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「777」減産「MRJ」低迷、中部の航空機サプライヤーは他分野でしのぐ

「777」減産「MRJ」低迷、中部の航空機サプライヤーは他分野でしのぐ

ボーイング「「777X」は端境期にある

 重工業大手の航空機の工場が立地する中部地方で、サプライヤーが航空機以外の開拓に乗り出している。米ボーイング機の部品加工や組み立てを主力としてきたが、大型機「777」は次世代機「777X」への端境期で減産が続き、仕事量は落ち込む。三菱航空機(愛知県豊山町)が開発中の国産小型ジェット旅客機「MRJ」も生産本格化は先だ。各社とも経営の低空飛行を避けるため、別の業種や分野を収益源にしようと翼を広げる。

旭精機、EV電池缶需要でプレス機増産


 「航空機関連は一時縮小も仕方ない」―。旭精機工業の山口央社長は事業の現状を吐露する。三菱重工業を通じて、777や中大型機「787」の機体部品を加工してきた。ボーイングは2020年に777Xの初号機納入を予定する。

 日本企業が機体製造の約21%を担当し、三菱重工は後胴を製造する。旭精機は後胴の大型部品を担当するが、生産の本格化はまだ先だ。山口社長は「777X向けがどれほど増えるか次第」と今後を見通す。

 MRJの部品製造も担うが、思うようにペースが上がらない。三菱重工の神戸造船所(神戸市兵庫区)内に16年末に開設した工場で主翼と中央翼の部品を担当する。だが、神戸では部品加工をほとんどできていない。

 三菱重工は17年1月にMRJの量産初号機の5度目の納入延期を決めた。ANAホールディングスへの納入予定時期が18年半ばから20年半ばに遅れたことで、生産計画も後ろ倒しを余儀なくされた。

 旭精機は航空機部品が落ち込むが、経営を支えるもう一つの翼であるプレス機は好調だ。リチウムイオン電池の缶を製造する機械で、中国での電気自動車(EV)需要の増加を受け、EV搭載用電池缶の加工需要が高まっている。18年9月には本社工場の新棟が完成し、プレス機の増産体制を整えた。

 同社はバネ機械や自動車部品も手がけており、航空機の落ち込みをカバーできる強みがある。では、航空機が主力の企業は、この下降気流をどう乗り切ろうとしているのか。

東明工業、モビリティー進出


 航空機やロケットの組み立てを担う東明工業(愛知県知多市)はMRJの5度目の納入延期により、生産本格化を見据えて集めた組み立て作業者の削減や配置転換に苦労した。今後の人員確保について二ノ宮啓社長は「努力はするが難しい」と厳しい表情で語る。

 愛知県では自動車産業を中心に求人が豊富で、人手不足が続く。納入延期前に集めた人数を再び確保するのは容易ではない。同社は一方で、合併・買収(M&A)で新分野を開拓してきた。10―11年に炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の加工メーカー2社を買収し、18年4月には両社を統合した。大阪府と長野県に工場を持ち、幅広い業種から受注する。

 トヨタ紡織のサプライヤーで、自動車用シートの専用機を手がける加藤鉄工(愛知県みよし市)も17年に買収した。自動車分野への進出を見据える。

 自社製品も成長している。モーターボートの揺れを軽減する機器「アンチローリングジャイロ(ARG)」は、三菱重工から16年に譲り受けた。大手ボートメーカーの純正オプションに採用され、譲渡以前より販売台数を2倍に伸ばした。

 東明工業のグループ全体の売上高に占める航空機の割合は3分の1ほどだ。「航空宇宙産業の一翼を担う」としてきたキャッチコピーを、17年に「モビリティーを通じて社会に貢献する」に変えたことが象徴的だ。
東明工業はCFRP加工の受注を伸ばす(同社の加工子会社工場)

今井航空機器、半導体装置部品を拡大


 航空機と新規事業開拓の両にらみの部品加工メーカーもある。今井航空機器工業(岐阜県各務原市)は19年中に主力の鳥取工場(鳥取市)に約10億円、マレーシア工場に約8億円投じて生産能力を拡大する。

 鳥取工場では、重工業大手から受注した777X向け部品の生産本格化のため、5軸制御マシニングセンター(MC)など工作機械8台を導入する。鳥取工場は本社地区の4工場が手狭になったため、16年に稼働した。今回の設備投資で、フル生産が実現する。

 マレーシア工場は治具設計、機械加工、表面処理などの一貫生産体制を強みに、海外の部品大手から直接受注してきた。エンジン部品の受注が好調で、年末に工場を拡張する。

 一方の新規分野の開拓では、半導体製造装置の部品の受注拡大を目指す。航空機の加工技術を応用し、受注を増やしている。本社地区の4工場は再編を計画しており、今井哲夫社長は「一つを半導体製造装置に特化した工場にしようと検討している」と構想を披露する。

熱田起業、IoT活用で短納期に活路


 熱田起業(名古屋市中川区)は、IoT(モノのインターネット)を駆使して部品加工を効率化し、航空機以外の仕事を増やす。機体部品の専業だったが、IoTによる短納期化で航空機以外から試作などの受注を伸ばしている。航空機の比率は7割を切ろうとしている。

 オークマの工作機械ユーザーで、同社のIoTシステムで工作機械の稼働状況を見える化。現状を把握して、作業員の配置変更や不要な工具の廃棄などに取り組んだ。2月には、17年8月と比べて平均稼働率を2・3倍、稼働時間を2・5倍に高めた。

 航空機分野では、エンジン部品への参入を目指す。機体部品は将来、海外勢とのコスト競争が激しくなるが、エンジン部品の仕事は国内に残るとみる。

 だが、参入は容易ではない。中部経済産業局などが16年に参入支援で始めたエンジン部品の試作加工コンテストの初年度に参加。2部門中で難易度の高いほうに応募し、重工業大手の審査で1位の評価を得た。

外観上は問題ないとの評価だったが、内部に若干の歪みがあると指摘された。その後、最新の工作機械の導入などで受注に向け動いているが、矢野照明社長は「引き合いは増えているが、時間がかかっている」と現状を明かす。

 航空機産業はボーイングの主要機種の生産計画に左右される。サプライヤーは他分野への進出で依存度を下げ、安定飛行を図ろうとしている。
熱田起業は工作機械の稼働状況をIoTで見える化した

(文=戸村智幸)

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