ニュースイッチ

消費増税対策は?政府・2019年度予算案のポイントをまるっと紹介

中小対策、国土強靭化も課題に
消費増税対策は?政府・2019年度予算案のポイントをまるっと紹介

消費増税に備え、キャッシュレス決済でポイント還元(イメージ)

 政府が閣議決定した2019年度予算案は、同年10月の消費増税率10%への引き上げを見据え、景気の腰折れを防ぐために経済対策を厚く盛り込んだ。足元では米中貿易摩擦の激化や長期金利の上昇などで世界経済の減速がささやかれ、日経平均株価は今年の最安値を更新し、2万円の大台を割る寸前。不透明感を増す経済情勢の中、政府は増税に備え、万全の体制で予算を執行する必要がある。

経済対策厚く


 政府は消費増税による経済への影響を5兆2000億円と試算。幼児教育無償化や年金生活者支援給付金などの措置で3兆2000億円の受益増が見込めることから、「経済への影響を2兆円程度に抑制できる」とし、経済対策費に2兆280億円の予算措置を行う。

 また、消費増税に向けた新たな対策として、中小小売業の消費者へのポイント還元に2798億円、生活保護受給者を除く低所得者や0―2歳児の子育て世帯向けプレミアム付商品券に1723億円を予算措置。

 住宅ローン減税効果が限定的な住宅購入者に給付する「すまい給付金」拡大に785億円、防災・減災・国土強靱(きょうじん)化対策に1兆3475億円などの予算措置を実施する。

 さらに、住宅ローン減税の拡充や、自動車取得・保有の税負担の軽減などの税制上の支援で3000億円程度の減税効果を見込む。経済対策としては、総額2兆3000億円程度の新たな措置となり、政府は「経済への影響を十二分に乗り越える対策だ」とし、消費増税に備えた“総力戦”の構えだ。

 ただ、麻生太郎財務相は「経済再生と財政再建の両立を図るものだ」と説明するものの、一般会計の総額は7年連続で過去最大を更新する。

 ニッセイ基礎研究所専務理事エグゼクティブ・フェローの櫨(はじ)浩一氏は、「景気の先行きが怪しいのでその意味での備えは必要かもしれないが、増税対策としては緩和策などもたくさん入る。その意味ではやや、やり過ぎではないか」と指摘。その上で、「消費税を上げて景気がおかしくなれば、次に増税する際にさらにハードルが上がると考えたのかもしれない」と話している。

 安倍晋三首相が首相に返り咲いて26日で6年。その間、デフレ脱却を目的に政策を総動員し、日経平均株価は1万円近辺から直近では2万4000円台まで回復した。国内外で政治・経済情勢が不安定感を増す中、デフレ脱却を確実なものとするためにも、消費増税の試練を乗り越える必要がある。

 一方、概算要求段階で高齢化に伴う社会保障費の自然増を6000億円と見込んでいたが、来年度予算では4768億円に圧縮することで厚生労働省と合意した。

 政府は安倍首相を議長とする未来投資会議などとの合同会議で、65歳までの雇用を義務付けた現行制度を維持しつつ、「70歳までの就業機会を確保する」とした。来夏に示す実行計画で3年間で実現をめざす「全世代型社会保障改革」への足がかりとする。

キャッシュレス化と両立 ポイント還元/端末補助


 消費増税対策の目玉では、経済産業省の「キャッシュレス・消費者還元事業」が挙げられる。キャッシュレス決済時のポイント還元やキャッシュレス端末の導入支援などをする。2798億円を盛り込んだ。

 ポイント還元では19年10月の増税後から9カ月間にわたり、中小の店舗では5%、大手系列のチェーン店では2%を消費者に還元する。増税に伴う負担感を軽減することで消費の冷え込みを防ぎ、景気の底割れを回避する。

 また中小企業・小規模事業者には端末の導入費用を全額補助。国が3分の2、決済事業者が3分の1をそれぞれ負担する。さらに決済事業者に支払う手数料も3分の1を補助する。会計の手間が減り、生産性の向上につながる点を訴えて導入を喚起する。

