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ロボット社会の実現には技術課題が山積みだ

連載・WRS 競技から見えた可能性と課題より
ロボット社会の実現には技術課題が山積みだ

トンネル事故災害対応・復旧チャレンジで現場の状況を把握しながら作業を進めるWRS競技者

 世界からロボットの英知を集めた「ワールド・ロボット・サミット」(WRS)では、各国の参加者が、災害などの現場を模した場所で先進技術を競った。デファクト(業界標準)やプラットフォーム(基盤)に育ちうる技術が登場したと同時に課題も明らかになった。WRSで見えた諸技術の可能性と課題を紹介する。

基盤化見据え、ノウハウ共有


 WRSの競技は「ものづくり」と「サービス」「インフラ・災害対応」「ジュニア」の4部門で行われた。全体に共通する課題は、情報技術とロボットの融合だ。例えば、インフラ・災害対応部門の「トンネル事故災害対応・復旧チャレンジ」。ロボシミュレーター「コレオノイド」の中で人命救助などの技を競い、大型と小型の双腕ロボ2台をうまく連携させた会津大学チームが優勝した。

 会津大は練習を通してロボ同士の連携の取り方を最適化した。シミュレーターを使えば、飛行ロボ(ドローン)やクローラー型、多脚型など多彩なロボを組み合わせて、仕事を完遂できるか検証できる。例えば事故車両のドアを壊して人を救出する場合、作業中の死角を別のロボが回り込んで見て補うことが必要になる。

 成瀬継太郎会津大教授は「シミュレーターは試行錯誤のデータが残る。次はシミュレーターでためたノウハウを実機に移転する。繰り返し動作から自動化し操縦者の経験に依らず誰でも安定して仕事ができるようにしたい」と手応えをつかむ。

 コレオノイドは産業用ロボにも応用された。ものづくり部門で準優勝した金沢大学の辻徳生准教授は「実機で失敗してもシミュレーター上で修正し、短時間でリカバリーできた」と振り返る。シミュレーターは動作検証から部隊編成、制御と活用の幅を広げている。

 玉川大学はサービス部門の実機とシミュレーションの両部門に出場した。岡田浩之教授は「両技術を統合する」とする。情報技術とロボの融合が加速する中、課題は分野を超えたノウハウやデータの共有だ。プラットフォーム化を見据えた開発が重要になる。

自律と遠隔補助の両面から


 WRSでは移動ロボットによる手作業「モバイルマニピュレーション」が大会全体に共通する課題となった。モバイルマニピュレーションはロボが移動しながら器用にアームで作業する技術だ。参加チームの多くは移動と手作業を分けて別々の機能として単純化した。だが切り分けると時間がかかる。もう一段の飛躍が求められる。

 サービス部門で競技の標準機となったトヨタ自動車のロボ「HSR」は、アームの軸数を減らすため、移動機構の動きの前後・左右・回転をアームと組み合わせる。ただ移動は床が滑るなどが理由で位置精度が高くない。

 そのため移動の動きは位置取りにしか使われていない。一度止まって、センサーで計測し、対象を認識し直し、アームを動かして作業している。

 サービス部門の競技委員長を務める岡田浩之玉川大学教授は「移動や認識、作業など個々の要素技術は進歩している。課題は統合。一連の機能を連続的に初めての環境で実行する技術がない」と指摘する。自律的なモバイルマニピュレーションはまだ課題が多い。

 対してインフラ・災害対応部門では人間がロボを遠隔操縦する。個々の要素技術を操縦補助の形で実装する。災害対応標準性能評価チャレンジで優勝した京都大学などのチームは、アームの動作を逆運動学で半自動化し、壁面認識も自動化して高得点を上げた。自律と遠隔操縦補助の双方から技術開発が進み、後者はビジネスになりそうだ。技術の応用先が広く、研究加速が求められる。

学生への導入支援必要


 日常生活の動作は人間にとっては簡単だ。だがロボット技術に分解すると多くのタスクが連続し並列的に処理されている。生活支援ロボに置き換えると、タスクの複雑さで組み合わせ爆発を起こす。プロジェクト管理は必須の課題だ。

