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宇宙ビジネス活況も・・・人工衛星の“衝突”リスクは無視できない

政府は法的、経済的観点から補償に関する検討を進めている
 大手やベンチャーなどが宇宙ビジネスに参入する中、新たな問題が生じている。地球周回軌道上での人工衛星が増加し、衛星同士の衝突事故の可能性を無視できなくなった。政府は補償に関して法目的や経済的な観点などから検討を進めている。宇宙ビジネス拡大のため、国内の法整備の検討が急がれる。

物体数増加


 軌道上で多くの人工衛星を配備する企業や、それらの衛星を修理するサービスなどが現れ、軌道上の物体数が増えている。そのため人工衛星同士の衝突が起きた際の補償のあり方を検討する必要が出てきた。だが、人工衛星の運用事業者からは「軌道上での人工衛星同士の衝突確率は低い」とする意見も多い。英国やフランスでは一定の政府補償の制度を導入している。米国では軌道上政府補償制度への産業界のニーズはそれほど高くなく、政府内での検討はない状況だ。

 内閣府宇宙政策委員会の小委員会は11月、人工衛星の軌道上での第三者損害に対する政府補償のあり方に関するたたき台を示した。

 被害者救済の観点では、軌道上の人工衛星同士の衝突事故に関して一般市民への被害はほぼ考えられない。そのため委員からは「加害者の責任の一部を国が肩代わりすることに正当性が認められないのではないか」という意見が出された。一方、「軌道上の損害は宇宙空間の人類の活動を阻害し『宇宙の環境問題』である」とする意見もあり、政府補償の可能性もあるとした。

民間保険も


 民間保険の対応の可能性も俎上(そじょう)にのぼった。人工衛星の衝突事故での運用事業者の最大損害額は数百億円以下とされる。その損害額を上回る填補限度額の第三者損害賠償責任(TPL)保険は市場で手配できるという。

 一方、軌道上政府補償制度でTPL保険の加入義務付けを前提にすることには慎重な姿勢を示す。事業者の保険料負担に関して、数百億円をカバーするためのTPL保険の保険料は100キログラムの小型衛星1機で年間数百万円程度と試算。小委員会が行った企業へのヒアリングでは「保険設計次第ではあるが、TPL保険の保険料負担はビジネス展開の支障となりうる」(宇宙ベンチャーのアクセルスペース)との意見があった。多くの企業は発生確率が低い損害の見込みに年間数百万円の保険料を支払うことには反対で、義務付けに関しては弊害も考慮する必要があるとした。

 地球観測や宇宙ゴミ除去など人工衛星を利用したベンチャーの動きが活発化している。政府として宇宙ビジネスを育てる議論の行方が注目される。
(文=冨井哲雄)
          
日刊工業新聞2018年11月29日

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