復調「ロシア経済」に潜むリスク、日本企業はどう向き合う?
資源高どこまで?
欧米の経済制裁下にもかかわらず、ロシアに進出した日系企業の業績が好調だ。資源高を背景に、ロシア経済は回復基調にあり、市場としての魅力で存在感を増しつつある。しかし、経済制裁は当面解除されそうもなく、資源価格も下落するリスクをはらむ。企業はロシア市場とどう向き合おうとしているのか。
ロシア進出の日系企業について日本貿易振興機構(ジェトロ)がまとめた調査によると、2018年の業績で営業黒字を見込む企業(114社から回答)の割合は72・8%と、3年連続で過去最高を更新した。
ロシア経済は14年のウクライナ危機とそれに対する欧州連合(EU)からの制裁に加え、原油価格の下落によって地下資源に過度に依存する脆弱(ぜいじゃく)性を改めて露呈。15年の国内総生産(GDP)成長率は2・5%減と、マイナス成長に陥っていた。
しかし、同年を底に資源価格の下げ止まりなどもあってロシア経済は回復を続ける。国際通貨基金(IMF)は19年の成長率を1・8%と見込む。日系企業の黒字率も上昇し、前年比で利益改善とする割合は18年は47・4%と過去最高だった。
堅調に見える日系企業だが、19―20年に事業拡大するとした企業の割合は、前年比7・4ポイント減の53・5%にとどまる。黒字率が改善しているにもかかわらず慎重なのは、米国による対ロシア経済への再度の制裁懸念からだ。
米国は4月から、何人かのロシア独占資本家の米国内資産を凍結。米国人でなくても、リストに載った資本家の企業と取引があれば、米当局ににらまれる懸念がある。
制裁には露自動車大手ガズなど、現地日系企業と取引のある企業も含まれる。日系企業にとって頭の痛い話だ。こうした制裁について「影響ある」とした割合は約半数に上っており、具体的には現地市場での売り上げ減少や調達難、新規投資の取りやめなどを挙げている。
今後、米大統領選へのロシア介入疑惑の捜査など進展次第では、さらに強い制裁が課される可能性もある。ジェトロの担当者はロシア進出企業について、「制裁公表でルーブル下落も起きており、米国の動向に左右される」と指摘する。
一方、ウクライナ危機以降のロシアと欧米の関係悪化を背景に、日ロ関係の改善の兆しもある。首脳間の経済協力プランの影響もあり、「近年、地理的に近いロシア極東地域へ日系の中小企業の進出が増えている」(ジェトロ海外調査部)。
ただ、ロシア政府が悲願とする極東開発に日系企業が全面的に参画するには、北方領土問題の進展が切り離せず、先行きは見通しにくい。今後も不透明な国際情勢のなかで、日系企業の対ロ投資は慎重となりそうだ。
三井物産と三菱商事が参画する液化天然ガス(LNG)プロジェクト「サハリン2」は、生産量を現状比5割増の年間1500万トン規模に拡張する計画。現在、20年代前半の生産開始に向け、プラントの設計やガス調達、LNG販売先などの検討を進めている。
伊藤忠商事は国際石油開発帝石(INPEX)などとロシア・東シベリア地域で参画する石油探鉱事業について、ロシア政府から承認を得て、16年12月に商業生産を始めた。原油はロシア国内での供給のほか、日本をはじめとするアジア地域に輸出している。
丸紅は露国営石油会社ロスネフチと極東地域でのLNG事業で提携しており、ロスネフチが極東地域に建設するLNGプラントから年間125万トンLNGを19年から輸入することで合意した。また、丸紅はモスクワに鉱山車両用大型タイヤや関連部品を扱う販売会社を設立している。
エンジニアリング業界では日揮と千代田化工建設が、北極圏に位置するヤマル半島でLNGプラントを手がけてきた。プラント市場としてロシアへの期待感は高い。今後も同半島でのLNG開発案件「アークティック(北極)2」や、サハリン2の拡張が見込まれる。
