COP24カトヴィツェが示唆する次代の企業人へのヒント・前編
腰塚安菜(ニュースエディター)COP24からの報告
SDGsの目標13「気候変動に具体的な対策を」。この目標に対し、本気で取り組む「企業人」は、日本に一体どれほどいるだろうか—。2015年9月の国連「SDGs(持続可能な開発目標)」の採択で、各企業はその本業を通じてSDGsへの参画を宣言し、コミットメントを増やしてきた。しかし「目標13:気候変動に具体的な対策を」というテーマに限っては、政府やNGO、NPOセクターが中心の会議上の高度な議論に留まり、いち企業人が接点が持ちづらいのではないかという実感があった。今回、ポーランド・カトヴィツェで行われた国連気候変動枠組条約第24回締結国会議(COP24)に日本の企業人参加者の視点で参加、前編・後編2回にわたって、その様相をお伝えする。
2015年12月、フランス・パリのCOP21で採択された「パリ協定」。そのルールに基づき、国連・締結国間で気候変動対策の進捗確認を行うもの、それが政治的なCOP24の意義だ。
「1.5℃目標」の議論は、2018年10月の「IPCC特別報告」を経てポーランド・カトヴィツェのCOP24の舞台へ。今回はパリ協定実施指針(パリ・ルールブック)を採択するための重要なCOPと位置づけられている。
参加者は、主に国連、政府関係者である「PARTY」と、NGO・NPOの「OBSERVER」、そして各国からのプレスである。
2007年のCOP13から国際交渉の議論を追い、NGOの立場で分析や情報発信に携わり続けて来たNPO法人NGO気候ネットワークの伊与田昌慶氏はこう語る。「COPの扱う問題である『気候変動』は、そのステークホルダーが多岐にわたることから(自分が属している)環境NGOだけでなく、女性NGO、ユースNGO、ビジネスNGO、労働組合NGO、農家NGO、研究者NGO、先住民族NGOなどが各国から参加している。
京都議定書を採択したCOP3の参加者は約九千人程度だったが、近年のCOPは数万人が集まるほど大規模に。気候変動対策が、すべての国のすべての人に深刻な影響を与えるのと同時に、脱化石燃料・再エネ100%への転換がビジネスチャンスとして注目されているからだろう。 COP24へのメディア取材の数も、多い印象」
今回のホスト国、ポーランドの力の入れ方はもちろん大きく、森林への取り組みが一目で分かる木づくりのパビリオンで、市内公共交通のエコ・モビリティ化による排出抑制や「エミッション・フリー」なシティ構想、国産りんごの配布に至るまで、プレゼンを徹底している。
目を引いたのが、隣接する開催都市カトヴィツェのブースだ。 歴史的に国の主要産業であったが、大気汚染の原因や産業廃棄物として課題だったCOAL(黒い炭)をポジティブに転換する「Black to Green」のトランスフォーメーションの発想を、ブース全体で打ち出す。炭を活用し、市のシンボルマークのハートモチーフを施してコール・ジュエリーとして甦らせたプロダクツの展示、市内ツアーへの参加者の誘導や温かいコーヒーの提供などを行い、客足が途絶えなかった。
ジャパン・パビリオンにおけるサイドイベントは、ホストの多くが専門機関や研究者によるものだが、今年は複数企業によるプレゼンテーションも予定されている。「ジャパン」のユニークネスやパワーを打ち出すだけでなく、途上国支援や海洋問題、SDGsといった、世界共通の課題や目標を扱い、海外からも多くの参加者を集客していた。
国内各省、企業の気候変動対策への出展傾向と関心度について、 今回のCOP24で「潮目が変わった」と話したのは、ジャパン・パビリオンの運営・企画を担当する財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)戦略マネージメントオフィスコミュニケーション・共創担当ディレクターの大塚 隆志氏。「新しい市場が出来ることに早くから気付いていた環境行動先駆企業は、パリ協定以前から関心を高めていた」と企業の関心の高さを話した一方、「これがようやくスタート地点とも言える。(COP24の)”Changing Together”というスローガンが表すように、新たな参画企業も含めて(気候変動対策で)アイデアを持ち寄る時が来た」という見方も。
COP24前半戦、開催イベントの中で、何度も繰り返し発言されたのが「アダプテーション(適応)・コミュニケーション」という言葉だ。パリ協定上「適応」は「緩和」と並ぶ取り組みの柱として、また途上国支援の文脈でも大きな期待が込められており、前出のIGESでは「適応コミュニケーション」とパリ協定7条に設定された「適応のグローバル目標」が、今回のCOP24の大きな論点とにらむ。
「適応策」は、気候変動の影響に対する備えや軽減を目的とした自然や社会のあり方を調整する考え方で、排出抑制を目的とする「緩和策」と区別され、土木、住宅などライフスタイルに直接的に関わる事例が多い。
「適応ビジネス」に関して国内の情報源はまだ少ないが、最新ニュースや日本企業数十社の取り組みがまとめられた気候変動適応情報プラットフォーム「A-PLAT」や、経済産業省・三菱UFJモルガンスタンレー証券が昨年11月にまとめた「適応グッドプラクティス事例集」などの存在があり、今年も経済産業省により事例募集が始まっている。
条文上では「報告書の提出と定期的な更新」と定められている「アダプテーション(適応)・コミュニケーション」。この言葉の日本語の適訳は何かと模索しながらも、これから気候変動対策に着手するビジネスセクターの「新参者」の背中を押すヒントとなると確信した。
(前編「パリ協定」も世界の共通言語に)
腰塚 安菜(こしづか あんな)
