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日産九州のコスト競争力の裏にある“地の利”と“手作り”

地道な努力で世界の工場をリード
日産九州のコスト競争力の裏にある“地の利”と“手作り”

九州工場で生産されるエクストレイル

 日産自動車の九州工場(福岡県苅田町)が2016年春から北米向けスポーツ多目的車(SUV)「ローグ」の生産を年10万台規模で始める。主力車種の生産が九州工場に決まったのは、円安によるところが大きい。しかし、部品調達の“近接化”や、韓国からの物流ルートの整備、工場内の物流の自動化など地道な取り組みでコスト競争力を高めてきたことも背景にある。日産九州工場のコスト競争力に迫る。
 

調達近接化と“地の利”


 グローバルに生産拠点を構える日産は、国内工場をモノづくりの基盤と位置づける。電気自動車(EV)を生産する追浜工場(神奈川県横須賀市)は新技術や新工法の開発を牽(けん)引し、高級車を担当する栃木工場(栃木県上三川町)は高い品質を実現するための模範的工場だ。そして九州工場の役割は「コストでグローバルの工場をリードする」(西川廣人チーフコンペティティブオフィサー)こと。

 コスト低減に向け九州工場が重視するのが部品調達の“近接化”。日産は完成車工場に供給する部品生産の立地を四つに区分している。工場建屋内の「オンサイト」、工場敷地内の「インサイト」、サプライヤーパークなど工場近隣の「ニアサイト」と、それ以外だ。九州工場で現在生産しているモデルでは、約30点の部品をオンサイト、インサイト、サプライヤーパークから調達している。

 例えばインパネはオンサイトだ。「完成車に隣接したことで10台分くらいの最小在庫で供給できるようになった」(インパネメーカーのカルソニックカンセイ九州)という。完成車ラインへの近接化で部品の物流費や在庫が削減できる。特に重くて大きいインパネのような部品をオンサイトにすることの効果は物流面からも見ても大きい。

 松元史明日産副社長は「近接化の余地はまだまだある」と話す。16年にも生産を始める新型車では、オンサイト、インサイト、サプライヤーパークから調達する部品点数を、4割増しの43点とする計画だ。近接化を推し進めてコスト競争力に磨きをかける。

 近接化もさることながら、韓国や中国といった低コストで部品が調達できる国に近いというのも九州工場の強みだ。特に現代自動車のホーム、韓国は自動車産業が発達し調達網も整っている。日産はこうした九州工場の地の利に目をつけ、両国当局を巻き込んで日韓間の物流のシームレス化を実現した。

 日産の働きかけで、日韓両国のナンバープレートをつければそのまま両国の公道を走ることができるようになった。このため、釜山港と下関港を結ぶ航路で韓国の部品を積載したトレーラーをフェリーで運ぶ際、部品の積み替え作業をすることなく、九州工場に届けることができる。納期を短縮し、部品の容器のコストや在庫も大幅に減らした。

 物流のシームレス化は韓国と九州でサプライヤー間の競争も促すことになる。「韓国と九州の地域内でサプライヤーが切磋琢磨(せっさたくま)することで、競争力ある部品調達を実現している」と日産自動車九州の柴崎康男社長は話す。

 物流のシームレス化は日韓間だけでなく将来は中国も合流する見通しだ。九州工場はアジアに近い地理的優位性も最大限に生かそうとしている。

日刊工業新聞2015年08月14日 自動車面
三苫能徳
三苫能徳 Mitoma Takanori 西部支社 記者
ある自動車メーカーのエンジニアOBの方が言っていた「現場改善は知恵と工夫」という言葉を、改めて実感しました。

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