三菱自、アライアンス逆風下で挑む開発体制拡充
日産出身の山下副社長「アライアンスの土台しっかりしてる」
三菱自動車は研究開発体制の拡充に乗り出す。今後10年間で開発部門の人員を現状の約5500人から2―3割以上を増やす。すでに増員に対応して、2018年10月までに新オフィスや環境試験棟を増設した。新拠点の設置に合わせて働き方改革を進めることで、新たな企業文化や就業環境の構築に着手した。16年に燃費不正の問題があった同部門だが、開発体制の再構築が進み、復活を遂げている。
三菱自は27日、報道陣に技術センター(愛知県岡崎市)内に新設した開発本館を公開した。増員による既存施設の狭小化と多様な働き方に対応した新オフィスと位置づける。従業員のアンケートをオフィス設計に生かし、技術革新やひらめきを促し、会議に適したブースや個室を用意した。すでに稼働し、2000人が入居できる。開発・品質担当の山下光彦副社長は「過去の過ちから学び、新しい企業文化や就業環境を整える」と強調した。
三菱自の開発部門はかつて燃費不正問題の温床となった場所でもある。これまで開発部門の風土改革や再発防止の徹底が大きな課題と掲げてきた。当時社内調査を進め、順法意識の欠如や風通しの悪い組織、人材の長期固定化の改革など課題解決に取り組んできたのが山下副社長だ。日産自動車から開発担当の副社長として山下氏が登用され、日産流を浸透させた。山下副社長は当時、「開発部門は組織、仕組み、文化の3要素が大事」としており、開発の仕組みを抜本的に変えた。
ただ三菱自は、開発資源の不足が不正問題の根本原因だとする指摘があった。実際に社内調査でも09年からエコカー減税に対応するため燃費目標が設定され、開発現場の負担が増加したが、人員配置など開発部門のマネジメントが十分できていなかったと振り返っていた。そのため新オフィスでは開発現場の従業員に沿ったオフィスを意識し、従業員の離職防止と人員増に対応する。
三菱自は19年度から仏ルノーと日産自動車を含む3社連合で研究・開発分野の機能統合を本格化させる見込みだ。すでに連合の購買、品質、事業開発の機能に参画しており、売上高と支出の最適化や技術・リソースの共有を検討し、18年4月に機能を統合した。足元ではカルロス・ゴーン容疑者が金融商品取引法(金商法)違反の疑いで逮捕されたことで、連合の関係に不透明感が漂う。だが、山下副社長は「アイアランスの土台がしっかりしているのでうまくやれるだろう」としている。
三菱自動車が日産自動車や仏ルノーとの連合関係の崩壊シナリオに警戒感を強めている。提携する3社連合の中で三菱自は最も規模が小さく、連合関係が崩れた場合の影響が大きい。3社は提携関係の維持を強調するものの、カルロス・ゴーン容疑者の会長職解任をめぐっては判断が分かれるなど“不協和音”が響いている。今後、日産が求めるルノーとの資本関係の見直しなどを融和的に進めることができるか、三菱自にとっても大きな課題となりそうだ。(渡辺光太)
「連合の中で、三菱自らしさを考え追求したい」―。26日に開かれた取締役会後、報道陣の取材に応じた益子修最高経営責任者(CEO)が繰り返し語った言葉だ。これまでも連合内で取り組みの重複を避けつつ、いかに自社の特徴を引き出すかは三菱自にとって重要なテーマだった。
三菱自が日産と資本関係を結んだのは、燃費不正問題の影響で販売台数が落ち込み、当期赤字に転落していた2016年だ。連合加入後は役割を分担しつつ購買や生産、技術開発など幅広い分野で協業を進め、連合への順応を腐心してきた。特に三菱商事と築き上げた東南アジア地域の事業基盤は連合内でも期待が大きい。ゴーン容疑者も「(三菱自の加入により)東南アジア市場のシェア拡大が可能だ」と同社の強みを認めていた。
一方、グローバル競争が激しさを増す中で企業規模に応じて車種の統廃合や、欧米工場を撤退した。連合と工場の共用化なども進めたことで依存度が増し、協業は後戻りできない関係となった。業界関係者からは「連合の力を最も必要としているのは三菱自だ」との声が漏れる。
