耐える「三菱スペースジェット」、反転の道筋は見えたか?
三菱航空機(愛知県豊山町、水谷久和社長)が、国産小型ジェット旅客機の覇権争いに向けた布石を相次ぎ打ち始めた。米国の規制に対応した新機種の開発を本格化したほか、ブランドイメージ刷新を狙って名称を「三菱スペースジェット」に変更した。その傍らでカナダ・ボンバルディアが同市場からの撤退を検討。三つどもえの戦いから、ブラジル・エンブラエルとの一騎打ちに移行していく。起死回生をもくろんだ打ち手は局面を打開できるか。
三菱航空機は仏パリ郊外で開催された「パリ国際航空ショー(パリエアショー)」で、座席数65―88席の新機種「スペースジェットM100」の開発を公表し、2023年に市場投入する方針を明らかにした。座席幅を広めに設定するなど、100席未満のリージョナルジェット機にはなかった快適性を前面に押し出した設計だ。これに燃費性能など経済性を付加し、来るべき戦いに備えようというわけだ。
実際、市場の追い風は三菱航空機に吹き始めている。同社によると今後20年間のリージョナル機市場は5137機の需要が見込め、このうち約4割は米国が占めるという。
競合の一角だったボンバルディアは三菱航空機の親会社の三菱重工業とリージョナル機「CRJ」事業の売却で交渉に入った。100―150席級の小型旅客機「Cシリーズ」は米ボーイングや欧エアバスとの競争に敗れてエアバスの軍門に降り、民間航空機事業から撤退の意思を示している。
最大手のエンブラエルはボーイングと年内に合弁会社を発足させる計画だ。ただ業界関係者は「ボーイングはリージョナル機はニッチ市場と捉えており興味はないだろう」と指摘する。
加えてボンバルディアは、米国の航空会社とパイロット組合の間で結ばれた労使協定で座席数などの制限がある「スコープ・クローズ」を見越し、90席級の開発を凍結している模様。「ボンバルディアはリージョナル機の最新型を保有しておらず、三菱航空機は十分に戦える」と続ける。
三菱航空機がM100の開発に乗り出すのも、スコープ・クローズが大きく影響している。水谷社長も「スコープ・クローズは(座席数制限などの)緩和が期待されていたが、状況変化が起きず今に至っている」と認識。M100は現状のスコープ・クローズの基準を満たしているため、「個々の顧客のニーズに応えていきたい」(水谷社長)としている。
だが規制への柔軟な対応が、同社の足かせとなる可能性も出てきた。M100より先に開発を進め、20年半ばに初号機の納入を目指している90席級の「スペースジェットM90」は、足元で約400機の受注がある。このうち大半は米国向けで、スコープ・クローズが現状維持となれば、M90をM100に変更する顧客も出てきそうだ。
投入時期を23年としているM100に顧客がチェンジオーダーした場合、納入時期はさらに先送りされ、収益化はさらに遠のくことは必至。水谷社長も「納入時期は後ろ倒しになるが、スケジュールを含めて顧客にどう判断してもらうかだ」とし、「顧客ニーズにいかに応えるかが最優先で、収益化の遅れは総合的な判断になる」との考えを示す。
半面、事業化に向けた地ならしは着実に進展をみせている。三菱重工によるボンバルディアのリージョナル機事業の買収がその一つだ。交渉が成立すれば、三菱航空機は課題だった機体納入後のアフターサービスを手に入れることになり、「当社から見ると非常にありがたい検討をしてもらっている」と水谷社長。交渉の行く末を固唾(かたず)をのんで見守る。
一進一退を繰り返しながら、飛躍の時を待つ三菱スペースジェット。孝行息子になるべく成長痛に耐える時期は当面続くが、勝ち筋は必ず見いだせるはずだ。
(パリ=長塚崇寛)
三菱航空機は仏パリ郊外で開催された「パリ国際航空ショー(パリエアショー)」で、座席数65―88席の新機種「スペースジェットM100」の開発を公表し、2023年に市場投入する方針を明らかにした。座席幅を広めに設定するなど、100席未満のリージョナルジェット機にはなかった快適性を前面に押し出した設計だ。これに燃費性能など経済性を付加し、来るべき戦いに備えようというわけだ。
実際、市場の追い風は三菱航空機に吹き始めている。同社によると今後20年間のリージョナル機市場は5137機の需要が見込め、このうち約4割は米国が占めるという。
競合の一角だったボンバルディアは三菱航空機の親会社の三菱重工業とリージョナル機「CRJ」事業の売却で交渉に入った。100―150席級の小型旅客機「Cシリーズ」は米ボーイングや欧エアバスとの競争に敗れてエアバスの軍門に降り、民間航空機事業から撤退の意思を示している。
最大手のエンブラエルはボーイングと年内に合弁会社を発足させる計画だ。ただ業界関係者は「ボーイングはリージョナル機はニッチ市場と捉えており興味はないだろう」と指摘する。
加えてボンバルディアは、米国の航空会社とパイロット組合の間で結ばれた労使協定で座席数などの制限がある「スコープ・クローズ」を見越し、90席級の開発を凍結している模様。「ボンバルディアはリージョナル機の最新型を保有しておらず、三菱航空機は十分に戦える」と続ける。
三菱航空機がM100の開発に乗り出すのも、スコープ・クローズが大きく影響している。水谷社長も「スコープ・クローズは(座席数制限などの)緩和が期待されていたが、状況変化が起きず今に至っている」と認識。M100は現状のスコープ・クローズの基準を満たしているため、「個々の顧客のニーズに応えていきたい」(水谷社長)としている。
小型機覇権争い、反転攻勢
だが規制への柔軟な対応が、同社の足かせとなる可能性も出てきた。M100より先に開発を進め、20年半ばに初号機の納入を目指している90席級の「スペースジェットM90」は、足元で約400機の受注がある。このうち大半は米国向けで、スコープ・クローズが現状維持となれば、M90をM100に変更する顧客も出てきそうだ。
投入時期を23年としているM100に顧客がチェンジオーダーした場合、納入時期はさらに先送りされ、収益化はさらに遠のくことは必至。水谷社長も「納入時期は後ろ倒しになるが、スケジュールを含めて顧客にどう判断してもらうかだ」とし、「顧客ニーズにいかに応えるかが最優先で、収益化の遅れは総合的な判断になる」との考えを示す。
半面、事業化に向けた地ならしは着実に進展をみせている。三菱重工によるボンバルディアのリージョナル機事業の買収がその一つだ。交渉が成立すれば、三菱航空機は課題だった機体納入後のアフターサービスを手に入れることになり、「当社から見ると非常にありがたい検討をしてもらっている」と水谷社長。交渉の行く末を固唾(かたず)をのんで見守る。
一進一退を繰り返しながら、飛躍の時を待つ三菱スペースジェット。孝行息子になるべく成長痛に耐える時期は当面続くが、勝ち筋は必ず見いだせるはずだ。
(パリ=長塚崇寛)
日刊工業新聞2019年6月21日の記事を一部修正