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医薬品が流通改善へ正念場、試されるガイドラインの実効性

厚労省が4月に運用を開始
医薬品が流通改善へ正念場、試されるガイドラインの実効性

医薬品卸は安定供給のため物流にもコストをかける(メディパルHD傘下の拠点)

 厚生労働省が4月に運用を始めた、「医療用医薬品の流通改善に向けて流通関係者が順守すべきガイドライン(流通改善GL)」の実効性向上が試されている。医薬品卸は同GLに基づく活動を推進することで医療機関との納入価格交渉が適正化され、利益の押し上げにつながる事例が出てきた。一方、調剤薬局の収益性が4月の調剤報酬改定で悪化しているといった状況もあり、今後も交渉が円滑に進むかは予断を許さない。流通改善の加速に向け、メーカーも含めた多様な関係者の努力が問われ続ける。

 「今年、(昨年までと)一番違うのは、流通改善GLが示され、国が関与するとの文言が入ったこと。(自社は)安定的に薬価制度が維持できるよう動いており、お得意先にご理解頂く活動が下期も続く」。医薬品卸大手メディパルホールディングス(HD)の長福恭弘専務は、2018年度下半期における納入価格交渉の見通しを問われてこう述べた。

 卸各社の医療用医薬品卸売事業は堅調に推移している。メディパルは18年4―9月期の同事業が薬価改定の影響を受けて減収となったものの、営業利益は増益を確保。19年3月期の同事業も減収営業増益を見込む。アルフレッサHDは18年4―9月期の同事業が増収営業増益。要因として、流通改善GLに基づいて単品単価契約を推進した点を挙げた。

 医薬品流通には「総価山買い」と呼ばれる慣習がある。単品ごとに仕入れ値を決めるのではなく、医療機関が購入する全品目を薬価基準で算出し、“ひと山いくら”で割引率や取引価格を決める方法だ。これは個々の医薬品の価値を無視した値引き交渉となり、卸業者の経営や安定供給体制に影響を及ぼすと考えられてきた。また、薬価改定は市場実勢価格を基に行われるが、総価山買いがまかり通ると個別品目の実勢価の把握が困難になる。

 こうした状況を問題視する厚労省は、21年度から薬価の毎年改定を行う点も勘案し、18年1月に医政局長と保険局長の連名で流通改善GLを発出。「今後は国が主導し、流通改善の取り組みを加速する」とうたった。日本製薬団体連合会の手代木功会長(塩野義製薬社長)は「連名は、ほとんど見たことがない。本気でやらなければいけない、と強調頂いた」と振り返る。

 ただ、卸の納入価格交渉が今後も順調に進むとは限らない。例えば調剤薬局は、4月に行われた調剤報酬改定の影響に苦しんでいる。大手の日本調剤やクオールHDは、両社ともに19年3月期連結決算の営業利益が2ケタ減になる見通しだ。

 流通改善GLがある以上、堂々と総価山買いを要求するような調剤薬局は少ないとみられる。ただ、収益確保の観点から卸との交渉で容易に妥協しない事例も想定される。アルフレッサHDの増永孝一副社長は、「(18年度の)上期は一応決めるが下期はもう一回交渉する、という取引先はあると聞いている。卸各社が増益になりそうなので悔しいから再交渉しよう、とする得意先も出るかもしれない」と気をもむ。

 製薬企業の姿勢も問われる。厚労省医政局の三浦明経済課長は、5月時点で流通改善GLに関する対応を調べたところ、「川上では大きな改善が見られなかった」。メーカーが卸へ製品を販売する際の仕切価の水準に適切さを欠く事例があったもようだ。三浦課長は「仏作って魂入れず、では困る」とくぎを刺す。

 高齢化などに伴って医療財政が逼迫(ひっぱく)し、医薬品産業に関わる企業の多くは厳しい経営環境に置かれている。そうした中でも各社が少しずつ歩み寄り、薬の安定供給体制を堅持できるかが試される。

 

(文=斎藤弘和)
日刊工業新聞2018年11月15日

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