M&Aで事業承継を加速 ものづくり補助金50億円


 中小企業対策として、経産省・中小企業庁では、経営者の世代交代で廃業を防ぐ事業承継施策を加速する。18年度当初予算比5億円増の74億円を投じるほか、19年度は抜本拡充した法人向け事業承継税制に加え、個人事業主も集中的に支援する。

 特徴は再編や統合で新陳代謝を促すM&A(親族外承継)に重点を置いたことだ。全国に設置した「事業引継ぎ支援センター」などを通じ、相談窓口の強化やマッチング支援に力を入れる。

 生産性向上策では、設備投資を促す「ものづくり・商業・サービス高度連携促進事業(ものづくり補助金)」が目玉だ。従来の補正に加え、当初予算での実現で50億円を計上した。中小・小規模事業者が事業者間でデータ連携に参加して生産性を高めるプロジェクトなどを支援する。

防災・減災「待ったなし」 ハード・ソフト一体で推進


 政府は豪雨や台風、地震など頻発する激甚な自然災害を受け、防災・減災、国土強靱化のための3カ年緊急対策を20年度まで実施する。18年度2次補正予算案と合わせ国費約2兆4000億円のうち19年度に「臨時・特別の措置」として1兆3475億円を充てる。

 国土交通省の19年度一般会計予算は6兆8609億円。うち「待ったなしの重要課題」(石井啓一国交相)である防災・減災、国土強靱化のための緊急対策は7308億円を確保。ハード・ソフト両面の対策を推進する。

 ハード面では、河川の堤防強化や洪水氾濫の危険性が高い区間の樹木伐採・掘削をはじめ、道路や土砂災害を防止する道路のり面・盛土の整備、空港や港湾の電源設備の浸水対策などに取り組む。

 ソフト面ではハザードマップ(災害予測地図)など災害時に命を守る各種リスク情報の徹底周知のほか、外国人旅行者への情報提供を強化する。
(文=特別取材班)

私はこう見る


増税に備え景気下支え ニッセイ基礎研究所専務理事エグゼクティブ・フェロー 櫨(はじ)浩一氏

 今回の最大のポイントは消費増税に備え、これに対する対策をどれくらいやるかだ。前回の消費増税のときには景気がかなり停滞した。二の舞いにならないように潤沢に景気対策を打ったということだろう。ただ、今回の増税は前回に比べて引き上げ幅も小さいし、軽減税率も入る。やや「あつものに懲りて膾(なます)を吹く」的なところがある。

 100兆円の大台に乗ることは、これまで財政再建を打ち出してきたわけで、その目標から少し遠回りになる。遠回りは本当にやむを得なかったのか、事後的に歴史を見るしかない。

 社会保障費は高齢化が進むので切るのは難しい。社会保障制度全体をどうするかの議論がさらに必要だ。例えば年金の支給開始年齢を上げる代わりに、高齢者を働きやすくするなど、抜本的な対策が必要。自動的に増える社会保障費を効率化していくのは限界だろう。(談)

増税の成功体験が重要 大和総研常務取締役・チーフエコノミスト 熊谷亮丸氏

 全体として見ると、安倍政権の経済政策「アベノミクス」の効果などで税収は増えており、財政状況自体は緩やかに改善している。

 国民の将来不安は、「雇用」「教育の負担増加」「財政悪化」の三つが挙げられる。雇用は働き方改革、教育の負担増加は人づくり革命で対応できているが、財政規律の部分は不安な要素がある。

 とはいえ、今回はトランプ政権の迷走、英国の欧州連合(EU)離脱といった「2019年問題」を意識すると、グローバルでの下振れリスクがある。ある程度規模が膨らむのは仕方がないだろう。

 大盤振る舞いをして財政再建が遠のくという議論があるが、残念ながらいずれ消費税は10%を超える所まで上げざるを得ない。そうなると、増税の成功体験を作ることが重要だ。万全な対策で成功体験を作ることが中長期的な視点では大事だ。だが、中身はしっかりと検討する必要がある。(談)
日刊工業新聞2018年12月24日

編集部のおすすめ