“いびつな提携”改善へ日産の執念。ルノーと「対等な関係」に2つのシナリオ
誰がどう見ても不健全でアンバランスだ」
22日の取締役会で、カルロス・ゴーン容疑者の会長と代表取締役の職を解いた日産自動車。今回の解任劇は日産の内部調査での不正発覚がきっかけだが、仏ルノーの筆頭株主でルノーと日産の統合をもくろむ仏政府と、独立を堅持したい日産との対立が背景にあった。ただ、解任後も実力で勝る日産をルノーが資本の論理で支配するいびつな構造は解消しない。この関係を見直し、3社連合は進化できるか。“ポスト・ゴーン”の最大の焦点だ。
日産、ルノー連合が成功した秘訣(ひけつ)は両社の対等な関係であり、ゴーン容疑者はその守護神だった。ルノーは日産に43・4%出資し、資本の論理では強い立場にあるが、ゴーン容疑者の強力なリーダーシップで両社は独立性を維持。そこに三菱自も加わり、17年度のシナジー効果はコスト削減などで、前年度比14%増の57億ユーロ(約7300億円)と過去最高に達した。
一方、仏政府は15年春、株式を2年以上保有する株主の議決権を2倍にする「フロランジュ法」をテコに、ルノーを通じ日産の経営に関与する姿勢をみせた。日産が仏国内の雇用対策などに有利な経営判断を下すように仕向けるためだ。
この時に盾となったのは他ならぬゴーン容疑者だ。日産保有のルノー株の比率を15%から25%以上に引き上げれば、ルノーが持つ日産への議決権が消滅する日本の会社法をちらつかせ、仏政府を退けた。
ただ、ルノーがCEO続投を決めて発表した今年2月以降、ゴーン容疑者は変節した。続投をめぐっては仏政府が深く関与し、一時はゴーン容疑者の退任観測まで出た。最終的に仏政府は、ルノー・日産の提携を後戻りできない「不可逆な関係」にすることを求め、これにゴーン容疑者が同意したことで、CEO続投が決まったとされる。
日産とルノーの経営統合を実現して仏政府を抑え込み、その後、3社連合トップとして長期政権を築く―。ゴーン容疑者は「こんな野望を抱いていた」と中西孝樹ナカニシ自動車産業リサーチ代表は見立てる。
経営統合の動きが表面化すると、日産は激しく反発した。99年の資本提携当時はルノーが日産を救済したが、今は状況は様変わりした。
17年の世界販売台数は日産の581万台に対し、ルノーは376万台に留まる。日産は米中など成長市場で足場を築いた上、電気自動車(EV)技術にもたけており、実力としては上にいる。日産としては、不利益を被りかねない仏政府主導の経営統合など到底飲めない。
19日夜の会見。西川社長はゴーン容疑者逮捕について「内部調査の結果、不正が見つかり、それを除去するということ」と淡々と語った。しかし記者から「日産のクーデター」と指摘され、否定する場面もあった。ゴーン容疑者の排除は、経営統合を強引に進めようとしたことへの対抗という意味合いもあるとの見方が日産社内外で広がる。
ゴーン容疑者が「対等関係の守護神」の役割から降りた途端に3社連合が揺らぎ出したことは、いびつな関係の上に成り立つ連合の限界を浮き彫りにした。ゴーン容疑者が去っても日産がルノーに支配される構造は変わらない。日産幹部は「今の関係はフェアではない」と漏らす。日産と取引する部品メーカー幹部も、「誰がどう見ても不健全でアンバランスだ」と断じる。
日産が揺るぎない独立性を獲得するには、資本面でも対等な関係を構築することが重要だ。その手法は大きく二つある。
一つ目は日本の会社法に則り、日産が保有するルノー株の比率を15%から25%以上に引き上げ、ルノーが持つ日産への議決権を消滅させる手法。15年は、この手法をちらつかせ、仏政府による日産の経営介入の動きを封じ込めに成功した。次は実力行使に入るということだ。
二つ目は日産が増資し、ルノーが保有する日産株式を希薄化する手法。ルノーの出資を3割未満まで引き下れば、重要事項の拒否権が消滅し、日産の経営への影響力を大幅にそぐことができる。
「日産にチャンスが巡ってきた」と車業界関係者はみる。ゴーン容疑者と、側近のグレッグ・ケリー容疑者が逮捕され、日産取締役会のパワーバランスは“独立派”に振れているとみられる。ルノーへの出資引き上げ、増資ともに決議する余地はできた。
ただ「まずは仏政府・ルノーとの話し合いが必要」と安東泰志ニューホライズンキャピタル会長は指摘する。日産が強引に独立を進めれば、仏政府・ルノーの反発は必至。増資を選択した場合、実施の正当性を巡って訴訟に発展するリスクもある。3社連合が根本から瓦解しかねない。