 WRSでは、若い競技者の多いサービス部門とジュニア部門で不備が目立った。例えばジュニア部門では「ペッパー」が人間のTシャツの色と挙げている腕の左右、表情を識別するタスクが出た。

 人間なら一目でわかる課題だ。だがロボットにとっては大変だ。周囲を探索して人物を認識して撮影。画像の中からTシャツを着ている上半身を抽出して色を識別する。挙げている腕の左右を識別するには、人間がどちらを向いているか把握する必要がある。正面に回り込み、顔を撮影して表情を認識する。

日本と海外のチームで協力し、ペッパーとハグをするプログラムに成功し喜ぶ参加者たち

 サービス部門のお片付けタスクも同様だ。認識と移動、作業を繰り返すため動作や機能を整理し、一つひとつ信頼性高く作り込む必要がある。結果はほとんどのチームが途中で止まった。標準機を提供したトヨタ自動車からは「競技者に聞くと、基本的なプロジェクト管理をしてない」とため息が漏れた。

 課題はプロジェクト管理が学校教育と相性が悪い点だ。日本ではチームマネジメントを経験する中高生はごくわずか。WRSとしては大学生へのテコ入れが必要になる。標準機の提供者は各チームのプロジェクト管理を支援し、かつ相乗効果のあるようにコミュニティーを運営していくことが求められる。

食品など巨大市場視野に


 WRSのものづくり部門では精密組み立てという課題自体に賛否両論あった。反対派は「難しすぎる」、「もっと簡単な仕事でも大きな市場がある」という。賛成派は「いま見えている市場の一つ先の課題として面白い」、「精密組み立てをロボット化できれば巨大な市場が開ける」と言う。

 精密組み立てでは、精密動作に加えてビジョンや力覚制御などの実用技術を統合する力が求められた。大学チームから斬新なアイデアや技術が提案されたが、課題を完遂したのはシステムインテグレーター(SI)のオフィスエフエイ・コム(栃木県小山市)のみ。青木伸輔ゼネラルマネージャーは「すべての技術をすり合わせ、完成させるには経験と底力が必要」と強調する。

 同社は食品盛り付け作業が有望市場と見る。青木GMは「食品工場は人手不足。20年大会で食品工場が競技化されれば、不定形物のハンドリング技術が進歩し大きな市場がとれる」と期待する。

 ロボ制御技術で知られるMUJIN(東京都墨田区)は工場の精密組み立てに市場を見いだす。滝野一征最高経営責任者(CEO)は「18年大会ではSIの底力が必要だったが、誰でも簡単に実現できるようにしたい」と決意を新たにする。

 同社の制御技術はオークマの工作機械の中で働くロボアームに採用された。今後、加工機の中で部品を組み付け、芯出しや面取りが可能になる。工作機械などの専用機と汎用ロボを組み合わせた組み立て加工や搬送などの複合作業はホットだ。両方に手を打つことがWRSの課題だ。

認識データから本体に焦点


 人工知能(AI)研究者はいつまで画像認識器を作り続けるのか―。生活支援ロボットの開発者から、こんな疑問がわいている。ディープラーニング(深層学習)を中心としたAI技術がロボの認識機能を飛躍させた。多様な日用品を認識できるようになり、モノを選んだりハンドリングしたりする第1歩目の認識精度が向上した。

 WRSサービス部門では認識器を作るためのデータセット作りが競争点になった。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の石塚博昭理事長は「ロボ本体よりAIとセンサーが勝敗を分けた」と総評する。データ作成を半自動化し、安定して認識できた九州工業大学が優勝した。

日用品の片付けなどのタスクに挑む九州工業大学のチーム

 一方で、いつまで認識用のデータが競争力になりえるのかという声はある。トヨタ自動車の玉置章文主査は「認識できなければ何も始まらない。だが学習用データ作成が開発の焦点になっても困る」と漏らす。WRSの運営にあたった九工大の石田裕太郎大学院生は「競技会ならチームが協力してデータを作った方がいいのではないか。そうすればロボ本体の技術で差がつく」と指摘する。

 WRS本大会が開かれる2020年には、認識AIの学習済みモデルはいくつも流通していると予想される。18年大会のように現場に合わせて2日で再学習させるのか、深層学習で認識モデル自体をリアルタイムに切り替えることになるのか、AIの研究者でも見たてはわかれる。ロボット技術者には、この変化を包含する技術開発が求められる。

