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東芝だけじゃない!「ガバナンス・コード」は収益力の向上につながるのか

「『ビジネス・ジャッジメント・ルール』の明確化で挑戦しやすくなる」(池尾慶大教授)
東芝だけじゃない!「ガバナンス・コード」は収益力の向上につながるのか

池尾氏

 東京証券取引所は6月に「コーポレートガバナンス・コード」を制定し、企業統治力の強化を求めている。政府の有識者会議の座長として原案を策定した池尾和人慶応義塾大学教授に、東芝問題との関連を聞いた。

 ―東芝の問題を、どうみていますか。
 「経営と執行を分離し、モニタリング機能を果たすという前提条件は満たしていた。しかし取締役会に手足がなく、実を挙げられなかった。内部監査組織のオーナー(所管)は社長ではなく監査委員会でなければならない。日本では、この点が見過ごされている」

 「米国企業も過去に数多くの不祥事を起こし、それを克服する工夫をしてきた。日本の企業統治はまだ形だけだが、これからは機能する組織を作ることに焦点が移る」

 ―社外役員の増員だけでは不十分ですか?
 「一律でいいなら法で規定すればいい。『ガバナンス・コード』としたのは企業に工夫と努力を促すためだ。ある程度の時間はかかるだろう。米国だって昔の社外役員は最高経営責任者の友人ばかりだった。今は監査のプロを監査委員会の下に置く形になっている」

 ―監査のプロはコストがかさみますね。
 「惜しむべきコストと、そうでないものがある。極めて高潔な経営者が絶対の自信をもって企業運営をするなら監査は不要かも知れない。しかし、企業に対する社会の要求レベルは高くなっている。それに対応するコストは必要だ。残念なのは、不祥事の時ばかり企業統治に関心が集まることだ。本来は経営者を守る命綱のようなもの。もっと前向きにとらえるべきだ」

 ―政府は成長戦略の中で、企業統治の強化が収益力向上につながると言っています。それが事実なら企業も前向きになれます。
 「日本企業の収益力は海外と比較して劣るだけでなく、歴史的にも低下している。経営の戦略性欠如やトップの任期が短いことなどが理由だろう。元気な企業にはオーナー型が多いことも知られている。行動原理は企業価値の最大化のはずだが、多くの日本企業は“存続可能性の最大化”を目指している。だからリスクを取らない。そろそろ経営のやり方を見直すべきだ」

 「例えば経営陣が最善を尽くしたことを社外役員らが証言すれば、結果的に損失が出ても責任を問われない『ビジネス・ジャッジメント・ルール』を明確にしておけば、挑戦しやすくなる。そうしたこともガバナンス・コードの狙いだ」
 (聞き手=加藤正史)
日刊工業新聞2015年07月28日 1面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
東芝の第三者委員会の報告書で不正会計の背景として、「当期利益至上主義」ということを指摘している。いわばその1年、半期、四半期の利益にこだわすぎだと。経営者と投資家がいかに中長期の視点で企業価値を最大化していくことに認識を一致できるか。時間とコストは今以上にかかるかもしれないが、そこの塩梅を日本社会の中で見つけていかなければいけないだろう。

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