METI
製造業の研究開発、統計から見えてくるグローバル化の実態
日系製造業の海外現地法人の動向から探る
あらゆるものがインターネットにつながるIoT(モノのインターネット)やビッグデータ、AI(人工知能)、ロボットといった技術の進展が社会のあり方を大きく変えると見込まれている。企業活動のグローバル化もさまざまな形で進みつつあるが、日本企業の研究開発活動はどのように変わってきているのだろうか。
今回は、日系製造業の海外現地法人(注)の研究開発費の動向について見ていきたい。
研究開発費について、国内企業分(国内)を「科学技術研究調査報告」(総務省)、海外現地法人分(海外)を「海外事業活動基本調査」でみてみると、国内、海外ともに2009年度に大幅に減少している。しかし海外の研究開発費は2010年度から5年度連続で増加し、その後2015年度以降は連続で前年度比マイナスとはなったものの、リーマンショック前の2007年度と2016年度で比較すれば1.6倍と大幅に増加している。
海外研究開発費比率をみてみると2007年度の3.1%から2016年度では5.1%と2.0ポイント上昇している。他方、売上高比率でみると、2016年度では製造業の海外現地法人の売上高比率は2割程度あることから、海外の研究開発費の比率は近年上昇しているとはいえ、今後まだまだ伸びる余地があるのかもしれない。
では海外での研究開発費の動きを地域別にみてみよう。リーマンショック後の海外での研究開発費の増加を牽引したのは主にアジアと北米である。製造業の海外進出の加速から海外現地法人数は大幅に増加したが、その中でアジアにおいては法人数も研究開発費も増加しているのに対し、北米では法人数に大幅な変動はないものの研究開発費のみ増加しているという違いがみられる。
増加に寄与したアジアでの研究開発費を2007年度と2016年度で比較すると、2.2倍になっている。ASEAN4、NIEs3も増加しているものの、アジアの増加分の7割近くは中国によるものだ。この中国での研究開発費の業種別構成比をみてみると、輸送機械工業が30%から46%と拡大しており、これがアジアの研究開発費の増加を牽引したことがわかる。
次に北米での研究開発費だが、2007年度と2016年度で比較すると1.6倍になっている。業種別構成比の比較では化学工業、輸送機械工業が構成比を上昇させており、この2業種が北米の増加を牽引したことがわかる。なお北米の研究開発費の98%程度はアメリカが占めている。
では研究開発費を支出している海外現地法人の1社当たりの研究開発費はどうなっているのだろうか。これを2007年度と2016年度で比較してみよう。
全地域では2016年度で1社当たり4億28百万円と2007年度の1.4倍となっている。
アジアでは1社当たりの研究開発費は北米や欧州と比較してまだまだ低いものの、中国は2.0倍、NIEs3は1.4倍、ASEAN4は2.2倍(対2006年度)などと増加している。中国の1社当たりの研究開発費を業種別にみると、輸送機械工業をはじめどの業種も増加している。
北米では2007年度時点でも1社当たりの研究開発費は他の地域と比較して高かったが、その後、化学工業、輸送機械工業などが更にこれを押し上げ、2016年度では2007年度との比較で1.8倍の1社当たり10億82百万円と、他の地域を引き離して高い水準の研究開発費となっている。
このように海外現地法人の研究開発費は、リーマンショック前と比較すれば増加している。これは海外現地法人の担う役割が「現地生産」や「販売」、「調達」などに加え、「研究開発」にも重きを置きつつあることの表れなのかもしれない。2015・2016年度では海外研究開発費は減少、海外研究開発費比率もわずかではあるものの低下傾向にあるが、業種別にみると電気機械工業、業務用機械工業などの業種は海外研究開発費比率も高まってきている。
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今回は、日系製造業の海外現地法人(注)の研究開発費の動向について見ていきたい。
(注)ここでは海外現地法人とは、海外子会社(日本側出資比率が10%以上の外国法人)と、海外孫会社(日本側出資比率が50%超の海外子会社が50%超の出資を行っている外国法人)を総称して指している(経済産業省「海外事業活動基本調査」)。
リーマンショック前の1・6倍に
研究開発費について、国内企業分(国内)を「科学技術研究調査報告」(総務省)、海外現地法人分(海外)を「海外事業活動基本調査」でみてみると、国内、海外ともに2009年度に大幅に減少している。しかし海外の研究開発費は2010年度から5年度連続で増加し、その後2015年度以降は連続で前年度比マイナスとはなったものの、リーマンショック前の2007年度と2016年度で比較すれば1.6倍と大幅に増加している。
海外研究開発費比率をみてみると2007年度の3.1%から2016年度では5.1%と2.0ポイント上昇している。他方、売上高比率でみると、2016年度では製造業の海外現地法人の売上高比率は2割程度あることから、海外の研究開発費の比率は近年上昇しているとはいえ、今後まだまだ伸びる余地があるのかもしれない。
アジアの輸送機械工業などで増加
では海外での研究開発費の動きを地域別にみてみよう。リーマンショック後の海外での研究開発費の増加を牽引したのは主にアジアと北米である。製造業の海外進出の加速から海外現地法人数は大幅に増加したが、その中でアジアにおいては法人数も研究開発費も増加しているのに対し、北米では法人数に大幅な変動はないものの研究開発費のみ増加しているという違いがみられる。
増加に寄与したアジアでの研究開発費を2007年度と2016年度で比較すると、2.2倍になっている。ASEAN4、NIEs3も増加しているものの、アジアの増加分の7割近くは中国によるものだ。この中国での研究開発費の業種別構成比をみてみると、輸送機械工業が30%から46%と拡大しており、これがアジアの研究開発費の増加を牽引したことがわかる。
次に北米での研究開発費だが、2007年度と2016年度で比較すると1.6倍になっている。業種別構成比の比較では化学工業、輸送機械工業が構成比を上昇させており、この2業種が北米の増加を牽引したことがわかる。なお北米の研究開発費の98%程度はアメリカが占めている。
1社あたりは北米が圧倒的に高い
では研究開発費を支出している海外現地法人の1社当たりの研究開発費はどうなっているのだろうか。これを2007年度と2016年度で比較してみよう。
全地域では2016年度で1社当たり4億28百万円と2007年度の1.4倍となっている。
アジアでは1社当たりの研究開発費は北米や欧州と比較してまだまだ低いものの、中国は2.0倍、NIEs3は1.4倍、ASEAN4は2.2倍(対2006年度)などと増加している。中国の1社当たりの研究開発費を業種別にみると、輸送機械工業をはじめどの業種も増加している。
北米では2007年度時点でも1社当たりの研究開発費は他の地域と比較して高かったが、その後、化学工業、輸送機械工業などが更にこれを押し上げ、2016年度では2007年度との比較で1.8倍の1社当たり10億82百万円と、他の地域を引き離して高い水準の研究開発費となっている。
このように海外現地法人の研究開発費は、リーマンショック前と比較すれば増加している。これは海外現地法人の担う役割が「現地生産」や「販売」、「調達」などに加え、「研究開発」にも重きを置きつつあることの表れなのかもしれない。2015・2016年度では海外研究開発費は減少、海外研究開発費比率もわずかではあるものの低下傾向にあるが、業種別にみると電気機械工業、業務用機械工業などの業種は海外研究開発費比率も高まってきている。
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