ニュースイッチ

水素インフラ普及へ-鉄鋼各社の先導技術(中)JFEスチール‐蓄圧器をコストダウン

「水素ステーションの建設費を下げるには、蓄圧器のコスト削減が不可欠」
水素インフラ普及へ-鉄鋼各社の先導技術(中)JFEスチール‐蓄圧器をコストダウン

現在は鋼鉄製の頑強な蓄圧器(JX日鉱日石エネルギーの水素ステーション)

 「開発ターゲットは蓄圧器。日本初の試みの鋼製ライナーで30―50%のコストダウンを目指す」。JFEコンテイナーの高野俊夫高圧ガス容器事業部技監は、JFEスチールとグループあげての開発目標をこう説明する。

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)との共同プロジェクト。低合金鋼製ライナー(容器の内側部)表面に炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を巻き付け、補強した蓄圧器を開発中だ。現在の蓄圧器は高圧水素を安全に閉じ込めるべく、肉厚10センチメートル前後の頑強な鋼鉄製が使われている。これを鉄とCFRPの複合容器にすることで大幅な軽量化を実現できる。

 「水素ステーションの建設費を下げるには、蓄圧器のコスト削減が欠かせない」(高野技監)と言うように、JFEグループでは低合金のシームレス鋼管をライナーに加工し、より軽い複合容器とすることで大幅なコスト削減を狙う。

 CFRPとの複合容器では、アルミニウム合金ライナーがすでに実用化されている。鋼製ライナーはNEDOとの研究が2017年度まで続き、実用化は早くて18年。後れをとってはいるが、JFEスチールの高木周作界面科学研究部主任研究員は「強度は鋼製ライナーの方が上。高価なCFRPの使用量を減らせる。寿命も長く、水素ステーションのライフサイクルコストも低減できる」と勝機は十分あると見る。

 そこに使う最適な鋼材を探求するための強力な武器も持つ。一つは独自開発した「高圧水素ガス透過試験装置」。最大100メガパスカルの圧力で鋼材内に侵入、拡散する水素の速度や、鋼材を透過する水素量を検出できる。100メガパスカル環境下でこうした試験ができるのは世界でもここだけ。「圧力が高いほど鋼材に亀裂が早く入る。それを抑えるにはどうしたらいいかを定量的に把握できる」(高木主任研究員)と、その利点を強調する。

 もう一つが民間企業として昨年4月、初めて導入した「低温型昇温式水素分析装置」。おおむねマイナス100度―プラス300度Cの間で、一定の昇温速度で加熱しながら放出ガスを分析する。「水素の存在位置を的確に把握できるようになった。鋼材中で水素が動く度合いは温度によって違う。そのピーク温度を決めることができた」(同)と成果を誇る。
 
 ほかにも120メガパスカルまでの高圧水素疲労試験機と同暴露試験機を自社で導入。これらの装置群を「独自の鋼材開発に自由に使える」ことで他社との開発競争に一歩先んじる構えだ。
日刊工業新聞2015年08月20日 素材・ヘルスケア・環境面
村上毅
村上毅 Murakami Tsuyoshi 編集局ニュースセンター デスク
 水素ステーションの蓄圧器には高い圧力がかかり、その分肉厚な鋼材が必要となっている。CFRPとの複合材料化で材料の原単位を減らせられれば、コストダウンにつなげられるのだろう。

編集部のおすすめ