3Dセンサーの限界突破


 バラ積みピッキングはロボット化が期待される工程だ。数センチメートルサイズの部品であれば市販の3Dセンサーで扱えるようになった。ただ数ミリメートルの小さな部品や金属光沢のある部品は課題が多い。WRSでは3Dセンサーに頼りすぎない妙案が登場した。

 バラ積みへのロボット導入は3Dセンサーがけん引役になってきた。だが金属光沢がある部品は周囲の光を反射してセンサー認識の阻害となるノイズが大きくなる。さらに小さな部品はセンサーの分解能が足りずに一つ一つを認識できない。3Dセンサーの限界がロボットの限界ともいえる。

 WRSものづくり部門のキッティング課題では、すべてのチームがバラ積みの小ネジに苦戦した。米ロボティックマテリアルズはカメラと画像処理半導体(GPU)を内蔵したハンドを開発。グリッパーでつかむ対象を深層学習で認識しながら作業し、最高成績を収めた。

 南デンマーク大学(SDU)はスコップのような治具でバラ積みされた部品をすくいとる。スコップの根元には部品を一列に並べるための傾斜と溝を切った。スコップを揺すると中で部品が並ぶ。パーツフィーダーが部品を整列させるメカニズムをロボットと治具で再現した。

 この方法なら部品を一つ一つ認識する必要はない。治具上で小ネジの位置や向きをそろえて、組み立て作業に移れる。SDUのクリスチャン・シュレット教授は「スコップ治具は部品の大きさや形状に合わせて3Dプリンターで造形する」と説明する。妙案一つで3Dセンサーの性能限界を突破する可能性がある。

新研究領域、VRデータ活用


 ロボット分野は40年以上、人がロボットに正しく作業をさせる研究が進んできた。反対に、ロボが人に正しい作業をさせる研究はほぼ未開拓の領域といえる。ロボと人の立場を入れ替えるだけで別次元の難しさになる。ロボが人に指示をする、というテーマが新研究領域になりそうだ。

 WRSサービス部門ではVR(仮想現実)空間の中でロボットが家事や雑事を手伝った。その一つにロボの指示の的確さを競う課題がある。ロボが人間に「テーブルの塩を棚に片付けて」など、いくつも指示をする。人間にとっては初めて入る部屋で、あれこれと指示を受ける。何がどこにあるか分からず、混乱する。

ロボに指示され、調味料を頭上の棚に片付ける

 例えば、ロボが「後ろの棚です」と言い直しても、人間が振り返っている最中に発声すると向いてほしい棚の別方向を向いてしまう。競技を運営した国立情報学研究所の稲邑哲也准教授は「人間が迷う、困るといった状況を把握し、指示や説明を簡潔で的確に修正する技術が要る」と指摘する。これを限られたセンサーと情報で実現する技術が必要だ。「片付けや探し物のナビに限らず、料理や自動体外式除細動器(AED)処置などの作業支援にも技術を展開できる」という。

 VRは高品質のデータを大量に集められる利点がある。同じ条件でたくさんの人が参加でき、人ごとのバラつきを補える。パニックを再現して視野を狭めることも可能だ。国情研の水地良明特任研究員は「WRSでは被験者14人分196データが集まった。このデータが次の技術開発の土台になる」と期待を寄せている。

過酷環境での利用に必須


 ロボットを現場で使うには、運用性が極めて重要な指標だ。特に災害対応などの屋外で利用するケースでは使用環境が屋内より過酷になる。少人数で扱え、壊れにくく、手間がかからないロボットが求められる。

 WRSが競技会として企画されたのは、大学などの研究室と過酷な現場とを橋渡しする目的がある。インフラ災害対応部門の標準性能評価競技では、障害物が林立するコースやプラントの点検足場と階段のコースをロボが何度も往復した。過酷環境を標準化して再現し、ロボの性能と耐久性を問うためだ。

 この厳しいレースをドイツのテレロボは1人で戦い抜いた。他のチームは4―10人規模のチームで大会に挑んだが、テレロボは1人で運用し、会期中に新しい機能も開発して実装した。テレロボのアンドレアス・シオセック博士は「競技会は自分の技術力を磨く良い機会になる」と大会を楽しんだ。