すでに日産、ルノーは研究開発や生産技術・物流、購買といった機能統合を実施。そこに三菱自も加わり、3社連合の結びつきは強い。今後、「CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)」と呼ぶ新潮流への対応で研究開発費が急増する中、3社連合の維持は大前提となる。
日産、ルノー連合が成功した秘訣(ひけつ)は両社の対等な関係であり、ゴーン容疑者はその守護神だった。ルノーは日産に43・4%出資し、資本の論理では強い立場にあるが、ゴーン容疑者の強力なリーダーシップで両社は独立性を維持。そこに三菱自も加わり、17年度のシナジー効果はコスト削減などで、前年度比14%増の57億ユーロ(約7300億円)と過去最高に達した。
一方、仏政府は15年春、株式を2年以上保有する株主の議決権を2倍にする「フロランジュ法」をテコに、ルノーを通じ日産の経営に関与する姿勢をみせた。日産が仏国内の雇用対策などに有利な経営判断を下すように仕向けるためだ。
この時に盾となったのは他ならぬゴーン容疑者だ。日産保有のルノー株の比率を15%から25%以上に引き上げれば、ルノーが持つ日産への議決権が消滅する日本の会社法をちらつかせ、仏政府を退けた。
ただ、ルノーがCEO続投を決めて発表した今年2月以降、ゴーン容疑者は変節した。続投をめぐっては仏政府が深く関与し、一時はゴーン容疑者の退任観測まで出た。最終的に仏政府は、ルノー・日産の提携を後戻りできない「不可逆な関係」にすることを求め、これにゴーン容疑者が同意したことで、CEO続投が決まったとされる。
日産とルノーの経営統合を実現して仏政府を抑え込み、その後、3社連合トップとして長期政権を築く―。ゴーン容疑者は「こんな野望を抱いていた」と中西孝樹ナカニシ自動車産業リサーチ代表は見立てる。
日産不満「フェアではない」
経営統合の動きが表面化すると、日産は激しく反発した。99年の資本提携当時はルノーが日産を救済したが、今は状況は様変わりした。
17年の世界販売台数は日産の581万台に対し、ルノーは376万台に留まる。日産は米中など成長市場で足場を築いた上、電気自動車(EV)技術にもたけており、実力としては上にいる。日産としては、不利益を被りかねない仏政府主導の経営統合など到底飲めない。
19日夜の会見。西川社長はゴーン容疑者逮捕について「内部調査の結果、不正が見つかり、それを除去するということ」と淡々と語った。しかし記者から「日産のクーデター」と指摘され、否定する場面もあった。ゴーン容疑者の排除は、経営統合を強引に進めようとしたことへの対抗という意味合いもあるとの見方が日産社内外で広がる。
ゴーン容疑者が「対等関係の守護神」の役割から降りた途端に3社連合が揺らぎ出したことは、いびつな関係の上に成り立つ連合の限界を浮き彫りにした。ゴーン容疑者が去っても日産がルノーに支配される構造は変わらない。日産幹部は「今の関係はフェアではない」と漏らす。日産と取引する部品メーカー幹部も、「誰がどう見ても不健全でアンバランスだ」と断じる。
2つのシナリオ 「チャンス巡ってきた」
日産が揺るぎない独立性を獲得するには、資本面でも対等な関係を構築することが重要だ。その手法は大きく二つある。
一つ目は日本の会社法に則り、日産が保有するルノー株の比率を15%から25%以上に引き上げ、ルノーが持つ日産への議決権を消滅させる手法。15年は、この手法をちらつかせ、仏政府による日産の経営介入の動きを封じ込めに成功した。次は実力行使に入るということだ。
二つ目は日産が増資し、ルノーが保有する日産株式を希薄化する手法。ルノーの出資を3割未満まで引き下れば、重要事項の拒否権が消滅し、日産の経営への影響力を大幅にそぐことができる。
「日産にチャンスが巡ってきた」と車業界関係者はみる。ゴーン容疑者と、側近のグレッグ・ケリー容疑者が逮捕され、日産取締役会のパワーバランスは“独立派”に振れているとみられる。ルノーへの出資引き上げ、増資ともに決議する余地はできた。
ただ「まずは仏政府・ルノーとの話し合いが必要」と安東泰志ニューホライズンキャピタル会長は指摘する。日産が強引に独立を進めれば、仏政府・ルノーの反発は必至。増資を選択した場合、実施の正当性を巡って訴訟に発展するリスクもある。3社連合が根本から瓦解しかねない。
すでに日産、ルノーは研究開発や生産技術・物流、購買といった機能統合を実施。そこに三菱自も加わり、3社連合の結びつきは強い。今後、「CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)」と呼ぶ新潮流への対応で研究開発費が急増する中、3社連合の維持は大前提となる。
日刊工業新聞2018年11月23日