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英国はどこまで人を追い続けるのか。“監視カメラ大国”の最新事情(中編)

文=小泉雄介 画像利用の通知手段が重要
英国はどこまで人を追い続けるのか。“監視カメラ大国”の最新事情(中編)

ロンドンの監視カメラ掲示板

 顔認識技術の一つに属性推定がある。撮影した顔画像からその人物の年代や性別といった属性を推定する処理のことである。日本でも電子看板や自販機などで一部導入がなされている。通常、顔画像から属性推定処理を行ったら直ちに元の画像は削除するが、一時的な顔画像の保持が法律上の個人情報の取得に当たるか否かは議論のあるところである。

 英国調査においては二つの監督機関で見解が分かれた。情報コミッショナーオフィス(ICO)の見解では、たとえ一時的な画像の保持であって直ちに削除したとしても個人情報の取得に当たる。他方、監視カメラコミッショナー(SCC)の見解は、属性推定という全体のプロセスの中から一部のみを切り出すことは適切でなく、このような一時的な画像保持は個人情報の取得に当たらないというものであった。

 【第三者提供】
  英国では自治体や公共交通機関、小売店舗などが監視カメラ設置主体となっている。こうしたカメラ管理者から警察等の法執行機関への画像提供は日常的に行われているという。英国データ保護法の下では個人情報の第三者提供にあたって本人同意を取ることが原則であるが、幾つかの適用除外分野があり、犯罪予防・捜査や起訴の目的であれば提供が可能である。この場合、一般的に裁判所の令状は不要だが、警察が特定容疑者の画像を管理者に要求するような場合には特に令状が必要となる。

 このような防犯目的以外に、オリンピック時のテロ対策などの国家安全保障目的もデータ保護法の適用除外分野となっている。ただし、この場合、画像の第三者提供に当たり国務大臣の証明書が必要である。

 監視カメラによる画像の撮影・取得は本人の意思と関わりなく強制的に行われるものであるため、取得される画像の利用目的について、被撮影者にきちんと通知する手段が重要となる。英国ではウェブサイトへの公表だけではNGであり、ICOの行動規範では現地の掲示板において管理者名称、利用目的、連絡先を告知することが規定されている。

 【開示請求】
 管理者にとって厄介なのはカメラ画像の開示請求である。データ保護法の下では、個人は自分の個人情報について管理者に開示請求する権利を持つ。請求に当たり、個人は写真を含む本人確認情報の提出が必要である。ロンドン地下鉄では、請求者は申請書に撮影日時・服装・開示を希望するシーン・請求目的等を記入し、本人の写真、身分証の写し等を添付するとのことである。開示手数料は10ポンド(約1900円)かかるが、1カ月平均8件の請求があり、保険金請求といった目的から、地下鉄の乗車記念目的で求める人までいるとのことである。
 文=国際社会経済研究所主任研究員(NECグループ)小泉雄介氏
 (後編は8月7日に公開予定)
 ※毎週金曜日に日刊工業新聞で「ICT世界の潮流」を連載中
日刊工業新聞2015年07月31日 電機・電子部品・情報・通信面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
日本も監視カメラが確実に増えている。いずれ英国のような状況になる可能性が高い。個人情報の許容範囲は、単なる法的な問題だけでなく、国や社会の中である程度の期間をかけ、慣習のようなものが形成されることが必要で、早めに議論や実証を始めなければいけない。

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