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国交省事務次官が答える、テクノロジーは過疎を救うのか?

国交省ウェブマガジン「Grasp」がスタート!
国交省事務次官が答える、テクノロジーは過疎を救うのか?

「東京とのギャップを解消したいと思い入省した」と森次官

 少子高齢化に伴う人手不足や疲弊が進む地域経済―。日本が直面するこれら構造的な問題を「テクノロジーは過疎を救うのか」をテーマに、さまざまな視点で掘り下げてきたシリーズ。最終章は、国土交通省の森昌文事務次官が語る技術革新が地域社会にもたらす可能性。そこから見えてくる未来社会の姿とは。

「東京が日本の成長をけん引」には辛辣


 ーまず東京一極集中と地方の過疎化の問題をどう捉えていますか。
 「東京一極集中は、個人や社会に過剰な負担を強いることで成り立っている事実をもっと多くの人に知ってもらいたい―。これが私の持論です。負担というと、生活コストの高さや長時間通勤といった側面ばかりに目を奪われがちですが、極端な人口過密や都市機能の集中は、インフラの整備や維持に地方の数百倍ものコストを要します。社会コストを増大させ財政を圧迫、国民負担として跳ね返ってくる。こうした視点からの議論があっていい。ですので、私は『東京が日本の成長をけん引するべきだ』といった論調に対してはかなり辛辣ですよ」

 ー地方移住に関わる施策にも携わっていたと伺っています。
 「課長補佐時代、90年代半ばでした。バブル経済がはじけて、東京暮らしに疲れた人も少なくなかったことから、私としては地方への人口流入のチャンスと意気込んでいたんですが、ブームは長続きしませんでした。移住しても職がない、安心して子育てできる環境が整っていないことが大きな理由です。しかし、あれから30年余り。状況は変わりつつあります」

 ー技術の進展ですか。
 「そうです。就労や生活環境が移住の前提条件であることは今も大きく変わっていませんが、技術革新によってもたらされる選択肢が格段に広がっていることが当時との大きな違いです。情報通信技術の進展は、テレワークやサテライトオフィスを活用した新たな働き方を可能にし、インターネットを通じて提供されるさまざまなサービスによって、地方に居住することは、もはや制約条件ではなくなりつつあります。ドローンや人工知能(AI)、さらには次世代の無線通信規格5Gの実用化は産業構造を一変させる可能性を秘めています。地方にとっては潜在的な力を発揮できる時代が到来したといえるでしょう」

 ー世に出るのが少し早かったと思わせる惜しいプロジェクトもあったそうですね。
 「これは独白のようなものなのですが(笑)。15年ほど前、愛知県豊田市で住民参加型のプロジェクトとして、トヨタ自動車にも協力頂いて、未来の車社会を具現化する事業に取り組みました。カーシェアリングやデマンドバスを活用することで、新たなライフスタイルや持続可能な地域社会を模索する試みでした。ただ、カーシェアリングを実践しようにも、現在のようにスマートフォンが普及していませんから担当者が手書きのリストを作成し電話で予約を受け付けるといった具合でした。しかし当時の発想は、いま実用化されているサービスにつながるものです。現在の技術を持ってすれば実現できたのにとの思いはあります」

「ダーウィンの海」を渡りきるまで行政が後押し


 ーこれまでのさまざまな経験から、今後、地方の問題にアプローチする上で重要な視点は何だと思いますか。
 「地域住民のニーズに耳を傾け、それに応える技術をいかに早く社会に普及させるかにあると思います。国交省は自ら技術開発を担い、しかもそれらを世界に売り込んでいくことができる省庁です。技術に対する感度を高めることはもちろんですが、開発された技術が実際に社会で広く利用されるようになるまでの橋渡しも私たちの重要な役割と考えています」

 「技術開発にはいくつかの障壁がありますが、いわゆる『死の谷』(開発ステージと事業化の間に存在する障壁)を超えるだけでなく、競争優位性を発揮してビジネスとして軌道に乗る、つまり『ダーウィンの海』を渡りきるまで行政として後押しする必要があると感じています。いかに革新的な技術やアイデアであっても、広く社会に普及させなければ、生かされません。昨今のビッグデータをめぐる議論もそうですが、一企業が独占するのではなく『新たな価値』を広く社会で有効活用するためのルールづくりに国は積極的に関わるべきです」

 ーこうして生み出された製品やサービスが地方の過疎化に対する「解」のひとつになると。
 「そうです。ただ、これらは技術開発に限った話です。交通システムのイノベーションにおいては、全く異なる視点でアプローチする必要があると考えています」

森事務次官インタビュー 後編はこちらから
<プロフィール>
もり・まさふみ 1959年奈良県生まれ。81年建設省入省。米国連邦運輸省道路庁、土木研究所ITS研究室長、近畿地方整備局長を経て、道路局長、技監を歴任。入省後に「交通需要」に関する論文で博士号を取るなど交通全般にも明るい。雑誌のインタビューで「道路はセクシーでなければいけない」と発言するなど型にはまらない人柄で、6万人規模という国交省の組織を統率する。リラックスする時に使う「お香」にも詳しい。
                   
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
国土交通省のウェブマガジン「Grasp」がスタート、日刊工業新聞は取材等でお手伝いしています。目玉の一つは、テーマごとに三人の識者にインタビューをしていく「トリ・アングル」。初回は「テクノロジーは過疎を救うのか?」で、森次官のほかに、かもめやの小野正人社長、大阪大学の石黒浩教授が登場しています。そちらもぜひお読み下さい。  

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