パナソニック・津賀社長が大いに語る成長の道筋、中国“新本社”やテスラとの関係は?
個人の生活ステージに寄り添う“アップデート”が肝要だ
「パナソニックは暮らしアップデート業」―。家電以外の事業が広がった結果、見えにくくなった企業像について、津賀一宏社長が自問自答を重ねてたどり着いた答えだ。家電から住宅、業務用機器、自動車部品まで、世界で最も幅広いとされる事業領域を生かし、社会変化を支える企業を目指す。ただ、電機業界では、日立製作所やソニーのように事業の選択と集中を進めた企業の業績回復が目立つ。津賀社長が描くパナソニックの次の成長とは。
かつて家電といえば、機能が増えたり向上したりする「アップグレード」を追い求めてきた。今は、個人の生活ステージに寄り添う「アップデート(更新)」が肝要だと津賀社長は考える。一例として、若いころはスポーツカーを好んでも、環境が変われば、走行性能よりも所有のコストがかからない軽自動車に「更新」する人もいる。
「車のデザインや装備を良くするというアップグレードの考えでは、電気自動車(EV)や自動運転という潮流を語りにくくなった。EVでは電池コストが高いので、頻繁に使わないと所有する利点が薄れる。そうなると、車は所有からシェア(共有)が進むし、顧客が(車で)足を運ばなくてもモノが運ばれてくるかもしれない。このような時代には、アップデートの考えが適している」
家電と住宅設備を統合するプラットフォーム「ホームX(エックス)」を軸に、暮らしアップデート業を実現すると表明したパナソニック。広い事業領域があるからこそ、住空間のプラットフォーマーになれると考えている。
一方、パナソニックをはじめとして、総合電機メーカーの課題といえば、事業部をまたぐ横連携の不足。実際、意思決定の速い専業メーカーに負ける例も多い。 そんな中、パナソニックは2019年4月に中国で“新本社”を設立する。しがらみのない中国で横連携を実現したいという声が、すでに社内から相次ぐ。
「まず、家電と住宅で分けた社内カンパニーを中国で融合し、(環境都市の開発など)現地の需要を取り込む。次に、日本の各事業部にある、研究開発や知的財産管理などの機能を大胆に中国にも持たせるようにする。将来は、一部の事業では中国が本社機能として主導することもあり得る。こうした成功事例は、東南アジアやインド、もしくは日本に持ち込む。日本で成功しても、中国で成功できないのであれば、世界で成功できない。これらが、当社が中国にかける想いだ」
ソニーの業績躍進を支えているのは、スマートフォン向けの画像センサー。パナソニックでは、EV向けの車載電池がそれにあたる。特にEV大手の米テスラが17年秋に発売した人気車種「モデル3」がパナソニックの業績けん引役となる。
ただ、テスラはモデル3の量産に苦戦し、パナソニックの車載電池事業の業績不振を招いた。一方、テスラが18年7月から生産量を一気に増やすと、一転してパナソニックの電池供給量が足りなくなった。
「テスラはこれから事業が大きくなっていく。今は、日本にいる技術者らを現地(パナソニックとテスラが共同運営している「ギガファクトリー」)に派遣している。だが、今の事業部制の体制では、日本で電池やモノづくりに関する優れた技術を開発しても、実際のオペレーション力が弱ければ、収益が上がってこない。日本は万能ではなかった。現地化を進めて米国の会社のようになることで、テスラの協業を密にする」
19年3月期は営業利益率5.1%(18年3月期は同4.8%)を見込む。ただ、19年3月期に同10%を見通すソニーなどに対し、「物足りない」との声も。津賀社長は、「収益性だけで経営しているわけではない。世の中に役立つことが生業」と明言する一方、今の水準を「低い」とも認める。