ただ、プラントへの投資動向を読むのが難しいのがロシア市場だ。「政治的な動きで(開発方針が)早まったり、遅れたりする」(日揮)ためだ。
プラントのEPC(設計・調達・建設)ではリスクへの対応力も不可欠だ。両社は同半島のLNGプラント建設について、採算性を重視した契約形態で進めた。LNGプラントが大規模化しつつあり、ロシアでも慎重な案件管理がカギとなる。
また東洋エンジニアリングはイルクーツク州で石油化学プラントを受注した。油田で燃焼処理されてきた随伴ガスを化学品の原料として活用することを目指している。
日産自動車は仏ルノー、露アフトワズとロシアで事業を共同展開しており、3社でロシア国内で3割程度の市場シェアを有する。14年にはアフトワズの現地工場で新興国ブランド「ダットサン」の生産を始めた。現在、それに日産ブランドと高級車「インフィニティ」を加えた3ブランドで事業展開する。
ロシアの18年の新車市場は前年比12・8%増の180万台と2年連続の前年比増と回復基調。日産の18年販売(3ブランド合計)も同0・6%増の10万6138台と、僅かながらプラスを確保した。
日産は18年にロシアの現地サプライヤー幹部を国内工場に招き研修するなど、事業の底上げを図っている。また16年に資本参加した三菱自動車との協業も今後の焦点となる。
みずほ銀行とモスクワみずほ銀行は18年9月、ロシアの極東投資誘致・輸出支援エージェンシー(FEIA)と、日系企業のロシア極東地域進出に関する業務協力覚書を締結した。みずほ銀はFEIAの持つ豊富な情報を活用し、同地域への進出や事業拡大を狙う日系企業を支援する。
FEIAはロシア連邦極東発展省の傘下機関。極東地域での直接投資の誘致や輸出支援を目的に設立された。投資家や輸出業者へのコンサルティング、情報支援などを通じて投資プロジェクトを推進している。
ロシア政府は重点的に同地域の開発に取り組んでおり、今後も日本を含む海外からの投資が期待される。みずほ銀の顧客基盤を利用し、日系企業へのアプローチを拡大する狙いだ。
ロシア進出の日系企業について日本貿易振興機構(ジェトロ)がまとめた調査によると、2018年の業績で営業黒字を見込む企業(114社から回答)の割合は72・8%と、3年連続で過去最高を更新した。
ロシア経済は14年のウクライナ危機とそれに対する欧州連合(EU)からの制裁に加え、原油価格の下落によって地下資源に過度に依存する脆弱(ぜいじゃく)性を改めて露呈。15年の国内総生産(GDP)成長率は2・5%減と、マイナス成長に陥っていた。
しかし、同年を底に資源価格の下げ止まりなどもあってロシア経済は回復を続ける。国際通貨基金(IMF)は19年の成長率を1・8%と見込む。日系企業の黒字率も上昇し、前年比で利益改善とする割合は18年は47・4%と過去最高だった。
堅調に見える日系企業だが、19―20年に事業拡大するとした企業の割合は、前年比7・4ポイント減の53・5%にとどまる。黒字率が改善しているにもかかわらず慎重なのは、米国による対ロシア経済への再度の制裁懸念からだ。
米国は4月から、何人かのロシア独占資本家の米国内資産を凍結。米国人でなくても、リストに載った資本家の企業と取引があれば、米当局ににらまれる懸念がある。
制裁には露自動車大手ガズなど、現地日系企業と取引のある企業も含まれる。日系企業にとって頭の痛い話だ。こうした制裁について「影響ある」とした割合は約半数に上っており、具体的には現地市場での売り上げ減少や調達難、新規投資の取りやめなどを挙げている。
今後、米大統領選へのロシア介入疑惑の捜査など進展次第では、さらに強い制裁が課される可能性もある。ジェトロの担当者はロシア進出企業について、「制裁公表でルーブル下落も起きており、米国の動向に左右される」と指摘する。
