向けに提案している。施設内に設置した複数のセンサーで暑さ指数を計測し、LTE通信やWi―Fi(ワイファイ)通信によってデータを集約、分析する仕組み。18年夏に福岡市内の保育園で実証実験を実施した。現在、幼稚園や小学校など子どもが集まる施設向けを中心にして、20年度中の本格導入に向けて提案中だ。
フジクラがIoTセンサーを開発し、NTT西グループのNTTフィールドテクノ(大阪市都島区)が設置などを進める。今後は通信方式として、LPWA(省電力広域の無線通信)の一つLoRaWAN(ローラワン)の採用も検討する。ローラワンについては、NTT西は福岡市と連携して大規模な実証実験を続けており、多くのノウハウを蓄積している。熱中症対策のサービスとしても、より低コストで使いやすい仕組みとなることが期待される。
日刊工業新聞2019年7月18日