「利益は企業価値と連動し、株価や配当にも影響するなど、いろんな意味で重要だ。我々にとって利益とは、社会変化に対応して投資をし、今後も当社が世の中に役立つためにお金を回すという面で特に重要だ。具体例を挙げると、当社は15年、(19年3月期までの4年間で)1兆円の戦略投資枠を設けた。これは通常投資とは別枠のものだ。当時はお金が回ったが、次も1兆円の投資枠を設けると宣言できるだけのお金が、今はない。この視点からも、利益率を上げていかなければならない」
フリーキャッシュフロー(純現金収支)でみると、パナソニックは約7500億円の当期赤字を出した13年3月期を含め、15年3月期までの3年間で約1兆2500億円のフリーキャッシュを捻出。これが1兆円の戦略投資枠の源泉となった。だが、16年3月期からは投資キャッシュフローが膨らみ、17年3月期と18年3月期はフリーキャッシュフローが2期連続赤字となった。
「当社はかつて、年間3000億円の設備投資額で経営を回していた。近年は車載電池事業が急激に伸びたので、プラスアルファ(追加)の投資が必要になった。ギガファクトリーでは、(本格稼働までの)3年間で2000数百億円を投資した。年間で1000億円の投資を車載電池に充てている。つまり、投資を1000億円上積みするだけのお金があれば、3年ごとにギガファクトリー級の工場を建てられる。こうした工場を1つ建てれば、数千億円の売上高と、それなりの利益が生まれる。当社は14年にヘルスケア事業を売却し、得たお金で、16年にショーケースメーカーの米ハスマンを買収した。こうした事業の入れ替えを含め、他社に負けないだけのお金を回していく」
日立製作所なども選択と集中を進め、営業利益率10%が射程圏内に入った。一方、パナソニックのように手広く事業展開する「コングロマリット経営」は、一般に利益率5%程度が多く、「稼ぐ力」が重視される時代において旗色が悪い。
「鉄道などのインフラのように、長期計画を要する事業に携わる企業に対し、(家電などを手がける)当社の方が、世の中の変化に対する身の変わりぶりは本来速いはずだ。では、なぜ変われないのかというと、お客さんが『パナソニックのテレビが必要なんだ』だとか、販売店から「テレビがなければ、他の商品を売りにくい」と言われたら、パナソニックが一方的に『もうからないんでやめます』とは言いづらい面があるからだ。ただ、テレビの販売量を無理に伸ばす必要もないので、『やめる』『やめない』という極端な判断はしなくても、(商品構成の見直しなど)全体的なバランスをとる」
(文=大阪・平岡乾)
“ホームX”軸に
かつて家電といえば、機能が増えたり向上したりする「アップグレード」を追い求めてきた。今は、個人の生活ステージに寄り添う「アップデート(更新)」が肝要だと津賀社長は考える。一例として、若いころはスポーツカーを好んでも、環境が変われば、走行性能よりも所有のコストがかからない軽自動車に「更新」する人もいる。
「車のデザインや装備を良くするというアップグレードの考えでは、電気自動車(EV)や自動運転という潮流を語りにくくなった。EVでは電池コストが高いので、頻繁に使わないと所有する利点が薄れる。そうなると、車は所有からシェア(共有)が進むし、顧客が(車で)足を運ばなくてもモノが運ばれてくるかもしれない。このような時代には、アップデートの考えが適している」
家電と住宅設備を統合するプラットフォーム「ホームX(エックス)」を軸に、暮らしアップデート業を実現すると表明したパナソニック。広い事業領域があるからこそ、住空間のプラットフォーマーになれると考えている。
横連携不足をどう解消?