 1人で運用できるのは機体の完成度が高く、修理などの手間がかからないためだ。優勝した京都大学の竹森達也リーダーは「競技では勝ったがテレロボの完成度にはまだ遠く、学ぶところが多い」と評価する。

 運用面でも操縦ブースを組み立て式にする工夫があった。現地で安定した操縦環境をつくれる。電気通信大学の田中基康准教授は「操縦席をスーツケースで持ち運べる。すぐにでもまねたい」という。

 競技運営の佐藤徳孝名古屋工業大学助教は「WRSとして運用性を採点項目に加えるか検討が必要」としている。

ロボ進化へ促進効果も


 インフラ保守向けのロボットは、髪の毛のように細いクラック(ひび)を望遠で見分けるなど人間でも難しい技術を求められがちだ。そうしたロボの力を正しく計るには評価側も高い技術を持つ必要がある。ロボの進化に負けないよう、競技会運営者の計測技術の向上が求められる。

 WRSではダクトの内部やプラントやトンネルなどの壁が再現され、空間計測能力を競った。競技として状況を簡易化しつつ標準化するため、仮設ステージに大小の2次元コード「QRコード」を配置した。ロボは壁やダクトを計測して3次元地図を作り、2次元コードの位置を地図上にマッピングして精度を競う。

ダクトステージと京大のロボット

 競技ステージは施工時に必ず図面からずれが生じるため、運営側が測り直す必要がある。2018年大会は手作業で計った。長岡技術科学大学の木村哲也准教授は「ロボの計測精度が高まると3次元計測技術を運営側ももたないと競技運営が厳しい」と指摘する。

 評価側の技術力でロボ開発を促すことも可能だ。例えば災害対応標準性能評価競技ではステージに配置したカメラとロボに取り付けたカメラを同期して映像記録を作るシステムを試験導入した。長岡技科大の五十嵐広希産学官連携研究員は「トラブル時に機体や周囲で何が起きたか把握し対策しやすくなる」と説明する。これは福島ロボットテストフィールド(福島県南相馬市)に導入されロボ開発に生かされる予定だ。優れた評価技術は技術開発を加速させる。

ドローンと地上ロボで連携


 プラント保守など屋外で働くロボットにとって、カメラ画像からの3次元(3D)地図作製技術(SLAM)と3Dレーザーセンサーでの3D地図の融合技術が重要になっている。飛行ロボット(ドローン)が得る高密度で粗いビジュアルSLAMと、地上走行ロボのレーザーによる低密度で精緻なSLAMを統合して作業に利用する。さまざまな形態のロボを運用する基盤技術になりえる。

 WRSのプラント災害予防競技で、ドイツのダルムシュタット工科大学が会場を沸かせた。地上ロボが作った3D地図を基にドローンが配管の間を飛び回り、メーターを撮影してデータを3D地図にアップした。ドローンの位置を地上ロボが計測し、どのメーターを読んだか照合する。

 同工科大学のオスカー・ボン・ストリーク教授は「ドローンを大型化すると墜落時のリスクが増える。機能をカメラに絞り極力リスクを減らした」と成功の秘密を明かす。ドローンに重い3Dレーザーセンサーを積まず、地上ロボの計測システムで補完した。

 この技術が進化すれば、小型ドローンを災害現場に飛ばして粗い3D地図を作製し、作業が必要な空間は、地上ロボが地図を精緻化してシミュレーターを構築し、連携作業する、といったことが可能だ。京都大学の松野文俊教授は「まだない技術。今後面白くなる」と期待する。オスカー教授は「自然災害は雨の日に多い」とし、雨の中でも飛べる防水ドローンや雨粒によるレーザー反射を克服するセンサー技術の開発を急ぐ。

マスタースレーブ方式に注目


 ヘビ型ロボットや双腕ロボなど、関節数が多く複雑なロボに器用な作業を求める場面が増えている。簡単な操縦システムで複雑な制御が必要だ。ロボのミニチュアを手元で動かして本体を連動させるマスタースレーブ方式が改めて注目される。

