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「上場ゴール」を拒絶するインドの気鋭ベンチャーの生き様

ゾーホーCEO「米国の金融資本主義に対峙する見本はドイツにある」
「上場ゴール」を拒絶するインドの気鋭ベンチャーの生き様

シュリダー・ベンブCEOは日本企業からも多くのことを学んだという

 スマートフォン向けゲーム大手のgumiが上場わずか2カ月半で業績を大幅に下方修正。新規株式公開(IPO)業界に冷や水を浴びせた。インドの顧客管理クラウドサービスで急成長するゾーホーは、あえて非上場を貫く。その狙いはどこにあるのか。インドで根強い米国型の金融資本主義へのアレルギーについて、シュリダー・ベンブ共同設立者兼最高経営責任者(CEO)に聞いた。

 ―外部資本も入れず実質無借金で利益を出し続けています。ただ成長やグローバル展開するには、株式公開も選択肢ですが。
 「自分たちの目指すことを実現するには、自由が必要だ。非上場ならウォールストリートからのプレッシャーも受けず挑戦できる。我々が重視しているのは長期的視点に立った研究開発。シリコンバレーのITバブルに身を置くと短期志向になってしまう。グローバルで約3000人の陣容になり、もはや中規模の会社になった。成長していく上で問題も出てくるが、それを打破するのは15―20人の小さなチームで動ける組織と文化を築くこと。上場はまったく考えていない」

 ―ベンブさんは米プリンストン大学で博士号も取得し、米国の文化や企業経営にも影響を受けていると思います。
 「もちろん米大手のテック企業はどこも参考にしている。その中でも一番注目しているのがアップルだ。半導体のデバイスから機器、クラウドサービス、ネット上の取引市場まで全部自社で管理し垂直統合しているから、よいユーザー体験を提供できる。ゾーホーは今、自社独自の言語開発を強化しているが、幅広い製品群を統合しやすいようにするためだ。それと米国の金融資本主義とは関係ない」

 ―インドの起業家や経営者の中で、米国型の金融資本主義に距離を置く勢力は多いのですか。
 「すごくマイノリティーではないと思う。ニューヨークやロンドンの金融業界からかなりの圧力が来ているのは間違いない。ただモディ政権の中のキーアドバイザーは、それらと距離を置くことが大事と、考えている人たちが多いように感じる。与党も金融系より、実業家や起業家とつながりが深いのではないか」

 ―日本でも上場の是非についての議論は常にあります。
 「ドイツが参考になる。ロバート・ボッシュなど非上場のままでグローバル展開に成功している会社も多い。米国の金融資本主義と対照的だが、世界経済のリーダーの地位にある。私もドイツからインスピレーションを得ている。ドイツは米国型を拒否したが、海外からの投資を促進する『モディノミックス』がどういう選択するかはまだ分からない」
 
 《企業プロフィル》
 【ゾーホー(本社チェンナイ)】
  1996年にアドベントネットとして創業。ネットワークの運用から、最近は中堅・中小向けにクラウドによる業務効率化サービスで事業を拡大。グローバル人員は約2800人。日本法人は01年の設立で約40人。業績は非公開。創業者のベンブ氏は68年生まれ。インド工科大学に在籍後、米国へ留学。現在、インドにおける気鋭の起業家として期待されている。(聞き手=編集委員・明豊)
日刊工業新聞2015年03月27日 中小・ベンチャー・中小政策面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
日本とインドのIPO事情は単純に比較できないが、モディ政権内に米国の金融資本主義と距離を置こうとしている勢力が多いことを実感。それでも上場か未上場かで、企業価値の重みは100倍以上違うし、メディアの取材アプローチも変わる。国光さんとは面識あって取材もしたけど、スタートアップの時はgumiの事業というより、記事は「国光宏尚物語」になる。スタートアップの成否は創業者のキャラクターが半分くらい占めるから当然だろう。それが上場申請が見えているベンチャーに対し、メディアも様々なファクツを見抜く目を持たないといけない。例えばメディアや公的機関主催のアワードや権威ある顕彰に応募してくることが結構ある。いかにも証券会社とかVCが薦めているケースは要注意。

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