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ダウン寸前の老舗寿司屋、粘りの交渉が生んだ復活劇

【連載】抜本再生のカルテ(中)
**老舗の寿司店
 今回は、私が実際に再生支援を行った企業について、その経緯を簡単に説明しておきたい。なお、さまざまな関係者が絡む案件でもあるので、具体的な社名は伏せ、内容も、一部、脚色してあることをご了承いただきたい。

 A寿司は、100年近い歴史を持つ老舗だ。しかし、伝統だけに甘んじることなく積極的な事業拡大を続け、現在では全国に30店舗以上を展開するまでに至っている。栄枯盛衰が激しい飲食業界においてはまれな存在だろう。

 しかし、今から約20年前、そんなA寿司が倒産・廃業を覚悟する状況にまで追い込まれていた。最大の原因はバブル期に行った過剰な投資で、本業とはまったく関係のないオフィスビル経営などに乗り出して失敗した結果、大きな債務超過を抱えてしまうのである。金利と借入金の返済が経営を圧迫し、ついには、日々の仕入れにも困るほどで、私たちのところに相談に来られたときには、まさにダウン寸前という状態だった。

 しかし救いだったのは、メーンバンクである都市銀行が諦めていなかったことだ。そもそも中小企業再生支援協議会を紹介したのも彼らであり、再生の可能性を探っていたのである。

不良債権処理


 経営陣からの要望はたったひとつ、代々続く「のれん」を守りたいということだった。そのためには社長は全財産をなげうつ覚悟でいるので、「従業員の雇用の確保」と「息子への経営の後継」を再生の条件に挙げてきた。

 改めて調べてみると、たしかに経営状況はかなり逼迫(ひっぱく)していたものの、本業である寿司店は十分な利益をあげている。したがって、不良債権の処理ができれば再生の道が開けそうだ。

 そのような方針で金融機関との交渉に臨んでもらい、私たちは具体的な再生計画の策定をサポートしていった。幸い、サブバンクも含めてすべての債権者が再生には反対しなかったものの、だからといって、すぐにうまくいくとは限らない。この時は、不良債権が発生した原因をできるだけメーンバンクに押しつけ、自分たちの負担を減らそうという動きで各行の足並みがそろわず、一時期、経営者も再生を諦めたほどだ。しかし私は、銀行が話し合いに応じている限り、解決への道筋はあると信じていた。

再生は成功


 その後、いくつかの「事件」はあったものの、A寿司の経営陣が仕入れ先に頭を下げて価格の引き下げをお願いするなどの再建策が評価され、すべての金融機関が債権放棄に応じて再生は成功する。

 さらに、経営を引き継いだ若い新社長の活躍により新形態の店舗を展開するなどして、今では日本を代表する全国展開の寿司店のひとつになっているのである。
(文=藤原敬三)
【筆者略歴】東京都中小企業再生支援協議会顧問、中小企業再生支援全国本部顧問 
 72年(昭47)大阪府立北野高校卒。76年神戸大経卒、同年第一勧業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)入行。支店長、審査部企業再生専任審査役などを歴任。03年3月みずほ銀行を退職し、東京都中小企業再生支援協議会統括責任者、顧問、07年4月より全国本部統括責任者。17年4月より現職。主な著書に「会社は生き返る カリスマドクターによる中小企業再生の記録」(日刊工業新聞社刊)など。
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藤原氏
日刊工業新聞2018年11月1日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
次回は11月7日付掲載予定です。

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