 WRSインフラ・災害対応部門では岡山大学がヘビ型ロボとクローラー型ロボを合わせた複合システムを採用した。ヘビ型ロボは複雑な機体をシンプルな制御で動かすことが研究の妙味だが、ヘビ型ロボをアームの代わりにしてパイプ引き抜き作業に成功した。岡山大の亀川哲志講師は「器用な作業もできると可能性を示せた」と胸を張る。

双腕建機ロボのミニチュアを直接操作する(大阪電通大)

 ただ、複雑な機体をゲームコントローラーで制御するのは限界がある。一方で難しい操縦システムはユーザーに受け入れられない。そこで大阪電気通信大学は双腕建機ロボで、ミニチュアから操作するマスタースレーブ方式を採用した。ミニチュアの腕を伸ばせば本体もその通りに動く。さらにヘッドマウントディスプレー(HMD)に、ロボから見える障害物などをAR(拡張現実)で表示する。大阪電気通信大の升谷保博教授は「直感的に操縦しやすい」と説明する。

 深刻な人手不足を受けて、在宅勤務や障がい者雇用のツールとして遠隔操作ロボが注目されている。今後マスタースレーブ方式は広がる可能性がある。遠隔操作を通して作業データを集め、シミュレーターで増幅できる。人間の配慮を加味した動作の自動化を進められると期待される。

育成・普及へ成果つなぐ


 ロボットの競技会は技術プラットフォーム(基盤)の育成が目的の一つになっている。米国防高等研究計画局(DARPA)が2015年に開いた災害対応ロボ競技会では、米ボストン・ダイナミクスのヒト型ロボ「アトラス」を技術プラットフォームとして世界に広げる狙いがあった。ただ機体は製造コストが高く、いまだに標準となる機体が現れていない。

 WRSにはプラットフォームを狙えるソフトウエア技術があった。産業技術総合研究所が開発するロボシミュレーター「コレオノイド」だ。バーチャル空間で作業を競うトンネル事故災害対応・復旧競技の競技フィールドとして採用された。連日の競技をトラブルなく、運営してみせた。

 産総研の中岡慎一郎主任研究員は「技術自体は世界一と断言できる」と説明する。消火ホースのような柔軟物やクローラーをシミュレーションでき、ロボへの搭載が進む全天球カメラや3次元(3D)レーザーセンサーなどにも対応する。ものづくり部門でも採用したチームが準優勝した。

 WRSを通してユーザーを集めてニーズを整理し、新技術を実装してフィードバックを受けるという開発サイクルを高速に回せた。今後、ロボと人工知能(AI)の融合を進める上で重要な技術基盤になる。

 一方で研究者への業績評価は難しい。泥臭い開発が多く、技術は無償公開が基本だ。ユーザー数だけを比べると、多くのユーザーを抱える海外の商用ゲームエンジンより少ない。こうした、オープンに育てないとプラットフォームになれない技術を、日本がどう育てるのかが課題になる。

トンネル事故災害対応・復旧チャレンジ。バーチャルでトンネル事故の災害復旧を行う

(文=小寺貴之)
日刊工業新聞2018年11月21ー12月28日(12回連載)
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
WRSは競技会を使って新技術の開発者コミュニティとユーザー、社会をつなごうという試みです。紙面では技術課題を中心に12テーマを紹介しました。ジュニア部門を観ていて思うのは、学校のロボット部やパソコン部にはカラフルな子が集まっていて、いろんなチャンスを作っている側面があります。普通の子も、オタクも、ただ体育会系のノリについていけない子も、ADHDなどの子もいます。自分のペースで活動でき、成果が目に見えやすく、国際大会など世界とつながるチャンスがあります。 WRSでも多動な子がチームを悩ませている例がありました。海外から親御さんがついてこられていて、会期中ずっと心配そうに見守っていました。日本のチームにもそうした子がおられて、親御さんが引率の先生に学校生活について平謝りしている姿がありました。こうした難しさを排除せずに、包み込んで大会やチームを運営できたのは一つの成果だと思います。チームをまとめるリーダーや、高校生や大学生など年次が上がった子にとっては、社会の多様性を学ぶいい機会になると思います。ロボ部で学んだ経験や培った自信は、本人にとっても、周囲にとっても、社会に出てから必ず役に立つと思います。

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