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大手メーカーで広がる技術系女性役員―執行役員に就任した4人の事例

キャリアの軌跡からみえるもの
大手メーカーで広がる技術系女性役員―執行役員に就任した4人の事例

女性の活躍を後押しするJーWinが開催した技術者を対象とするシンポジウム(JーWin提供)

 研究職というスペシャリストから管理職のゼネラリストへ―。女性の活躍が広まる中、製造業で技術系女性役員が増えている。新たな業務の経験や異なる価値観の受け入れなどを通じて、リーダーとしての資質に磨きをかけてきた。ここ2、3年で執行役員に就任した4人の事例から、事務系とは異なる技術系女性育成のヒントを探る。
 
 住友化学の坂田信以〈しのい〉氏(58)、IHIの水本伸子氏(58)、ブリヂストンの前田裕子氏(55)、キリンの坪井純子氏(53)。4人は1986年の男女雇用機会均等法施行前の段階で、大学・大学院卒業後に志望通り技術職としてキャリアをスタートし、役員になった。

 【前向きな姿勢】
 ブリヂストンを除く3社では初の女性役員。いずれも途中で研究業務から離れた。手本となる存在がいない中、新しい業務に前向きな姿勢で取り組めるかどうかがキャリアの転機のポイントのようだ。
 住友化学の坂田氏は入社後約10年で、仕事の内容が農薬の安全性の評価研究からデータ信頼性保証の研究支援に変わった。社外の関係者との関わりが増えるため、「他社や業界団体、省庁の関係者に信頼されるようになろう」と気持ちを切り替えた。大事なのは「新たな目標を立てて前に進むこと」とし、後に大阪から東京への転勤も自ら希望して実現した。

 【昇進気にせず】
 IHIの水本氏は研究・研究支援で22年経過したところで、4000人規模の本社移転プロジェクトのリーダーとなった。「好奇心が強く、失敗を恐れず前例がないことに取り組める研究者。かつ昇進を気にせず正論が言える女性だった」(水本氏)ことが大抜てきの理由とみる。本社や工場のあらゆる部署から要求や不平が寄せられるといった”修羅場“を体験したことで、「社内の知己が格段に広がった」(同)と振り返る。

 【創造性育む】
 入社5年後と早期のキャリアチェンジで挫折感を味わったのはキリンの坪井氏だ。しかし「科学的・論理的思考で新たなものを生み出す姿勢は、マーケティングの創造性につながる」ととらえた。その後、広報部門へ活躍の場が広がった。

 個性的なキャリアを積んできたのはブリヂストンの前田氏だ。いったん同社を離れるが、転職先で吸収合併の憂き目に遭う。「専門がどうのとは言っていられない」と腹をくくり、産学連携支援で工学系に加え、異分野の医学系でも開拓者となった。社会人入学によって博士号も取得した。こうした活躍ぶりをみた古巣から声がかかり、復帰することになった。

 多数派である事務系男性の対極にある技術系女性。働き方の違いを当事者はどのようにみているのか。
 技術系が8割を占めるIHIでは、女性管理職も技術系が多い。その中で「キャリアパスの一般論として、昇進が念頭にある男性に対し、女性は生活を守ることを優先する傾向がある」と水本氏は指摘する。

 また、住友化学の坂田氏は「技術系の仕事の仕方が変わってきた」と話す。例えば、安全性研究などの実験は長時間の拘束を招きがちで、体力がなく家庭を持つ女性には厳しい面があった。
 それが「化合物の構造や遺伝子変化などのデータ解析が、研究の主体になりつつある」(坂田氏)。同社が2014年度に導入した在宅勤務制度なども追い風となり、研究室など仕事場に長時間いられない働き方でも成果を出しやすくなるとみている。

 技術のイノベーションは分野融合がカギを握るとされ、ビジネス以上に多様性の推進が重要だ。技術系女性のリーダー層の充実は、その象徴として今後も注目を集めそうだ。
(文=編集委員・山本佳世子)
日刊工業新聞8月13日付科学技術・大学面
神崎明子
神崎明子 Kanzaki Akiko 東京支社 編集委員
女性の活躍推進を掲げる安倍政権。管理職への登用比率など目標を掲げるだけでなく、実際に第一線で活躍する「パイオニア」の声に耳を傾けることが大切だ。

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