1990年生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。在学期から商品の社会性に注目し、環境配慮型ライフスタイルを発信。(一社)ソーシャルプロダクツ普及推進協会主催「ソーシャルプロダクツ・アワード」審査員(2013~2018)。社会人ユースESDレポーター(平成28年度・平成29年度)として関東地区を中心に取材。日本環境ジャーナリストの会(JFEJ)所属員。主な取材フィールド:環境・社会、教育、文化多様性>
パリ協定実施指針採択へ重要なCOP
2015年12月、フランス・パリのCOP21で採択された「パリ協定」。そのルールに基づき、国連・締結国間で気候変動対策の進捗確認を行うもの、それが政治的なCOP24の意義だ。
「1.5℃目標」の議論は、2018年10月の「IPCC特別報告」を経てポーランド・カトヴィツェのCOP24の舞台へ。今回はパリ協定実施指針(パリ・ルールブック)を採択するための重要なCOPと位置づけられている。
参加者は、主に国連、政府関係者である「PARTY」と、NGO・NPOの「OBSERVER」、そして各国からのプレスである。
2007年のCOP13から国際交渉の議論を追い、NGOの立場で分析や情報発信に携わり続けて来たNPO法人NGO気候ネットワークの伊与田昌慶氏はこう語る。「COPの扱う問題である『気候変動』は、そのステークホルダーが多岐にわたることから(自分が属している)環境NGOだけでなく、女性NGO、ユースNGO、ビジネスNGO、労働組合NGO、農家NGO、研究者NGO、先住民族NGOなどが各国から参加している。
京都議定書を採択したCOP3の参加者は約九千人程度だったが、近年のCOPは数万人が集まるほど大規模に。気候変動対策が、すべての国のすべての人に深刻な影響を与えるのと同時に、脱化石燃料・再エネ100%への転換がビジネスチャンスとして注目されているからだろう。 COP24へのメディア取材の数も、多い印象」
各国がしのぎを削るパビリオン
今回のホスト国、ポーランドの力の入れ方はもちろん大きく、森林への取り組みが一目で分かる木づくりのパビリオンで、市内公共交通のエコ・モビリティ化による排出抑制や「エミッション・フリー」なシティ構想、国産りんごの配布に至るまで、プレゼンを徹底している。
目を引いたのが、隣接する開催都市カトヴィツェのブースだ。 歴史的に国の主要産業であったが、大気汚染の原因や産業廃棄物として課題だったCOAL(黒い炭)をポジティブに転換する「Black to Green」のトランスフォーメーションの発想を、ブース全体で打ち出す。炭を活用し、市のシンボルマークのハートモチーフを施してコール・ジュエリーとして甦らせたプロダクツの展示、市内ツアーへの参加者の誘導や温かいコーヒーの提供などを行い、客足が途絶えなかった。
ジャパン・パビリオンにおけるサイドイベントは、ホストの多くが専門機関や研究者によるものだが、今年は複数企業によるプレゼンテーションも予定されている。「ジャパン」のユニークネスやパワーを打ち出すだけでなく、途上国支援や海洋問題、SDGsといった、世界共通の課題や目標を扱い、海外からも多くの参加者を集客していた。
国内各省、企業の気候変動対策への出展傾向と関心度について、 今回のCOP24で「潮目が変わった」と話したのは、ジャパン・パビリオンの運営・企画を担当する財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)戦略マネージメントオフィスコミュニケーション・共創担当ディレクターの大塚 隆志氏。「新しい市場が出来ることに早くから気付いていた環境行動先駆企業は、パリ協定以前から関心を高めていた」と企業の関心の高さを話した一方、「これがようやくスタート地点とも言える。(COP24の)”Changing Together”というスローガンが表すように、新たな参画企業も含めて(気候変動対策で)アイデアを持ち寄る時が来た」という見方も。
期待度高まる「適応コミュニケーション」
COP24前半戦、開催イベントの中で、何度も繰り返し発言されたのが「アダプテーション(適応)・コミュニケーション」という言葉だ。パリ協定上「適応」は「緩和」と並ぶ取り組みの柱として、また途上国支援の文脈でも大きな期待が込められており、前出のIGESでは「適応コミュニケーション」とパリ協定7条に設定された「適応のグローバル目標」が、今回のCOP24の大きな論点とにらむ。
「適応策」は、気候変動の影響に対する備えや軽減を目的とした自然や社会のあり方を調整する考え方で、排出抑制を目的とする「緩和策」と区別され、土木、住宅などライフスタイルに直接的に関わる事例が多い。
「適応ビジネス」に関して国内の情報源はまだ少ないが、最新ニュースや日本企業数十社の取り組みがまとめられた気候変動適応情報プラットフォーム「A-PLAT」や、経済産業省・三菱UFJモルガンスタンレー証券が昨年11月にまとめた「適応グッドプラクティス事例集」などの存在があり、今年も経済産業省により事例募集が始まっている。
条文上では「報告書の提出と定期的な更新」と定められている「アダプテーション(適応)・コミュニケーション」。この言葉の日本語の適訳は何かと模索しながらも、これから気候変動対策に着手するビジネスセクターの「新参者」の背中を押すヒントとなると確信した。
(前編「パリ協定」も世界の共通言語に)
1990年生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。在学期から商品の社会性に注目し、環境配慮型ライフスタイルを発信。(一社)ソーシャルプロダクツ普及推進協会主催「ソーシャルプロダクツ・アワード」審査員(2013~2018)。社会人ユースESDレポーター(平成28年度・平成29年度)として関東地区を中心に取材。日本環境ジャーナリストの会(JFEJ)所属員。主な取材フィールド:環境・社会、教育、文化多様性>
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