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提携を再定義、“新3社連合”にくすぶる火種

資本関係など再び議題に、ゴーン被告の反撃は…
提携を再定義、“新3社連合”にくすぶる火種

左からルノーのボロレCEOとスナール会長、西川日産社長兼CEO、益子三菱自CEO

 日産自動車、仏ルノー、三菱自動車の3社連合の首脳は、3社連合の新スタートをアピールした。合議制で提携戦略を策定する新会議体を設立し、3社連合は発足当初の理念である対等の精神に立ち戻る。ゴーン被告が逮捕され、連合関係は一時ぎくしゃくしたが、会見では笑顔で“雪解け”を演出した。ただルノー筆頭株主の仏政府の意向など、不透明な要素も残る。4人の船頭がかじをとる“新”3社連合は車業界の荒波を乗り越えられるか。

 「アライアンス(連合)にとって大きな新しいステップだ。こういう形で新スタートができるのはうれしいことだ」―。日産横浜本社で、12日に記者会見を開いた西川広人社長は新しい3社連合の船出に笑みをみせた。

 「アライアンスの新たなスタートおよびアライアンス・ボードの設立」―。会場では、4人のサインが入った覚書が配布された。「3社は今後もアライアンスの強化を願う」という基本方針や、新設した会議体「アライアンス・オペレーティング・ボード」のウインウインの理念などが記された。

 日産にとって大きな前進は、資本構成を超えた対等な精神の復活だ。新組織のメンバーは日産の西川社長と三菱自の益子修CEO、ルノーのティエリー・ボロレCEO。議長にはジャンドミニク・スナール氏が就く。フランスと日本から2人ずつのメンバーでバランスを維持した。

 また、日産のガバナンスに対しても理解を得た。ルノーの筆頭株主である仏政府がこだわりを見せていた日産の会長職について、スナール氏は「私は日産の会長になろうとは思っていない」と述べた上で、「日産の新しいガバナンスを尊重するつもりだ」とした。覚書では「ルノー会長は副議長に適した候補者」という位置づけを明示した。

 このアライアンス・ボードを進化させ、3社が知恵を出し合い、迅速に意思決定できる形を確立できれば理想的。しかし連合を揺さぶりかねない火種はくすぶる。

 仏政府はルノーと日産を経営統合させたい意向を示す。日産は連合のシナジー(相乗効果)創出には各社の「独立性維持が重要」(西川社長)との立場。経営統合に否定的で対立する。

 今後の注目点の一つは、日産が外部有識者らをメンバーに設置した「ガバナンス改善特別委員会」だ。同委は日産の企業統治の在り方について議論し、人事や報酬の決定プロセスの改善などについて3月末にも提言する方針。

 日産はそれを踏まえ、4月8日以降は取締役となったスナール氏も交えてガバナンスについて議論する計画で、後任会長人事のほかルノーとの資本関係などについても議題に上る可能性がある。スナール氏はガバナンス委の提言を尊重する考え。

 ルノー側を代表するスナール氏も納得する形で日産としての結論を導き出せれば、合議制を基本とする3社連合は、安定的に船出できる。

 3社連合にとって、保釈されたゴーン被告の言動は今後の不安要素となる。ゴーン被告は日産取締役会への出席を希望したが、東京地裁が許可しなかったことを受け12日、米国の広報代理人を通じ「失望している」との声明を発表した。

 世界に向け自らメッセージを発することに意欲的で、弁護人はゴーン被告出席の記者会見を開く予定。また三菱自は6月の定時株主総会でゴーン被告を取締役から解任する計画で、その前に取締役会への出席をゴーン被告が求める可能性もある。ゴーン被告の言動によっては3社連合の関係が揺らぎかねない。
                      

(文=後藤信之、渡辺光太)
日刊工業新聞2019年3月13日
後藤信之
後藤信之 Goto Nobuyuki ニュースセンター
 これまで3社連合を巡る提携戦略の意思決定は、統括会社「ルノー・日産BV(RNBV)」「日産・三菱BV(NMBV)」や、「アライアンス・ステアリング・コミッティ(ASC)」と呼ぶ会議体が担ってきた。ASCは3社の最高経営責任者(CEO)が参加し、各社が独立性を維持しながら平等に議論する場とされてきた。  ただ「ゴーン氏が何を言ったか。それがあらゆる約束事より意味を持った」(日産幹部)。ゴーン被告の恣意(しい)的な判断がまかり通る形で、ほころびも見えた。例えば日産の小型車「マーチ」の生産戦略。改良に伴い、欧州向けの生産は2017年にインドからルノーの仏工場に移管された。「自国での生産拡大を狙う仏政府の意向にゴーン被告が従った」との観測が根強い。  今回、設置したアライアンス・ボードでは、意思決定の民主化を進め、適切な判断を下せるようにする。3社の連携強化に向け、再スタートの位置に立った。

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