一方、ウクライナ危機以降のロシアと欧米の関係悪化を背景に、日ロ関係の改善の兆しもある。首脳間の経済協力プランの影響もあり、「近年、地理的に近いロシア極東地域へ日系の中小企業の進出が増えている」(ジェトロ海外調査部)。
ただ、ロシア政府が悲願とする極東開発に日系企業が全面的に参画するには、北方領土問題の進展が切り離せず、先行きは見通しにくい。今後も不透明な国際情勢のなかで、日系企業の対ロ投資は慎重となりそうだ。
商社、資源開発を加速
三井物産と三菱商事が参画する液化天然ガス(LNG)プロジェクト「サハリン2」は、生産量を現状比5割増の年間1500万トン規模に拡張する計画。現在、20年代前半の生産開始に向け、プラントの設計やガス調達、LNG販売先などの検討を進めている。
伊藤忠商事は国際石油開発帝石(INPEX)などとロシア・東シベリア地域で参画する石油探鉱事業について、ロシア政府から承認を得て、16年12月に商業生産を始めた。原油はロシア国内での供給のほか、日本をはじめとするアジア地域に輸出している。
丸紅は露国営石油会社ロスネフチと極東地域でのLNG事業で提携しており、ロスネフチが極東地域に建設するLNGプラントから年間125万トンLNGを19年から輸入することで合意した。また、丸紅はモスクワに鉱山車両用大型タイヤや関連部品を扱う販売会社を設立している。
エンジニアリング、案件管理に慎重
エンジニアリング業界では日揮と千代田化工建設が、北極圏に位置するヤマル半島でLNGプラントを手がけてきた。プラント市場としてロシアへの期待感は高い。今後も同半島でのLNG開発案件「アークティック(北極)2」や、サハリン2の拡張が見込まれる。
ただ、プラントへの投資動向を読むのが難しいのがロシア市場だ。「政治的な動きで(開発方針が)早まったり、遅れたりする」(日揮)ためだ。
プラントのEPC(設計・調達・建設)ではリスクへの対応力も不可欠だ。両社は同半島のLNGプラント建設について、採算性を重視した契約形態で進めた。LNGプラントが大規模化しつつあり、ロシアでも慎重な案件管理がカギとなる。
また東洋エンジニアリングはイルクーツク州で石油化学プラントを受注した。油田で燃焼処理されてきた随伴ガスを化学品の原料として活用することを目指している。
日産、好転・事業底上げ
日産自動車は仏ルノー、露アフトワズとロシアで事業を共同展開しており、3社でロシア国内で3割程度の市場シェアを有する。14年にはアフトワズの現地工場で新興国ブランド「ダットサン」の生産を始めた。現在、それに日産ブランドと高級車「インフィニティ」を加えた3ブランドで事業展開する。
ロシアの18年の新車市場は前年比12・8%増の180万台と2年連続の前年比増と回復基調。日産の18年販売(3ブランド合計)も同0・6%増の10万6138台と、僅かながらプラスを確保した。
日産は18年にロシアの現地サプライヤー幹部を国内工場に招き研修するなど、事業の底上げを図っている。また16年に資本参加した三菱自動車との協業も今後の焦点となる。
みずほ銀、日系向けを支援拡充
みずほ銀行とモスクワみずほ銀行は18年9月、ロシアの極東投資誘致・輸出支援エージェンシー(FEIA)と、日系企業のロシア極東地域進出に関する業務協力覚書を締結した。みずほ銀はFEIAの持つ豊富な情報を活用し、同地域への進出や事業拡大を狙う日系企業を支援する。
FEIAはロシア連邦極東発展省の傘下機関。極東地域での直接投資の誘致や輸出支援を目的に設立された。投資家や輸出業者へのコンサルティング、情報支援などを通じて投資プロジェクトを推進している。
ロシア政府は重点的に同地域の開発に取り組んでおり、今後も日本を含む海外からの投資が期待される。みずほ銀の顧客基盤を利用し、日系企業へのアプローチを拡大する狙いだ。
日刊工業新聞2019年2月26日