一方、パナソニックをはじめとして、総合電機メーカーの課題といえば、事業部をまたぐ横連携の不足。実際、意思決定の速い専業メーカーに負ける例も多い。 そんな中、パナソニックは2019年4月に中国で“新本社”を設立する。しがらみのない中国で横連携を実現したいという声が、すでに社内から相次ぐ。
「まず、家電と住宅で分けた社内カンパニーを中国で融合し、(環境都市の開発など)現地の需要を取り込む。次に、日本の各事業部にある、研究開発や知的財産管理などの機能を大胆に中国にも持たせるようにする。将来は、一部の事業では中国が本社機能として主導することもあり得る。こうした成功事例は、東南アジアやインド、もしくは日本に持ち込む。日本で成功しても、中国で成功できないのであれば、世界で成功できない。これらが、当社が中国にかける想いだ」
ソニーの業績躍進を支えているのは、スマートフォン向けの画像センサー。パナソニックでは、EV向けの車載電池がそれにあたる。特にEV大手の米テスラが17年秋に発売した人気車種「モデル3」がパナソニックの業績けん引役となる。
ただ、テスラはモデル3の量産に苦戦し、パナソニックの車載電池事業の業績不振を招いた。一方、テスラが18年7月から生産量を一気に増やすと、一転してパナソニックの電池供給量が足りなくなった。
「テスラはこれから事業が大きくなっていく。今は、日本にいる技術者らを現地(パナソニックとテスラが共同運営している「ギガファクトリー」)に派遣している。だが、今の事業部制の体制では、日本で電池やモノづくりに関する優れた技術を開発しても、実際のオペレーション力が弱ければ、収益が上がってこない。日本は万能ではなかった。現地化を進めて米国の会社のようになることで、テスラの協業を密にする」
ソニーなどに対し「物足りない」の声も
19年3月期は営業利益率5.1%(18年3月期は同4.8%)を見込む。ただ、19年3月期に同10%を見通すソニーなどに対し、「物足りない」との声も。津賀社長は、「収益性だけで経営しているわけではない。世の中に役立つことが生業」と明言する一方、今の水準を「低い」とも認める。
「利益は企業価値と連動し、株価や配当にも影響するなど、いろんな意味で重要だ。我々にとって利益とは、社会変化に対応して投資をし、今後も当社が世の中に役立つためにお金を回すという面で特に重要だ。具体例を挙げると、当社は15年、(19年3月期までの4年間で)1兆円の戦略投資枠を設けた。これは通常投資とは別枠のものだ。当時はお金が回ったが、次も1兆円の投資枠を設けると宣言できるだけのお金が、今はない。この視点からも、利益率を上げていかなければならない」
フリーキャッシュフロー(純現金収支)でみると、パナソニックは約7500億円の当期赤字を出した13年3月期を含め、15年3月期までの3年間で約1兆2500億円のフリーキャッシュを捻出。これが1兆円の戦略投資枠の源泉となった。だが、16年3月期からは投資キャッシュフローが膨らみ、17年3月期と18年3月期はフリーキャッシュフローが2期連続赤字となった。
「当社はかつて、年間3000億円の設備投資額で経営を回していた。近年は車載電池事業が急激に伸びたので、プラスアルファ(追加)の投資が必要になった。ギガファクトリーでは、(本格稼働までの)3年間で2000数百億円を投資した。年間で1000億円の投資を車載電池に充てている。つまり、投資を1000億円上積みするだけのお金があれば、3年ごとにギガファクトリー級の工場を建てられる。こうした工場を1つ建てれば、数千億円の売上高と、それなりの利益が生まれる。当社は14年にヘルスケア事業を売却し、得たお金で、16年にショーケースメーカーの米ハスマンを買収した。こうした事業の入れ替えを含め、他社に負けないだけのお金を回していく」
日立製作所なども選択と集中を進め、営業利益率10%が射程圏内に入った。一方、パナソニックのように手広く事業展開する「コングロマリット経営」は、一般に利益率5%程度が多く、「稼ぐ力」が重視される時代において旗色が悪い。
「鉄道などのインフラのように、長期計画を要する事業に携わる企業に対し、(家電などを手がける)当社の方が、世の中の変化に対する身の変わりぶりは本来速いはずだ。では、なぜ変われないのかというと、お客さんが『パナソニックのテレビが必要なんだ』だとか、販売店から「テレビがなければ、他の商品を売りにくい」と言われたら、パナソニックが一方的に『もうからないんでやめます』とは言いづらい面があるからだ。ただ、テレビの販売量を無理に伸ばす必要もないので、『やめる』『やめない』という極端な判断はしなくても、(商品構成の見直しなど)全体的なバランスをとる」
(文=大阪・平岡乾)
日刊工業新聞2018年11月26日の記事を大幅に加筆・修正