ニュースイッチ

スタートアップ先進3市長が助言「モテる」「飲み会を開く」「市役所で浮く」施策

福岡・高島氏、横須賀・吉田氏、千葉・熊谷氏の本音トーク~ベンチャー政策カンファレンス2015より
 トーマツベンチャーサポート主催の「ベンチャー政策最前線、地方創生の実現に向けて」が8月4日に開催され、スタートアップ推進都市を代表して、福岡市の高島宗一郎市長、横須賀市の吉田雄人市長、千葉市の熊谷俊人市長のトークセッションが行われました。市長のリアルな声から、地方自治体の新しい風が感じられます。モデレーターはトーマツベンチャーサポートの斎藤祐馬事業統括本部長。

経済の部署が空き店舗対策をやっているようではダメ


 ―福岡市はおそらく地方自治体の中でもスタートアップでは断トツで知名度があると思います。制度を含め今までとの違いや、なぜ、このような状況になれたのかを教えてください。
 高島「なんやろうね。分かりやすくいうと、『創業支援』と呼んでいたのを『スタートアップ支援』にしたこと。創業支援は、『創業したい人はここに来てください』という政策。つまり、起業家に対する支援のメニューがあったという話。今は、スタートアップの環境作りをしていて、広く耕す、裾野を広げることをしている」

 「やっぱりリスクをとってチャレンジすることはかっこいいんだ!と思ってもらえるかどうか。優秀な人が大企業に入るのではなくて、自分でビジネスを起こしてチャレンジする人が“モテる”という雰囲気を作ることですね。(お洒落な)スタートアップカフェにいる俺ってかっこいい!と感じること。そういうことが、実は凄く大事なんですよ」

 「昔はロックスターが夢を語って日本を変え世界を変えていた。今は商業的な音楽になっちゃって、あんまりそういうこと言ってない。起業家は『俺たちのビジネスで日本を、世界を変えてやる』と夢を語れる」

 「福岡は98%が中小企業。主役は中小企業ですよ。かっこいいという舞台を作ることにはお金はかからない。しかも、そういう旗を立ててくれることの方が起業家には力になるんです。スタートアップカフェにしても、お金をかけて立派なものを作るのではなくて、使う人の使いやすさの視点で考えているんで。『ここは俺たちのもの感』が大事なんですね」

 新規雇用者数の約4割は3年以内に発足した企業

 ―高島さんのようにどうやったら首長が動いてくれるんでしょうか。千葉市長の熊谷さん、教えて下さい。
 熊谷「選挙(笑)。なかなか自治体の職員は、首長を替えることはできないですよね。どうですかね。例えば、データを意識する首長でしたら、高島市長がよく使っているように、スタートアップベンチャーはこういう風に雇用を生み出す力がある、というものを分かりやすくグラフで伝えていくのが大事だと思いますね」

 「例えば、発足して3年以内の事業所は全体の8.5%なんですね。そのうちどれだけ雇用を生み出しているかというと、新規雇用者数の中で37.6%も占める。設立10年以内の企業は雇用を増やしていて、10年以降の会社は平均すると雇用を減らしているんです。つまり新しい企業が生まれない限り、雇用は生まれませんというデータ。これが具体的なデータの力です」

 「とにかく経済関係の部署の人が空き店舗対策をやっているようじゃダメだと思います。空き店舗が生まれるのはそこで商売をするのに適さないから。それを埋めようとするのは、経済関係の仕事ではない。空き店舗で困るのは地域活性課。地域のキズナのレベルで、自治会などがやっていくべき問題です。首長もそうですし、市役所内の共通理解として、我々は誰と付き合うべきなのかを明確にして、そちらにシフトしていくことが重要です」

 ―吉田市長にお聞きします。福岡は人が集まってきていて、これが成功事例になりつつあります。なぜ横須賀市はスタートアップに目をつけたのか?これからどれくらいの成果を見込んでいるのでしょうか。
 吉田「(一般的に)市民は大規模な工場誘致などに過剰な期待をしている。ただ、土地も限られているし、近隣の横浜や川崎、アジアの国々とも張り合うことになる。旗を降ろすわけではないのですが、それは宝くじがあたるようなもの。とはいえ私は結構、誘致してますけどね(笑)」

 「それは置いておいて、現実路線を考えたらスタートアップ支援でした。インサイト、インバウンド、アウトバウンドがありますね。横須賀発の企業が東京で活躍するアウトバウンドも、それはそれで発信をできるからいいし、インバウンドは大歓迎。今、市外からも呼び込めるような環境作りを進めていて、『ヨコスカバレー』という名称になっている。空家に住んで働いてもらうとか、そのリフォーム支援などパッケージでまとめている」

 「鎌倉にはカヤックという会社が中心となって『カマコンバレー』というICTで街づくりをしているけど、横須賀とは全然競合しない。一方で横浜は意識しています。あれだけ人口もあるし、企業も集積しているので。美味しいところを横須賀に持ってこれないかを考えています。とはいえ横浜や川崎と対抗していくには、鎌倉などと地域で連携していくのが良いと思っています」

ニュースイッチオリジナル
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
地方自治体の関係者など300人を超える人が参加、地方創生への熱量が伝わってきた。一方で、スタートアップやベンチャー支援に限らず、自らプランやアイデア、それを動かす人脈などを持っている自治体はまだまだ少ないのが実情。なぜそこの地域じゃないといけないのか?地域の文化を経済に結びつけていことかが、一つカギのような気がする。

編集部のおすすめ