多額の研究費を必要としない“スモールサイエンス”、文科省が拡大する理由
若手向け研究支援事業「ACT-X」を立ち上げへ
多額の研究費を必要としない「スモールサイエンス」のマネジメントが新しい段階に入ろうとしている。1人当たり200万円程度の予算を若手に配り、現役のトップ研究者が十数人集まって連携しながら監督する。文部科学省はこのマネジメント方式を2019年度に拡大させる計画だ。単純な“バラマキ”とは違い、数億円の予算を生きた施策にする。監督役にとっては若手に投資する研究領域であると示す試金石になる。
単年度で数百億円を必要する加速器や宇宙研究などのビックサイエンスと対比し、研究室規模で分散的に進める研究はスモールサイエンスと呼ばれる。普通の研究者にとって数百万円の予算があれば研究は続けられる。文科省は19年度に「ACT―X」という若手向け研究支援事業を立ち上げる。予算は1億7550万円と小さいが1人200万円程度で3領域、約90人に配分する計画だ。
資金配分機関にとっては予算を細かく配れば配るほど管理の手間が膨らむ。若手への指導を伴えば、監督役に据える優秀な研究者の時間をいたずらに奪ってしまう。
だが文科省には成功体験がある。16年度から始めた「ACT―I(情報と未来)」が研究者からも企業からも評価が高かった。毎年30人の若手を採択し、12人の現役研究者が監督役に就いた。特徴は研究テーマを広大な領域から集めた点だ。
人工知能(AI)技術の基盤となる数理・アルゴリズムから、自動運転などのテクノロジー、情報技術を使った社会科学など、学会では出会わないような研究テーマを選んだ。研究総括を務める後藤真孝産業技術総合研究所首席研究員は「若手がお互いに興味を持って刺激を与えあえる最大限の広さに設定した」と説明する。
これが成功要因だった。通常はテーマ間の連携や管理側の専門性を加味して研究分野を絞り込む。だが領域を最大限広く取ったことで、通常は起こらない相乗効果が表れた。
例えば遊休林の植生をAIで推定する研究では、社会問題や政策動向を踏まえて技術の位置付けを説明することが欠かせない。このストーリー構成を、自分の研究領域に没入しがちな数理やアルゴリズムの基礎研究者が学んだ。反対に応用側の研究者は基礎研究の最先端を学べた。監督役を務めた国立情報学研究所の河原林健一教授は「他の分野の若手が、どう研究を組み立て、海外に認めさせているか。しっかり理解することが大切だ」と若手を鼓舞する。
研究領域を広げすぎると研究が発散するリスクがある。これを防ぐために12人の監督役が集められた。みな現役のトップ研究者だ。河原林教授は「監督役にとっても本当に刺激が多い」と振り返る。若手と監督役、双方の収穫が大きかった。
ACT―Xはまだ研究領域が決まっていない。文科省は「良くも悪くも人に依存する。研究者たちと規模や体制を練っていく必要がある」と思案する。研究者にとっては小さな予算でも生きた施策にできる分野であると示すチャンスになる。
(文=小寺貴之)
単年度で数百億円を必要する加速器や宇宙研究などのビックサイエンスと対比し、研究室規模で分散的に進める研究はスモールサイエンスと呼ばれる。普通の研究者にとって数百万円の予算があれば研究は続けられる。文科省は19年度に「ACT―X」という若手向け研究支援事業を立ち上げる。予算は1億7550万円と小さいが1人200万円程度で3領域、約90人に配分する計画だ。
資金配分機関にとっては予算を細かく配れば配るほど管理の手間が膨らむ。若手への指導を伴えば、監督役に据える優秀な研究者の時間をいたずらに奪ってしまう。
だが文科省には成功体験がある。16年度から始めた「ACT―I(情報と未来)」が研究者からも企業からも評価が高かった。毎年30人の若手を採択し、12人の現役研究者が監督役に就いた。特徴は研究テーマを広大な領域から集めた点だ。
人工知能(AI)技術の基盤となる数理・アルゴリズムから、自動運転などのテクノロジー、情報技術を使った社会科学など、学会では出会わないような研究テーマを選んだ。研究総括を務める後藤真孝産業技術総合研究所首席研究員は「若手がお互いに興味を持って刺激を与えあえる最大限の広さに設定した」と説明する。
これが成功要因だった。通常はテーマ間の連携や管理側の専門性を加味して研究分野を絞り込む。だが領域を最大限広く取ったことで、通常は起こらない相乗効果が表れた。
例えば遊休林の植生をAIで推定する研究では、社会問題や政策動向を踏まえて技術の位置付けを説明することが欠かせない。このストーリー構成を、自分の研究領域に没入しがちな数理やアルゴリズムの基礎研究者が学んだ。反対に応用側の研究者は基礎研究の最先端を学べた。監督役を務めた国立情報学研究所の河原林健一教授は「他の分野の若手が、どう研究を組み立て、海外に認めさせているか。しっかり理解することが大切だ」と若手を鼓舞する。
研究領域を広げすぎると研究が発散するリスクがある。これを防ぐために12人の監督役が集められた。みな現役のトップ研究者だ。河原林教授は「監督役にとっても本当に刺激が多い」と振り返る。若手と監督役、双方の収穫が大きかった。
ACT―Xはまだ研究領域が決まっていない。文科省は「良くも悪くも人に依存する。研究者たちと規模や体制を練っていく必要がある」と思案する。研究者にとっては小さな予算でも生きた施策にできる分野であると示すチャンスになる。
(文=小寺貴之)
日刊工業新聞2018年10月31日