VR利用「領域拡大」の兆し、ゲームの次はどこだ
イベントや教育用途に広がり
仮想現実(VR)がゲームだけでなくイベントや教育用途に広がり始めている。ヘッド・マウント・ディスプレー(HMD)の価格は下がり、使い勝手も向上した。CM制作や人材教育でも事業化が進む。必ずしもフルCGのコンテンツを作る必要はなく、制作費を抑えつつ効果を引き出すノウハウが蓄積されている。
「ゲーム業界の投資でVRを構築するコストが下がった。企業の人材育成など、これまで採算がとれなかった領域にもVRが入り始めている」と東京工業大学の長谷川晶一准教授は説明する。長くVRを研究してきて「VRは研究としては成熟した。ただ社会実装はまだ途上。コンテンツに仕上げる仕事が残っている」と指摘する。
VRの普及に向けて作品を作るクリエーターの育成がネックになってきた。まずゲーム業界のクリエーターがVRに取り組み、最先端技術を投じた最高級作品(AAAタイトル)も作成された。現在はHMDの普及台数の制約もあるため、コストを抑えつつ面白いコンテンツが模索されている。そこに映像制作や教材制作などのクリエーターが参入した。
企業の人材教育はゲームに比べてコスト要求が厳しい。プロシーズ(大阪府吹田市)の池辺直樹リーダーは「ゲーム業界の制作会社に見積もりを頼んだら桁が違った」と振り返る。同社はeラーニングを手がける。教育コンテンツのVR化を検討したがCG教材の制作は諦めた。そこで実写式を採用した。
360度カメラの周りで人が演技をする。情報漏えいのリスク教材では、機密書類をコピー機に忘れたり、ピザ配達員がオフィスの中にまで入ってきたりと、リスク事案がカメラの周りで次々と起こる。これをHMDでみて、いくつ見つけられるか競う。
池辺リーダーは「人が演じればコストを抑えられ、間違い探しは幅広い研修テーマに使える」と説明する。疑似体験としてはCGよりもリアルだ。座学のテストにVRを使う。約3分のVRコンテンツ20本を200万―300万円で制作できる。2019年度は10社への納入を目指す。
CM制作の太陽企画(東京都港区)はイベント向けにゾンビ体験VRを制作した。ゾンビになって襲う側と、襲われて撃退する側に分かれて楽しむ。参加者の身体を画像認識してゾンビ映像を重ねる仕組みだ。HMDや大型ディスプレーにはゾンビとして描画される。
身体認識が甘く、ときどき外れて本人が見えてしまう。だが「自分の姿が垣間見えるから参加感がある。人を巻き込むイベントとしてはこれが正解」と制作した鈴木智宏ディレクターは説明する。スマートフォンアプリにして配信する計画だ。
教材やイベントなど、コンテンツに合わせて効果を引き出す工夫がこらされ、各分野で制作ノウハウがたまりつつある。VRは技術開発が業界をリードしてきたが、流れが変わろうとしている。
ゲーム業界先導
「ゲーム業界の投資でVRを構築するコストが下がった。企業の人材育成など、これまで採算がとれなかった領域にもVRが入り始めている」と東京工業大学の長谷川晶一准教授は説明する。長くVRを研究してきて「VRは研究としては成熟した。ただ社会実装はまだ途上。コンテンツに仕上げる仕事が残っている」と指摘する。
VRの普及に向けて作品を作るクリエーターの育成がネックになってきた。まずゲーム業界のクリエーターがVRに取り組み、最先端技術を投じた最高級作品(AAAタイトル)も作成された。現在はHMDの普及台数の制約もあるため、コストを抑えつつ面白いコンテンツが模索されている。そこに映像制作や教材制作などのクリエーターが参入した。
実写式を採用
企業の人材教育はゲームに比べてコスト要求が厳しい。プロシーズ(大阪府吹田市)の池辺直樹リーダーは「ゲーム業界の制作会社に見積もりを頼んだら桁が違った」と振り返る。同社はeラーニングを手がける。教育コンテンツのVR化を検討したがCG教材の制作は諦めた。そこで実写式を採用した。
360度カメラの周りで人が演技をする。情報漏えいのリスク教材では、機密書類をコピー機に忘れたり、ピザ配達員がオフィスの中にまで入ってきたりと、リスク事案がカメラの周りで次々と起こる。これをHMDでみて、いくつ見つけられるか競う。
池辺リーダーは「人が演じればコストを抑えられ、間違い探しは幅広い研修テーマに使える」と説明する。疑似体験としてはCGよりもリアルだ。座学のテストにVRを使う。約3分のVRコンテンツ20本を200万―300万円で制作できる。2019年度は10社への納入を目指す。
スマホアプリ化
CM制作の太陽企画(東京都港区)はイベント向けにゾンビ体験VRを制作した。ゾンビになって襲う側と、襲われて撃退する側に分かれて楽しむ。参加者の身体を画像認識してゾンビ映像を重ねる仕組みだ。HMDや大型ディスプレーにはゾンビとして描画される。
身体認識が甘く、ときどき外れて本人が見えてしまう。だが「自分の姿が垣間見えるから参加感がある。人を巻き込むイベントとしてはこれが正解」と制作した鈴木智宏ディレクターは説明する。スマートフォンアプリにして配信する計画だ。
教材やイベントなど、コンテンツに合わせて効果を引き出す工夫がこらされ、各分野で制作ノウハウがたまりつつある。VRは技術開発が業界をリードしてきたが、流れが変わろうとしている。
日刊工業新聞2019年6月18日