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300億円投じ国内に半導体装置の新工場、日立ハイテクの勝算

足下は落ち込みも「半導体需要はまだ伸びる」
300億円投じ国内に半導体装置の新工場、日立ハイテクの勝算

日立ハイテクの既存工場(那珂工場)

日立ハイテクノロジーズは24日、茨城県ひたちなか市に半導体製造装置や解析装置を開発・生産する新工場(イメージ)を建設すると発表した。総投資額は約300億円。11月に着工し、2021年2月に完成する。IoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)の利用が進むことによるデータ量増加を追い風に、半導体需要が増大すると想定。新工場立ち上げで半導体製造装置の生産能力を拡大し、今後の需要に対応する。

 新工場は那珂事業所(茨城県ひたちなか市)近くの常陸那珂工業団地内に建設する。敷地面積は約12万5000平方メートル。地上6階建て、延べ床面積約5万平方メートルの工場棟を建設する。那珂事業所と同規模となる見込み。製造工程の自動化を進め、IoTやAIを積極的に活用する。

 半導体製造装置の販売は、20年にメモリー市況が回復するとされているが足元で落ち込んでいる。桜井真司執行役常務は「半導体需要は、まだ伸びるとみている」と述べた。

日刊工業新聞2019年7月25日



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ディスコも国内最大の工場建設へ


 ディスコは半導体製造装置などを増産するため、同社最大の桑畑工場(広島県呉市)と同規模の新工場を呉市に建設する検討に入った。中長期の計画で、投資額は500億円程度を想定する。IoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)の普及に伴い半導体需要は安定的に伸び、半導体製造装置の増設や更新が見込まれる。業界ではディスコのほか東京エレクトロンも旺盛な需要に対応するため宮城県で拠点を増強する。

 ディスコは新工場の候補地として、創業の地であり、国内3工場のうち2工場がある呉市を選んだ。同市内の既存工場から自動車で20分以内の場所に、約10万平方メートル以上の土地を調査する。関家一馬社長兼最高経営責任者(CEO)は「時間に余裕がある時からじっくり時間をかけて探す」とし、新工場の建設は10年程度先を見据えた計画だと明かす。

 同社は桑畑工場と茅野工場(長野県茅野市)に半導体製造装置などを生産する新棟を19年にも着工する計画を進めており、中長期的な需要拡大を見据え生産体制を増強する。

 東京エレクトロンは約40億円を投じ、子会社の東京エレクトロン宮城(宮城県大和町)の本社隣接地に工場用地(約11万平方メートル)を21年3月に取得する。同社は半導体製造装置の増産以外に、技術開発拠点としての活用も視野に入れる。河合利樹社長兼CEOは「どのように生産技術を磨き、リードタイムを短縮するかを考えている」と技術開発の重要性を強調。同社も今後の需要増に対応するため、「生産技術や人材の育成につながるような用途にも活用できる」としている。

日刊工業新聞2019年2月5日



業績は下方修正も


 明るく見えていた半導体製造装置メーカーの業績見通しに、不透明感が出てきた。半導体需要が期待できるとして日立ハイテクノロジーズとニコンは半導体関連部門で2020年3月期に増収を見込み、ディスコは工場の増設を決定。一方で成長を続けている東京エレクトロンは中期経営計画の目標を見直し、キヤノンは業績見通しを下方修正した。

 半導体需要が大きく見込めるとして、増収を計画するのは日立ハイテクノロジーズとニコン。日立ハイテクは半導体前工程製造装置の20年3月期の売上高の予想を、19年3月期比16%増の792億円とした。半導体メモリー投資の本格的な回復は、20年になると予想している。

 半導体露光装置を展開するニコンは、取引先の設備投資の堅調さが反映される。半導体露光装置を含む精機事業の20年3月期は、フラットパネルディスプレー露光装置などの落ち込みにより前期比減収を予想するが、半導体露光装置は好調。

 特に売上額と利益率の大きい新品の販売比率が高まっており、半導体露光装置部門は増収となる見通し。新品装置の販売台数は19年3月期の21台から、20年3月期に31台へと増加する。

 ディスコは、取引先の投資意欲が短期間で激しく変動することを理由に需要予測が困難として、19年4―6月期だけにとどめる。その19年4―6月期は、19年1−3月期と比べ、増収になる見通し。半導体の需要が旺盛なため、桑畑工場(広島県呉市)や長野事業所茅野工場(長野県茅野市)の設備増強を進めている。

 キヤノンは半導体製造装置を含む産業機器事業で、19年12月期の営業利益を1月発表比197億円減となる283億円に下方修正した。取引先の投資が一巡して落ち着いており、半導体製造装置の販売低迷が響く。

 「半導体企業の(半導体製品の)在庫が少なくなっているのではないか」と、4月の説明会で分析していたのは、河合利樹東京エレクトロン社長。だが、米中貿易摩擦や英国の欧州連合(EU)離脱問題が影を落とす。21年3月期を最終年度とする中期経営計画の財務モデルにおける達成時期を「今後5年以内」に変更した。

 国内の半導体メーカーの業績が厳しい一方で、好調な海外向けの販売を伸ばして好業績を維持していた半導体製造装置メーカーも少なくない。このため、海外半導体メーカーの装置需要を取り込んでいた「国内の半導体製造装置メーカーはいたって元気」(半導体製造装置メーカー首脳)との声も上がる。ただこの数カ月のうちで、米中貿易摩擦をはじめとする海外の不安定要素が噴き出しているのも事実。各社の今後の業績にじわりと影響が出てきそうだ。
       

(文=石宮由紀子)

日刊工業新聞2019年6月7日



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