今回、ゴーン容疑者の会長職を解任したことで、いったんは日産と歩調を合わせた格好となる。だが日産がルノーや仏政府と対立する可能性があり、連合の解消などに発展すれば三菱自が甚大な影響を受けるのは必須だ。週内にも3社で会談が開かれる予定だが、“三菱自らしさ”を残しつつ連合関係の維持に貢献できるか、同社の役割が問われる。
(文=渡辺光太)
三菱自は27日、報道陣に技術センター(愛知県岡崎市)内に新設した開発本館を公開した。増員による既存施設の狭小化と多様な働き方に対応した新オフィスと位置づける。従業員のアンケートをオフィス設計に生かし、技術革新やひらめきを促し、会議に適したブースや個室を用意した。すでに稼働し、2000人が入居できる。開発・品質担当の山下光彦副社長は「過去の過ちから学び、新しい企業文化や就業環境を整える」と強調した。
三菱自の開発部門はかつて燃費不正問題の温床となった場所でもある。これまで開発部門の風土改革や再発防止の徹底が大きな課題と掲げてきた。当時社内調査を進め、順法意識の欠如や風通しの悪い組織、人材の長期固定化の改革など課題解決に取り組んできたのが山下副社長だ。日産自動車から開発担当の副社長として山下氏が登用され、日産流を浸透させた。山下副社長は当時、「開発部門は組織、仕組み、文化の3要素が大事」としており、開発の仕組みを抜本的に変えた。
ただ三菱自は、開発資源の不足が不正問題の根本原因だとする指摘があった。実際に社内調査でも09年からエコカー減税に対応するため燃費目標が設定され、開発現場の負担が増加したが、人員配置など開発部門のマネジメントが十分できていなかったと振り返っていた。そのため新オフィスでは開発現場の従業員に沿ったオフィスを意識し、従業員の離職防止と人員増に対応する。
三菱自は19年度から仏ルノーと日産自動車を含む3社連合で研究・開発分野の機能統合を本格化させる見込みだ。すでに連合の購買、品質、事業開発の機能に参画しており、売上高と支出の最適化や技術・リソースの共有を検討し、18年4月に機能を統合した。足元ではカルロス・ゴーン容疑者が金融商品取引法(金商法)違反の疑いで逮捕されたことで、連合の関係に不透明感が漂う。だが、山下副社長は「アイアランスの土台がしっかりしているのでうまくやれるだろう」としている。
連合崩壊に警戒
三菱自動車が日産自動車や仏ルノーとの連合関係の崩壊シナリオに警戒感を強めている。提携する3社連合の中で三菱自は最も規模が小さく、連合関係が崩れた場合の影響が大きい。3社は提携関係の維持を強調するものの、カルロス・ゴーン容疑者の会長職解任をめぐっては判断が分かれるなど“不協和音”が響いている。今後、日産が求めるルノーとの資本関係の見直しなどを融和的に進めることができるか、三菱自にとっても大きな課題となりそうだ。(渡辺光太)
「連合の中で、三菱自らしさを考え追求したい」―。26日に開かれた取締役会後、報道陣の取材に応じた益子修最高経営責任者(CEO)が繰り返し語った言葉だ。これまでも連合内で取り組みの重複を避けつつ、いかに自社の特徴を引き出すかは三菱自にとって重要なテーマだった。
三菱自が日産と資本関係を結んだのは、燃費不正問題の影響で販売台数が落ち込み、当期赤字に転落していた2016年だ。連合加入後は役割を分担しつつ購買や生産、技術開発など幅広い分野で協業を進め、連合への順応を腐心してきた。特に三菱商事と築き上げた東南アジア地域の事業基盤は連合内でも期待が大きい。ゴーン容疑者も「(三菱自の加入により)東南アジア市場のシェア拡大が可能だ」と同社の強みを認めていた。
一方、グローバル競争が激しさを増す中で企業規模に応じて車種の統廃合や、欧米工場を撤退した。連合と工場の共用化なども進めたことで依存度が増し、協業は後戻りできない関係となった。業界関係者からは「連合の力を最も必要としているのは三菱自だ」との声が漏れる。
今回、ゴーン容疑者の会長職を解任したことで、いったんは日産と歩調を合わせた格好となる。だが日産がルノーや仏政府と対立する可能性があり、連合の解消などに発展すれば三菱自が甚大な影響を受けるのは必須だ。週内にも3社で会談が開かれる予定だが、“三菱自らしさ”を残しつつ連合関係の維持に貢献できるか、同社の役割が問われる。
(文=渡辺光太)
日刊工業新聞 2018年11月28日