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林業振興の最後のチャンス…「森林経営管理制度」の効果

新制度スタート、放置森林を経営者に委託
林業振興の最後のチャンス…「森林経営管理制度」の効果

住友林業の社有林の手入れ作業

 国による森林経営管理制度がスタートした。市町村が仲介役となって林業経営者と手入れが滞っている森林を結びつける制度だ。林業経営者は管理する森林が増えて事業が効率化される。持続可能な開発目標(SDGs)にも森林保全が掲げられており、企業も市町村や林業経営者を支援するとSDGs達成に貢献できる。

手入れ心配無用


 森林経営管理法が4月1日に施行され、新制度が始まった。市町村が地域で放置された森林の管理を林業経営者に委託できるのがポイントだ。市町村は所有者の意向を確認して森林を集約し、意欲と能力のある林業経営者に伐採などの管理を委託できる。

 全国には個人所有の森林が83万あるとみられ、そのほとんどが小規模だ。さらに世代交代や転居、木材価格の低迷で管理意欲をなくした森林所有者が多い。林業経営者に委託すれば、所有者は手入れの心配をしなくて済む。林業経営者は管理する森林面積が広がるので、伐採や搬送作業を効率化できる。

準備不足に懸念


 「地域の林業振興にとって最後のチャンス」。住友林業山林部の岡田広行グループマネージャーは新制度に期待する。一方、森林専門部署を置く市町村は少なく、「準備が整っていない」と心配もする。同社は国土の800分の1に相当する広大な社有林を保有しており、森林管理の知見が豊富。制度開始前から約50の市町村を支援した経験もあり、新制度に対応する市町村を「入り口から出口まで支援できる」(岡田マネージャー)という。

 “入り口”で言えば、森林の評価手法も数多く持っている。例えば上空からレーザー計測して木の種類、密集度などを解析することも可能。その結果から管理の価値のある森林を特定し、市町村は優先順位を決めて林業経営者に森林を委託できる。

 立地が悪くて林業に適さない森林でも水源や防災の機能強化、二酸化炭素(CO2)吸収や生物多様性といった環境価値の向上で健全な森林に戻す支援もできる。“出口”の一例として、同社が林業経営者となって市町村から委託を受けることも可能だ。社有林での経験はもちろん、住宅で使うため切り出した木材の販売ルートを持つ。

SDGsと林業 国産材使用・支援で貢献


 人が植林した人工林の半分が植えられてから50年以上となり、木材に加工しやすい“適齢期”を迎えようとしている。国産材の流通が増え、木材自給率は2016年に過去30年間で最高水準となる約35%へ上昇した。林業による起業が増えている岡山県西粟倉村のような好例もあり、市町村には林業活性化のチャンスだ。

 新制度によって企業が林業支援に関わる機会も広がる。SDGsは目標15で「20年までに森林の持続可能な経営を実施」とターゲットに掲げている。国産材の使用や販売、市町村や林業経営者の支援によって企業も目標15に貢献できる。

            
日刊工業新聞2019年4月26日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
4月26日付「SDGs面」からの紹介です。温暖化対策、災害対策、地方創生、そして脱プラと、森林資源が注目される潮流が生まれています。タイミング良く始まった4月からの新制度。SDGsに取り組みたい企業にはチャンスです。個人的には住友林業の木製SDGSバッジが気に入っています。

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