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陸上の桐生選手が着用、「東レ×アシックス」が生んだシューズ表皮材の効果

着用者のエネルギーロス減
陸上の桐生選手が着用、「東レ×アシックス」が生んだシューズ表皮材の効果

スプリンテックスを表皮材に使ったアシックス製のスパイクシューズ

 東レは、自社開発素材の用途展開を強化している。金属バネに近い弾性を持ち、着用者のエネルギーロスを低減できる織物「スプリンテックス」を用い、シューズ表皮材をアシックスと共同開発した。同素材を使ったスパイクシューズは、2016年のリオデジャネイロオリンピックで陸上の桐生祥秀選手が着用、17年に桐生選手は100メートルで9秒98の日本記録を出すなど成果を示した。多くの著名選手と契約するアシックスと組み、海外への販路拡大も目指す。

 スプリンテックスは、東レが当初、自動車部品用途に開発した素材をシューズ用に再設計した。特殊弾性繊維に直交して、非弾性繊維を高クリンプで配置し、足の力で変形した生地を素早く元に戻せる。同素材をシューズの表皮材に使い、着地時に足とシューズのズレを抑える。着用者のエネルギーロスは、他社製編地に比べ最大約30%低減できる。

 糸設計も工夫した。糸の芯部に高融点弾性ポリマー、鞘部に低融点弾性ポリマーを使い、熱をかけて織物にすることで、周囲のポリマー同士が融着し、生地の摩耗耐久性が他社製編地比最大で約10倍向上。これにより、シューズ設計時に生地の補強材などを減らせ、シューズ全体の重量が低減できる。

 スプリンテックスを表皮材に使ったシューズは、卓球、野球などアシックスが契約する国内外の選手が着用した。東レはアシックスとの協業を通じ、同素材を海外にも販売したい考えだ。さらに陸上競技用に限らず、用途に応じて設計を変えるなど、トレーニングシューズ向けなども提案していく。

 東レのテキスタイル・機能資材開発センター第2開発室の二ノ宮有希主任部員は「用途を広げるには、素材の機能特性を生かせる、シューズ以外の全く新しい分野を開拓する必要がある」と話す。シューズ表皮材での採用実績を機に、東レの素材力と他社との連携などで、今後も広範な応用可能性を探る。(文=大阪・大原佑美子)
日刊工業新聞2019年6月20日

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