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デジタルファーストが霞が関の「常識」覆す
経済界のトップが自由闊達な議論を繰り広げることで知られる経済同友会の夏季セミナー。軽井沢を舞台に今年、こんなやり取りが繰り広げられた。
「政府がこれまで推進してきたデジタル・ガバメントは、結果として行政の効率化や国民の利便性向上につながっていない。行政手続きのオンライン利用率で日本は経済協力開発機構(OECD)加盟国中、最下位から2番目ではないか」(日本アイ・ビー・エムの橋本孝之名誉相談役)。
「国と地方合わせて年間48億件の行政手続きが存在するが、オンラインで処理されたのは約57%にとどまる。デジタル・ガバメント実現には何が必要か」(住友林業の市川晃社長)。
こうした問題提起に対し、議論ではデジタル化以前に業務改革やデータの標準化といった課題があると指摘する意見や改革を担うIT専門人材の必要性、そもそもシステムベンダーに依存した開発体制に問題があるといった声が上がった。
ANAホールディングスやみずほフィナンシャルグループなどで社外取締役を務める小林いずみ氏はこう語る。「(行政サービスのユーザーにとって)利便性の低さの原因として『今の仕事の仕方やプロセス』を前提にシステムを構築しようとする点がある。仕組みを置き換える発想が必要だ」
国民や企業にとって利便性の高い行政サービスの提供と効率的な業務の実現―。まさにこうした新たな「発想」の実現へ向け、経済産業省が発足した「デジタルトランスフォーメーションオフィス(DX室)」。当面の大きなミッションは、2020年度に他省庁も含めた利用を目標とする「法人共通認証基盤」、「補助金申請システム」の開発と、同じく20年度の本格運用を目指す「中小企業支援プラットフォーム」の構築だ。
一連の施策を担うDX室は、経産省CIOをヘッドに、省内の関連部署が連携する体制を整備。業務プロセスの見直しからシステム化、データの利活用までの仕組みをトータルでデザインする推進体制を構築している。
民間のITシステム開発やコンサルティング経験者をチーム内に迎え、行政官とIT専門家のハイブリット体制を築いているのも特徴のひとつである。プロジェクトマネージャーを転職支援サイトで募集したのも中央省庁としては異例で、IT業界では話題を呼んだ。
従来手法の延長線上であれば、その施策を担当する部署のみが施策立案から開発まで担うことになっただろう。ところが今回は、DX室が省内全体のデジタル戦略およびその実装を主導。行政サービスのデジタル化やデータ利活用の環境整備でそれぞれの施策担当課と連携するとともに、職員のバックオフィス業務の効率化も同時に推進する。
霞が関の「常識」を覆す、一連の取り組みの背景には、ビジネス環境やテクノロジーがめまぐるしく変化するのに伴って、システムの開発思想が大きく変わりつつある実情もある。それは「できるところから作る」考え方。ITの世界で言うところの「アジャイル開発」と呼ばれる開発思想である。
「機敏」を意味する「アジャイル」は、初めにシステム設計を定め、行程通りに開発を行っていく従来の「ウオーターフォール開発」とは対照的に、必要となる機能について企画から開発を短期のサイクルで回し、テストしながら機能を追加、改善していく発想だ。小さくスタートすることで、大きな失敗を回避しながら望ましいシステムを目指す開発手法である。
こうした開発は、施策立案者とITの専門知識を持ったプロジェクトマネージャーが一体となって推進しなければ実現は困難だ。そこでDX室では、前述のような推進体制を採用したのである。
改革は、まだスタートラインに立ったにすぎない。「小さく始め大きく育てる」―。失敗から学び改善するプロセスを繰り返す。ユーザーにとって真に使いやすいものを追求するカルチャーをDXオフィスから醸成することは、デジタル化推進はもとより、経産省のあり方そのものの変革へ向けた試金石でもある。
「政府がこれまで推進してきたデジタル・ガバメントは、結果として行政の効率化や国民の利便性向上につながっていない。行政手続きのオンライン利用率で日本は経済協力開発機構(OECD)加盟国中、最下位から2番目ではないか」(日本アイ・ビー・エムの橋本孝之名誉相談役)。
「国と地方合わせて年間48億件の行政手続きが存在するが、オンラインで処理されたのは約57%にとどまる。デジタル・ガバメント実現には何が必要か」(住友林業の市川晃社長)。
こうした問題提起に対し、議論ではデジタル化以前に業務改革やデータの標準化といった課題があると指摘する意見や改革を担うIT専門人材の必要性、そもそもシステムベンダーに依存した開発体制に問題があるといった声が上がった。
ANAホールディングスやみずほフィナンシャルグループなどで社外取締役を務める小林いずみ氏はこう語る。「(行政サービスのユーザーにとって)利便性の低さの原因として『今の仕事の仕方やプロセス』を前提にシステムを構築しようとする点がある。仕組みを置き換える発想が必要だ」
トータルでデザインする
国民や企業にとって利便性の高い行政サービスの提供と効率的な業務の実現―。まさにこうした新たな「発想」の実現へ向け、経済産業省が発足した「デジタルトランスフォーメーションオフィス(DX室)」。当面の大きなミッションは、2020年度に他省庁も含めた利用を目標とする「法人共通認証基盤」、「補助金申請システム」の開発と、同じく20年度の本格運用を目指す「中小企業支援プラットフォーム」の構築だ。
一連の施策を担うDX室は、経産省CIOをヘッドに、省内の関連部署が連携する体制を整備。業務プロセスの見直しからシステム化、データの利活用までの仕組みをトータルでデザインする推進体制を構築している。
民間のITシステム開発やコンサルティング経験者をチーム内に迎え、行政官とIT専門家のハイブリット体制を築いているのも特徴のひとつである。プロジェクトマネージャーを転職支援サイトで募集したのも中央省庁としては異例で、IT業界では話題を呼んだ。
従来手法の延長線上であれば、その施策を担当する部署のみが施策立案から開発まで担うことになっただろう。ところが今回は、DX室が省内全体のデジタル戦略およびその実装を主導。行政サービスのデジタル化やデータ利活用の環境整備でそれぞれの施策担当課と連携するとともに、職員のバックオフィス業務の効率化も同時に推進する。
できるところから作る
霞が関の「常識」を覆す、一連の取り組みの背景には、ビジネス環境やテクノロジーがめまぐるしく変化するのに伴って、システムの開発思想が大きく変わりつつある実情もある。それは「できるところから作る」考え方。ITの世界で言うところの「アジャイル開発」と呼ばれる開発思想である。
「機敏」を意味する「アジャイル」は、初めにシステム設計を定め、行程通りに開発を行っていく従来の「ウオーターフォール開発」とは対照的に、必要となる機能について企画から開発を短期のサイクルで回し、テストしながら機能を追加、改善していく発想だ。小さくスタートすることで、大きな失敗を回避しながら望ましいシステムを目指す開発手法である。
こうした開発は、施策立案者とITの専門知識を持ったプロジェクトマネージャーが一体となって推進しなければ実現は困難だ。そこでDX室では、前述のような推進体制を採用したのである。
改革は、まだスタートラインに立ったにすぎない。「小さく始め大きく育てる」―。失敗から学び改善するプロセスを繰り返す。ユーザーにとって真に使いやすいものを追求するカルチャーをDXオフィスから醸成することは、デジタル化推進はもとより、経産省のあり方そのものの変革へ向けた試金石でもある。