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ダイキンが冷媒「R32」の特許権不行使を宣言した理由

世界的普及を促進し、自らは未来を見据える
ダイキンが冷媒「R32」の特許権不行使を宣言した理由

ダイキン工業公式ページより

 ダイキン工業は1日、ハイドロフルオロカーボン(HFC)32(R32)単体冷媒を使った空調機の製造や販売で、特許権の不行使を宣言したと発表した。同冷媒の特許に関して同社は2015年、全世界に無償開放したが個別契約が必要だった。

 今回の宣言により書面契約を不要とし、従来の冷媒に比べて温暖化影響が低いR32の世界的な普及を促進する狙いがある。

 対象の特許は約270件に上る。同冷媒は従来の冷媒「R410A」と比べて温暖化係数が約3分の1。同社はR32を使った家庭用空調機を12年に世界で初めて発売。

 現在は同冷媒の家庭用・業務用空調機は世界60カ国以上で販売されている。

日刊工業新聞2019年7月2日



次世代冷媒開発へ


 ダイキン工業は冷媒など化学品の開発で、人工知能(AI)とiPS細胞(人工多能性幹細胞)の活用を始めた。新規の化合物を探索する際、AIが世界中の科学文献を参考に有望な候補を提示する。さらにiPS細胞を使うことで、人体への安全性などを評価する際、事前に簡素な検証ができる。空調業界では、2030年ごろの環境規制に対応する次世代冷媒の開発が難航している。今回の先進技術により冷媒開発を加速させる。

 自社開発した化合物探索システムは、求める特性を入力すると、AIが科学論文の情報から候補となる分子構造などを探す。試験的に冷媒開発に取り入れたところ、研究者では発想しにくい新規性の高い候補が見つかった。この成果を受け、同システムの応用先を半導体製造装置や自動車部品などに使うフッ素化学品全体へと広げることにした。

 iPS細胞の活用では、東京大学大学院薬学系研究科の池谷裕二教授と沢田光平客員教授らと連携する。冷媒などは実用化前に、動物などを使って長期間にわたる安全性評価が必要になる。そこで人体の細胞再現が期待されるiPS細胞を使い、小規模かつ短期間で安全性を事前検証する。冷媒のような常温気体の化合物にiPS細胞を使うのは、世界的に例がないという。

 オゾン層破壊防止の国際ルール「モントリオール議定書」として、GWP(地球温暖化係数)の高い冷媒の利用を規制する「キガリ改正」が1月に発効した。GWPが低いと位置付けられる現行の冷媒「R32」より一層、係数の低い冷媒が求められている。ダイキンは、医薬品開発で使われつつある今回の先進技術を取り入れて対応する。
               

日刊工業新聞2019年3月12日


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